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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と星の海 その04

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「あれが『超越種スペリオルシリーズ』か……」


 星の海を泳ぐ巨大なクジラ。
 神眼で把握したソレは、まさしくそう認識できる存在だった。

 宇宙という重力の軛が失われた場所で、なぜ自在に泳げてクジラの形を維持しているのか……なんて無粋な質問もあるが、今は置いておくとして。


「なんか……デカくないか?」

「だいぶ遠くに居るはずなのに、儂らでも確認できておるからのう」

「だんだん近づいている気がするが……お前よりも、デカくないか」

「うむ、デカいのう」


 遠近感が狂うそのサイズ感、高層ビルに匹敵するソウの全長をはるかに凌駕すると遠くからでも分かってしまう。

 クジラは悠々とヒレを動かし、一掻きごとにこちらへ近づいてくる。


「……あの、ソウさんや。なんだかあのクジラ、口を開いている気がするんだが」

「主様よ、儂にも同じように見えるぞ」

「……空気の無い世界のはずなのに、しかも固定した次元がそれごと呑み込まれ始めている気がするんだが?」

「主様よ、間違っておらぬぞ」


 それはさながらブラックホール。
 全容を把握できていないその巨大な口が開かれると、的確に俺たちの居る場所を吸い込もうと吸引力を上げてくる。

 負けじと魔力を籠めて抵抗しているが、その場から逃れることもできずに座標を維持することしかできない。

 だがクジラは近づいてきている。
 片方が止まっていて、もう片方が動いているのなら……結果は瞭然。


「「……あっ」」


 呑み込まれるわけでも吸い込まれるでもなく、俺たちは──食べられたわけだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???


「──主様、起きておるか?」

「んっ、んぅ……ソウ、何が起きたんだ?」

「儂らはクジラ型の『超越種』に捕食され、おそらくヤツの体内に居る。規模が広すぎて詳細は分からぬが」

「……そうか。あともう一つだけ、訊いておきたい──俺は何に埋もれている?」


 視界は暗く、何かに挟まれる頭。
 体も背中からギュッと締められるような感覚があり、なぜか自力では脱出できないような状態になっている。

 そして何より、俺の耳元へ囁くように声を掛けてきたソウ。
 あとは……うん、触ったことのある感触な気がするんだよ。


「もちろん、儂の胸の中であるが……それがどうかしたかのう?」

「主人公とかだったら、そりゃあ顔を真っ赤にして反応するんだろうが……口を動かした時の違和感とか、ちょっといい匂いがして分かっていたからな。とりあえず、放せ」

「ふむ……断ると言ったら?」

「…………なあ、聞こえなかったのか? 俺は、放せと、言ったんだが?」


 傍から見れば、顔を埋めた男が格好の付かないことを言っているだけだ。
 だがまあ、改めて辺りを索敵しても気配は感じないので問題ないだろう。

 俺が自力で出れなかったのも当然だ。
 ソウは眷属の中でもっとも能力値が高い眷属、そして俺は彼女に正面から勝利したことが一度も無い。


「ほう、ならばどうするのかのう?」

「んー……とりあえず押すぞ」

「押すとは……まさ──ッ!」

「俺を拘束しているお前に、抵抗することはできないからな……眷属にマッサージをする間に覚えた、気持ちいいけど激痛が走るツボでも押していこう」


 視ることに長けている神眼を持つ俺だからこそ、今はそれを行うことができる。

 ついでにエネルギーの流動も把握できるため、それを調律することでより効果を高めている……それが激痛の理由でもあるが。


「これは防御無視だからな……予め気でコーティングしていたならともかく、触れた状態で妨害できると思うなよ」

「~~~~~~ッ!」

「おっと、緩んだか。まったく、あんまり手間を掛けさせないでくれ……よ……」


 拘束から逃れ、ようやく視界を確保できた俺……そして見たのは、二つのモノ。

 一つは広がる不思議な世界。
 光の道が辿るのは、惑星を模った転移門が放つ銀河の瞬き。
 それぞれが鈍く光り、輝く瞬間を待ち侘びているようでもあった。

 もう一つは……目の前のドM。
 何がトリガーとなったのか、顔を上気して荒い息を吐いている。
 そして、何やらモジモジと下半身を動かしていた。


「……綺麗な星だな」

「儂は無視かのう!?」

「そっちの方がいいだろう?」

「うむ、ご褒美じゃ!」


 どうしようもない変態はともかく、改めて未完成な星々の世界を眺める。
 見ただけでなんとなく理解できたのだが、それもじっくり観察すれば納得できた。


「ああ、ここは迷宮ダンジョンなのか」

「どういうことかのう」

「そのまんま、言った通りだ。この空間は巨大な迷宮で、あそこの星の一つひとつもまた個別の迷宮になっている。まあ見た感じ、全部踏破すれば脱出できるんじゃないか?」

「なるほど、そういうことであったか」


 俺がもともと【迷宮主ダンジョンマスター】であり、眷属に同業者がたくさんいるからこそ、それを見分ける感性が身に付いたのかもしれない。

 ……もっともな理由は、迷宮探知スキルを持っているからだが。


「要するにだ、あのクジラは迷宮を内包した『超越種』だったわけだ。アイドロプラズムが生と死なら……さしずめあのクジラは、迷宮を司っているのかもな」


 さて、それはともかくこのままだと帰ることもできないだろう。
 未来永劫帰れないというわけでもないだろうし、どこかの迷宮に入ってみるか。


  □   ◆   □   ◆   □

 宇宙への到達、『宙艦』との接触を確認

 超越クエスト『星海の闇、遍く輝きは無限を照らす』が発生しました

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