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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と星の海 その05

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 第一の惑星


 真っ青な世界。
 転移門を潜った先には、その色しか存在していなかった。

 あらゆるものが水に溶けたそこは、俺たち来訪者を拒む荒れっぷりを見せる。
 俺とソウは、そんな世界をはるか彼方──超高度から拝んでいた。


「というか、広いな……あと寒い」

「儂は何も感じぬが」

「龍と人のスペックを同じに考えるな。まあ魔法でどうにかするか──“快適膜エアコンフィルム”」

「おおっ、儂にもか……うむ、耐えられるとはいえ、やはり良い環境の方が心地もよく思えるのう」


 武具っ娘たちが持つスキル(快適調整)を部分的に再現しているのだが、設定した通りの環境を対象の周囲に展開できる魔法だ。

 能力値的に寒さにも耐性があるはずの俺に伝わる冷感、魔法の副次効果で分かった周囲の温度はマイナス200℃に達していた。


「これ、来たヤツすぐに死ぬよな。さて、なぜかある光の階段……これを降りていけば、目的地に辿り着くのか?」

「…………むっ、現れたようだぞ」

「ああ、来たな……クジラだけど」


 しかも、なぜか空を泳いでいる。
 鑑定眼で視える名は『星鯨スターホエール守護者ガーディアン』というもので、たしかにここに居る魔物だなぁと感じた。

 問題はそのレベル。
 生物の限界到達点である250を誇り、その数が一体ではないということだ。


「視えるだけでも五体は居るな」

「ふむ……では主様ぬしさま、行ってこよう」

「あいよっ、気を付けろよ」

「誰に言っておるのかのう? 儂にそのような言葉は不要じゃよ」


 改めて、ソウは体を人から龍の姿へ戻して光の階段から飛び立った。
 突如現れた巨大な龍を見たクジラたちは、いっせいにソウの下へ向かっていく。


「じゃあ、あとは任せたぞー」

「うむ、何かあったらすぐに呼ぶのじゃぞ。ただちに殲滅して駆けつける」

「さすがはソウ、期待するぞ」


 もっとも早く近づいてきたクジラは、右前足を撃ち込まれたことで後方へ吹っ飛び仲間たちと衝突する。

 それが完全に警戒させる引き金となったのか、クジラたちは瞳を真っ赤に輝かせた。


「さて、俺は目的地に行くとしますか」


 ……こういうとき、女性を放置してゴールへ行く奴ってどういう評価をされるのかな?
 百歩譲って、構わず行け的なイベントがあればギリギリセーフといったところか。


「けどさあ、俺にいったいどうしろと?」


 うん、数歩歩いている内にクジラは残り一体となっていた。
 少なくとも俺が目的地へ着くよりも先に、ソウが追いついてくるに違いない。


「──なんて言っている間に、もう終わったか。しかもお土産まで……」

「主様、すべて持ってきたが……邪魔であったか? ならば一部を片付けるが……」

「いや、サクッと〆ておいた方がいいだろうからそれでいい。“不可視の手ハンド・オブ・ジュピター”、でやるから少し上に投げてくれ」

「うむ──ほいやっと」


 空に飛ばされたクジラたちを魔手が掴んでいき、宙で固定していく。
 そこに具現魔法で巨大な包丁を創造し、異なる魔手で握って解体を始める。


「……なんか、シュールな光景だな」

「たしかに、長い時を生きている儂でもこのような光景を見たことはないぞ。空を飛ぶクジラはともかく、それらが宙で解体されているなど……」

「ちょっと集中力が必要にはなるけどな。あとで刺身にして食ってみるか……ああでも、【暴食】用のヤツはともかく、他はちゃんと調理しないと危険だな」


 喰べた対象を解析し、保有するスキルを模倣する能力を持つ【暴食】。
 その対象とは新鮮な方が成功率が上がるので、生で食べておいた方がいい。


「っと、これでまずは一匹完成だ。ソウ、いちおう“殺菌ステアライズ”はしたから、ソウはそっちのヤツを食べろよ」

「主様はそのまま食べるのかのう?」

「もしかしたら寄生虫が入っていて、そいつがスキルを持っていれば儲けものだしな。損は無いし、どうせ胃袋で完全に消滅する」

「……そうじゃったな」


 スキルによって完全消化が可能なため、刺身を食べても支障はない。
 子供たちが食べるなら極力危険を避けるべきだが……うん、ソウだし食べさせよう。


「調味料も出すか? ああいや、それは眷属といっしょにやりたいな。悪いなソウ、今はそのまま食ってくれ」

「いや、構わぬよ。主様は相変わらず凄いのう、加工をせずともこのような旨さを引き出すのか。すべてを生で食らう獣にも、このようなことができればいいのにのう」

「生産神の加護が告げるんだが、捌き方で味が良くなるらしいんだ。俺はそのやり方を忠実に再現しただけだぞ。まあ、感覚的には一流の料理人ならできる技巧だな」

「その一流にしかできない技を、己の手ではなく操作した無数の魔手で、さらに一体ではなく五体も同時にやるのは主様だけじゃぞ」


 まあ、たしかに“不可視の手”を使えるのは俺(と眷属)だけだからな。
 もっとも効率のいい魔手生成がこの能力なので、他者にはやりがたいと思う。


「さて、俺も食べるか…………うん、ソウが言った通りちゃんとイケるな。俺、あんまり魚は好きじゃないんだが……こっちの世界のヤツはどれもこれも旨いからイイ」


 しばらくの間はこれをツマミに、迷宮を攻略していこうか。
 文字通り、味気ないのは嫌だしな。


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