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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と星の海 その03

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「ステータスが指輪で視れなくなった……つまり、システムが封じられたか」

「他に変化はあるかのう?」

「いや、あくまでシステムだけ……祈念者のために追加されたものが削がれたみたいだ。宇宙で死んだら、通常よりも重いペナルティがありそうだな。そのまま飛んでくれ、その間に鑑定眼で視てみる」

「うむ、承知した」


 スキルがすべて使えなくなるのであれば、ステータスシステムが完全に機能を停止しているだろうし……俺はもう死んでいるはず。

 だが、今なお俺は生きているし、受動パッシブスキルが機能している感覚もまだあった。
 なのでソウに伝えたような考察をし、現状把握のために情報を求めるのだ。


「……加護が機能停止している。あくまで世界それぞれの神の加護だからか? あっ、でも祝福……それと邪縛は残っている。別世界でも使えるようになっているみたいだな」

主様ぬしさま、スキルの方はどうじゃ?」

「武技とか魔法とか、リストが無くなっているみたいだ。全部手動でやればいいだろうけど、補正は無くなっているな。職業は……就けているみたいだぞ」

「主様には関係の無いことじゃがな」


 世界のシステムを隔てるオゾン層を経ても残る邪縛によって、俺の職業は変更も追加もできないため、リセットされてしまった今の俺の職業欄は空っぽだ。

 一方、ソウは『竜闘士』という竜人族が就きやすい職業に就いている。
 選ぶ意思か選んでくれる者さえいれば、人族以外の種族でも就けるのが職業だ。


「身力値と能力値に変化は無し。それは飛んでいるソウがよく分かっているか」

「うむ。主様の熱いモノで滾っている身に、変化は感じれぬのう」

「……装備も問題なさそうだな。よし、中間圏も突破しそうだな。そろそろ熱圏だから魔法を施すぞ──“元素保膜アストロフィルム”」

「魔法の発動も確認できたみたいじゃな……それにしても無視とは、やはり主様は──」


 固有魔法である統属魔法。
 七大基礎魔法をすべて操ることができるこの魔法によって、それらすべてを集束することで宇宙でも活動できるようにしておく。

 ちなみに眷属謹製の魔法のため、俺は原理がチンプンカンプンだ。
 風が呼吸的なモノを補っているとは思うのだが……火や土って、何をするんだろうか?


「──俺の世界だと、このあと熱圏に入るとそこはもう宇宙だ。本当だととっくの昔に呼吸困難になったり寒くなっているけど……ソウは気にならないよな」

「竜族はもともと他の種族よりもしぶとくできておる。中でも龍族は肉体の強さを高めておる。古龍にならずとも、先ほどの層までであれば来ることができるぞ」

「……これが、人族との隔てられた差かぁ」


 蟻では象に勝てないように、同じレベルでも人族よりも竜族の方が優れている。
 勝つか負けるかではない、たとえばここに放り出されたなら人族は死しか選べない。

 まあ、だからこそ地球の人間たちは科学という法則を手中にして、星を食い物にあらゆることを成してきたんだけど。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「すぐに着いたなぁ……うわっ、凄い綺麗」

「主様の魔導にも美しさはあったぞ」

「ありがとう。けどさぁ、やっぱり本物は凄いよ……これが宇宙か」


 広がる満天の星々。
 雲を掻き分け辿り着いたそこは、数え切れないほどの輝きがその存在を示す幻想的な場所であった。

 システムが使えないため[マップ]による名称確認などはできない。
 暫定的に『宇宙』としておくとして、辺りに生命体の反応が無いか探っておく。


「……特に生き物は無いみたいだな。ソウ、お前の感覚はどうだ?」

「同じく、気配は感じ得ぬ。例のモノはいったいどこにおるのやら」

「『超越種スペリオルシリーズ』。まあ来ないなら、来ない方が助かるからいいんだけどさ。ソウ、しばらくはまったりして様子を見ておきたい。それで構わないか?」

「うむ。せっかくの主様との逢瀬じゃ──共に星を見るのも、また乙であるか」


 ポンッと魔力で身を包み、人の形に姿を押さえ込んだソウ。
 人化したことで戦闘力は著しく低下するものの、技巧が上がるのであまり差異は無い。 
 そして何より、触れあうことができる……これ以上のメリットがあるのだろうか?


「しかしまあ、宇宙だからぷかぷかする感覚があるな。“無重力ゼログラビティ”で慣れておかなかったら、恥ずかしい動きをしたかもしれない」

「主様のそういった姿は、ぜひ拝んでみたいモノ……それを認識した眷属はおるのか?」

「……共有はさせねぇよ。これは最初の方に済ませたことだから、誰も知らないことだ」

「むぅ……それは残念じゃのう」


 なんてことを話している間に、無重力空間に関する情報を理解していく。

 宇宙に魔力は皆無で、漂っているのは通常では扱うことのできない次元属性のみ。
 それ以外は無がほんの少し、火などの属性がある属性はいっさいない。


「とりあえず、これを使えばいいってことかな──“次元固定フィックス”」

「! 主様、急に行われるとさすがに受け身が取りづらいのじゃが……」

「ああ、悪い悪い。だがまあ、これで重力を擬似的に再現することもできた。星を見るのもより好い環境でって感じだな」

「…………うむ、そうは言っておられるようじゃがのう」


 少々制御に苦労する次元魔法、しかも補正が宇宙空間では皆無であるため意識が完全にそちらへ向いていた。

 だからこそ、ソレに気づくのに遅れる。
 周りを警戒していたソウは、逆にソレを見つけてくれたのだ。


「……鯨?」

「うむ、鯨じゃのう」


 暗い星の世界、その奥から悠々と泳いでくるそれは──たしかに鯨の形だった。


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