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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と麻薬騒動 中篇
しおりを挟む「ゆ、許してくれ! わ、悪気はないんだ、どうか御慈悲を……!」
「バカだな、おい。助けられない状態になっているから、お前はこうして衛兵に捕まりそうなところに達しているんだ」
とある祈念者が泊まる宿に、領主直属の配下たちを連れて襲撃した。
自分が何をしたのか分かっており、スキルの効果で正直になりやすい男は……頭を垂れて四肢を床に着けている。
「こ、この男が……例の事件を?」
「その先兵だな。職業をわざわざ錬金術に関するモノにしてあるだろう? それは、この男をトカゲのしっぽ切りにするためだ」
「……た、たしかに『錬金術師』です」
「しかも、視えるレベルの隠蔽しか持っていない。敵がそこまで迂闊ならば、もっと早く捕まっていたはずだ」
どういう立場に居るかは、彼らが調べることで判明するだろう。
だが少なくとも、この男を捕まえてもいずれ同じような問題が生じることになる。
「というわけで、この情報を吐いてもらいたいのだが──レシピをいったい、どうやって手に入れた?」
「そ、それは……」
「現実で、ネットで、といった解答ではないだろう? 俺が視た限り、持ち込んだ情報だけで創れるほど簡単な構造じゃなかった。あくまでこの世界でやり取りをして、レシピ再現でも使って作ったのだろう」
レシピを手に入れたアイテムは、対応する生産スキルを使えば自動生成できる。
絶対にSランク品質が作れないというリスクはあるが、一定量のアイテムを確実に作りたいというのであれば、それで充分だ。
「…………」
「沈黙していても、状況はマシにはならないはずだぞ。ほら、さっさと肯定か否定、そのどちらかをしてくれ」
「……そ、それは……」
「真偽を暴く、そういったスキルや魔道具は存在するからな。どちらを言うにせよ、相応の決意を持ってするべきだな──こいつを連れていけ」
俺の言葉に衛兵たちは動きだし、男を連行していく。
どうせすぐに釈放されるだろうが、外部との連絡不可能な状態にするのが目的だ。
「ああ、ついでにそれを拝借させてもらおうか(──“奪憶掌”)」
「ひぃいい! な、なにを!?」
「っと、急に触って悪かったな。まあ、悪意は無いから気にするな」
「……あっ、ああ」
奪ったのはスキル欄から把握できる、例の麻薬の作り方だ。
ただし、あくまで男にとっての作り方なので、それが基礎版なのかは不明。
「……材料が簡単すぎる。なんでったって、こんなアイテムで麻薬ができるんだか」
たった一つを除き、それは初期地点でも手に入るようなアイテムばかり。
つまりそのアイテムが作用し、回復アイテムを麻薬へと昇華させているのだろう。
「けど、知らないな……『悪徳の妙薬』? オリジナルのアイテムなのかもな」
さすがにレシピ内の情報から、そのまま素材の情報まで調べることはできなかった。
しかも素材名は、あくまでレシピに基づいたもの……それが正しいかどうかも微妙だ。
「けど、悪徳か……またか」
界廊で拾った泥を使えば、もしかしたら作れるかもしれないな。
なんてことを考えながら、さらに思考を深めていく。
「町にはもういないだろうな。あーあ、裁きづらいな……ユウがいれば、もう少し情報を集められたか? というか、現実でも探れるヤツがいればいいのに」
麻薬云々という個人イベント染みた出来事だし、知っている者は知っているだろう。
この世界で情報屋を雇ってもいいが、相応に金が掛かる……って、別にイイか。
「金はいくら掛かっても別に良かったな。となると、腕のいい情報屋でも探さないと……今はいいか。これは今後の課題にして、今は別のことを──調査を済ませよう」
情報屋云々はともかく、いい情報源から訊いておくというのはいいアイデアだ。
この世界なら転移系の魔法を使えば、移動もすぐにできる──というわけで動こうか。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの町 ギルドハウス『ユニーク』
「──かくかくしかじか、そんなこんなで腕利きの錬金術師かそれっぽい麻薬を作りそうなヤツを教えてくれ」
「……お前、俺を情報屋とでも思っているのか? だいたい、そんなこと分かるわ──」
「一度だけ、普段は公開していない宿泊用の迷宮に案内してやるよ」
「おいおい兄弟、水臭いじゃないか。すべてこの俺に任せておけよ」
立って俺たちの話を聞いていたアヤメさんが、やれやれとため息を吐いている。
分かっていても、コイツを効率よく運用するにはこれが一番だしな。
「とは言っても、俺自身にはそんなに情報はないぞ。そりゃあ錬金術が上手いヤツを知っているが……それ、一番はお前だぞ」
「自慢じゃないが、まあ事実だしな。チートだからあんまり言えないけど、神鉄も作り放題だし……金も無限に手に入るぞ。その金でついでに、情報屋でも雇ってくれよ」
「これが成金ってやつか……まあいいや。お前がそれでいいなら、こっちで雇ってみる。具体的な期日はあるのか?」
「取り締まりはやってるし……こっちの世界で一週間ぐらいがいいな。まあ、俺は現実単位でやられても困るけどさ。さっきも言ったけど、金はいくらでもある。足りないなら、好きなだけ請求してくれ」
現実で言ってみたい台詞である。
まあ、それだけあれば超一流の情報屋が雇えるよな……けど、金が在るならソイツを直接買収すれば良い気もするけどな。
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