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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と星の海 その01
しおりを挟む終焉の島 上空
かつてソウがその身を休めていた、雲の大地で構成された空の世界。
燦々と照り付ける太陽の光を浴びる俺は、ただただ頭を抱えていた。
「また戻ってきたな……うん、嫌な予感もするし、ここで釣りをして終わりにするってことで納得しないか?」
「主様、約束を破るのかのう?」
「うぐっ……分かったよ。というか、お前独りでも行けたんじゃないのか?」
「うむ、可能ではあるが……興味が湧かぬゆえ何もせずにいたのじゃ。そして、あの話を聞いて試したいと思った。主様と共に、あの彼方へ向かいたいと感じたのじゃ」
そう言ってソウが見つめる先は、はるか上で輝く太陽──そして、それが存在する無限に広がる大世界。
「──まさか、宇宙まで飛んでみたいと言われるとは思ってもいなかった。まだ技術的な面が足りなくて、宇宙は行かないでいたんだが……たしかに、お前ならできるよな」
「うむ。主様の眷属となり、無軌道な力を定めることもできた。魔力を膜のように張れば活動もできるじゃろう」
「……いやまあ、お前は自前の肺活量でどうにかなるだろうし、俺も酸素不要スキルを使えばどうにかなるけどさ。分かっているんだろう、たぶんアレが居るって」
リュシルが資料を漁って見つけだしたその存在は、俺たちが向かう星々の海を自在に泳いでいるんだとか。
その強さはつい先日の『狂邪真龍』以上のモノ、それは間違いないだろう。
そうあるべきと定められ、はるかな太古から存在するであろうその存在。
「しかしまあ、『超越種』か……これで三人目か三体目との遭遇だな」
「主様が聞き及んだ話では、儂もそうなる可能性があったらしいが……本当かのう?」
「自分の化け物っぷりから察しろ」
「……それを下した主様には、それだけは言う資格がないんじゃろうか?」
いやまあ、分かっているけどさ。
ただし俺個人が戦えば、一瞬で殺されること間違いなしな存在に今ではなっている。
単体で闘う相手としては、間違いなく最強なのがソウだ。
コイツに勝つためには、何かしらの頂に達するか英傑たちが徒党を組む必要があるな。
俺はある意味両方だよな、眷属から力を借り受けての挑戦だったし。
そして何より、あの頃は単純だった……しかし今は、もう普通の手段では勝てない。
「とにもかくにも、お空の上に何があるかまだ分からない。ソウ、魔力を温存したうえで全力を出してくれ」
「うむ、承知した。まずは元の姿に戻るとしようか……それっ」
掛け声と共にソウの肉体は淡く光り、膨大なエネルギーがその身を包んでいく。
抑えこんでいた束縛を解き放ち、彼女は本来の姿を取り戻す。
『……久しく戻っていなかったが、やはり力が漲るのう』
「おい、竜語になってるぞ。しかも古い方」
「……おっと、ついうっかりというやつじゃな。こう、人の言語は意識して使わねば発しづらくてのう」
「そうだな、巨大なドラゴンが自分と同じ言語を話しているって凄い違和感がある」
超弩級の大きさを誇る、白銀のドラゴン。
太陽の光が反射し鱗が輝くその姿は、延々と陽が照る白夜を思わせる美しさを魅せる。
そんな巨大な龍が喉を震わせ、矮小な人族が話す言語を使う。
やっぱり、龍ならテレパシー……つまり念話を使うのが一番だよな。
「それじゃあ、乗るからな」
「うむ、優しく乗ってくれ……ああいや、やはり辛辣に扱うのもまた乙な気も──」
「ああ、はいはい。今回は本当に何が起こるか分からないから、いろいろと装備させるからな。とりあえず、鞍は付けておくぞ」
「……嗚呼、そうして儂は主様に操縦されてしまうのであるか。嗚呼、アア、ああ……実にイイ!」
変態の発言は無視して、生産神の加護で作り上げた巨大な鞍をソウの体に取り付ける。
さすがに巨大な龍を乗りこなすスキルなど持っていないので、鞍で誤魔化したのだ。
具体的には、騎乗スキルの派生スキル──(騎竜)と同じ効果を鞍が発揮している。
竜系の種族に乗ることに特化しており、極めればソウのような古龍にだって乗ることができる……そこに俺の騎乗スキルを重ねて、どうにかソウを乗りこなせるなるわけだ。
「よし、これで準備オッケーだ。違和感とかは無いか?」
「……不思議なほど感じぬ。さすがは主様が作り上げた鞍じゃ。かつてそれを身に付けた天馬などを見たことがあったが、実に窮屈そうじゃったぞ」
「素材的な問題もあるんだろうが、やっぱり対象それぞれに合った形を図らないと違和感が出るんだろうな。俺はソウの体を隅々まで把握してやったけど、普通はそこまでできないだろうし……って、急にどうした?」
「いや……なんでもないぞ」
急に顔を上に向けだしたソウ。
今は龍の状態なので、いったいどういう心境なのかさっぱり分からない。
まあ、ちょうどいいということで鞍に跨りソウへ騎乗する。
手綱なんかは用意していないが、動かしたいなら魔力で指示を送るつもりだ。
「何はともあれ、さあ出発しよう──ソウ、レッツゴー!」
「うむ、レッツらゴーじゃ!」
そして、俺たちは大空へ挑む……。
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