1,343 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と星の海 その04
しおりを挟む「あれが『超越種』か……」
星の海を泳ぐ巨大なクジラ。
神眼で把握したソレは、まさしくそう認識できる存在だった。
宇宙という重力の軛が失われた場所で、なぜ自在に泳げてクジラの形を維持しているのか……なんて無粋な質問もあるが、今は置いておくとして。
「なんか……デカくないか?」
「だいぶ遠くに居るはずなのに、儂らでも確認できておるからのう」
「だんだん近づいている気がするが……お前よりも、デカくないか」
「うむ、デカいのう」
遠近感が狂うそのサイズ感、高層ビルに匹敵するソウの全長をはるかに凌駕すると遠くからでも分かってしまう。
クジラは悠々とヒレを動かし、一掻きごとにこちらへ近づいてくる。
「……あの、ソウさんや。なんだかあのクジラ、口を開いている気がするんだが」
「主様よ、儂にも同じように見えるぞ」
「……空気の無い世界のはずなのに、しかも固定した次元がそれごと呑み込まれ始めている気がするんだが?」
「主様よ、間違っておらぬぞ」
それはさながらブラックホール。
全容を把握できていないその巨大な口が開かれると、的確に俺たちの居る場所を吸い込もうと吸引力を上げてくる。
負けじと魔力を籠めて抵抗しているが、その場から逃れることもできずに座標を維持することしかできない。
だがクジラは近づいてきている。
片方が止まっていて、もう片方が動いているのなら……結果は瞭然。
「「……あっ」」
呑み込まれるわけでも吸い込まれるでもなく、俺たちは──食べられたわけだ。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「──主様、起きておるか?」
「んっ、んぅ……ソウ、何が起きたんだ?」
「儂らはクジラ型の『超越種』に捕食され、おそらくヤツの体内に居る。規模が広すぎて詳細は分からぬが」
「……そうか。あともう一つだけ、訊いておきたい──俺は何に埋もれている?」
視界は暗く、何かに挟まれる頭。
体も背中からギュッと締められるような感覚があり、なぜか自力では脱出できないような状態になっている。
そして何より、俺の耳元へ囁くように声を掛けてきたソウ。
あとは……うん、触ったことのある感触な気がするんだよ。
「もちろん、儂の胸の中であるが……それがどうかしたかのう?」
「主人公とかだったら、そりゃあ顔を真っ赤にして反応するんだろうが……口を動かした時の違和感とか、ちょっといい匂いがして分かっていたからな。とりあえず、放せ」
「ふむ……断ると言ったら?」
「…………なあ、聞こえなかったのか? 俺は、放せと、言ったんだが?」
傍から見れば、顔を埋めた男が格好の付かないことを言っているだけだ。
だがまあ、改めて辺りを索敵しても気配は感じないので問題ないだろう。
俺が自力で出れなかったのも当然だ。
ソウは眷属の中でもっとも能力値が高い眷属、そして俺は彼女に正面から勝利したことが一度も無い。
「ほう、ならばどうするのかのう?」
「んー……とりあえず押すぞ」
「押すとは……まさ──ッ!」
「俺を拘束しているお前に、抵抗することはできないからな……眷属にマッサージをする間に覚えた、気持ちいいけど激痛が走るツボでも押していこう」
視ることに長けている神眼を持つ俺だからこそ、今はそれを行うことができる。
ついでにエネルギーの流動も把握できるため、それを調律することでより効果を高めている……それが激痛の理由でもあるが。
「これは防御無視だからな……予め気でコーティングしていたならともかく、触れた状態で妨害できると思うなよ」
「~~~~~~ッ!」
「おっと、緩んだか。まったく、あんまり手間を掛けさせないでくれ……よ……」
拘束から逃れ、ようやく視界を確保できた俺……そして見たのは、二つのモノ。
一つは広がる不思議な世界。
光の道が辿るのは、惑星を模った転移門が放つ銀河の瞬き。
それぞれが鈍く光り、輝く瞬間を待ち侘びているようでもあった。
もう一つは……目の前のドM。
何がトリガーとなったのか、顔を上気して荒い息を吐いている。
そして、何やらモジモジと下半身を動かしていた。
「……綺麗な星だな」
「儂は無視かのう!?」
「そっちの方がいいだろう?」
「うむ、ご褒美じゃ!」
どうしようもない変態はともかく、改めて未完成な星々の世界を眺める。
見ただけでなんとなく理解できたのだが、それもじっくり観察すれば納得できた。
「ああ、ここは迷宮なのか」
「どういうことかのう」
「そのまんま、言った通りだ。この空間は巨大な迷宮で、あそこの星の一つひとつもまた個別の迷宮になっている。まあ見た感じ、全部踏破すれば脱出できるんじゃないか?」
「なるほど、そういうことであったか」
俺がもともと【迷宮主】であり、眷属に同業者がたくさんいるからこそ、それを見分ける感性が身に付いたのかもしれない。
……もっともな理由は、迷宮探知スキルを持っているからだが。
「要するにだ、あのクジラは迷宮を内包した『超越種』だったわけだ。アイドロプラズムが生と死なら……さしずめあのクジラは、迷宮を司っているのかもな」
さて、それはともかくこのままだと帰ることもできないだろう。
未来永劫帰れないというわけでもないだろうし、どこかの迷宮に入ってみるか。
□ ◆ □ ◆ □
宇宙への到達、『宙艦』との接触を確認
超越クエスト『星海の闇、遍く輝きは無限を照らす』が発生しました
このアナウンスは完全秘匿されます
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる