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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と赤色の解放戦 その10

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 夢現空間 修練場


 ピクニックを終え、一度次元魔法を使って赤色の世界の『紅蓮都市』へ全員を飛ばす。

 そしてその後、俺は夢現空間へ帰宅した。
 それからだ、アンに呼びだされて修練場へ向かったのは。


「……なるほど、こっちのも変化があったみたいだな」

「ウィー様たちが橙色の世界を解放すると同時に、こちらの扉が同色に染まりました。そして、こちらが……」

「赤色の鍵か……今さらだな。橙色の世界の座標はどうなっている?」

「そちらはすでに鍵として登録を済ませてあります。現在、メルス様のお創りになられた鍵との差異を確認しております」


 そんな報告を半透明な扉の前で受けた。
 次元を開いて生みだした扉なのだが、その出自は正直不明である。

 いちおうは俺が魔法で創った扉だ。
 だがそれ以上に、神的な存在が干渉している可能性が高いんだよな。


「さてさて、橙色か……お花畑なファンシー世界だったけど、アンは行きたいか?」

「独りで、ではなくメルス様と、ということであればぜひとも」

「……サンプルをいくつか採取して、危険性の有無を確認してからだな。アンに状態異常の類いは効きづらいとは思うが、そういう世界だった場合は対処できるか分からないからリスクは避けたい」

「そういったきめ細やかな心遣いは大変ありがたいのですが、そこは俺が守る……といった発言を求めていたからです」


 俺に守られるような眷属、居たっけ?
 冴え渡る<千思万考>がフル回転し、該当記憶を{夢現記憶}から引き出そうとするが……該当数はゼロだった。


「おや、その顔は心当たりが無いとでも言いたげですね。たとえメルス様がそうお考えであろうと、女の子とはいつだって守りたくて守られたい……そう思っているのですよ」

「男だって、守りたいとは思っているんだがなぁ。けど花だしな……ユラルかリアもいっしょに誘ってみるか」

「も、ということはわたしも誘っていただけるのですね。ふふっ、楽しみにしましょう」


 そう言って、クスリと笑うアン。
 まあ、たしかにそうするつもりだったからいいのだが、否定しようにもあまりに嬉しそうだからそんなこと言えそうにないな。


「……報告はこれで以上か? なら、これから何をするかだな」

「であれば、カカ様の下を訪れてみるのはどうでしょうか?」

「たしかに……解放されたことだし、一度確認してみるのもいいかもな」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 カカは元とはいえ赤色の世界の神。
 人の身では知ることのできない情報を、これまでとは違って言えるようになっているのかもしれないからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 赤色の世界 紅蓮都市


「──それで、ダメだったと」

「ああ、残念なことにな。そもそも偽邪神もまだ残っているから、神としての権限がどうこうできているわけじゃない。ただの古い神でしかない……だってさ」

「そういえば、貴公が戦ったのは使徒たちであったか……本体はどうなっている?」

「んー、あのときは使徒の持つ繋がりを辿ってどこかに攻撃したからな。実際に上手くできたかは微妙だったんだよな……まあ、しばらくは休んでいると思うぞ」


 さて、カカのところに向かうも特段知りたかった情報などは掴めなかった。
 まだまだ言えないことは多いらしく、神の地位に戻しても言えないことがあるらしい。

 難易度が高いのでそれは無理だ。
 だがまあ無理という事実もまた情報と言うことで、試練やピクニックを終えてお疲れ気味のウィーの下を訪れた。


「相手は神だ、だからこそ傷つくことを恐れる。今回は使徒や分体が受けたダメージを強制的にフィードバックさせてやった。それが治るまでは動こうとしないだろう」

「神とはそういうものなのか?」

「痛みに慣れてないんだよ。生まれつきの神なんてのは、一度もダメージを負ったことがないこともあるらしいし。……直接回復魔法で治せるようなものでもないから、少なくとも一月ぐらいは安静にする必要があるな」


 神は干渉不可とかいう能力を持っているのだが、それを突破してしまえば普通の生物と同様に倒すことができる。

 今回活躍したオウシュの【神殺剣士】、俺の持つ称号『神殺し』などがその権限を引き剥がす概念の例だ。

 回復魔法はその原理から、そもそも神には通用しない……魔法よりも上位の存在が、それが神なのだから。


「神は無敵じゃない、面倒な手順を踏みさえすれば奴隷にだって倒すことができる。だからこそ、死の危険を察知すればそれを回避しようとするわけだ」

「メルス、あの世界は……橙色の世界とやらにも同じく邪神が居るのだろうか?」

「現在調査中……って言いたいけど、まだ調べてない。扉は隠してあるからあっちから侵攻される心配はないが、こっち側の何者かが橙色の世界に勝手に侵入しても困る。それをウィーに未然に防いでほしい」

「……話が急に変わったな。だがたしかに、それが戦争の発端になっても困る。門番である聖炎龍様が居るとはいえ、たしかに気を付けなければならないか」


 ブリッドについては、あそこに侵入者が現れたら自動召喚されるように設定してある。
 猛ダッシュで扉に触れられてしまえば転移されてしまうため、それを防がなければ。


「まずは『赤王』として、まだ問題のあるこの世界を纏め上げようか。俺と眷属たちも協力するから、橙色の世界から逆に侵攻された時にもどうにかできるようにしておこう」

「メルスの魔導なのだから、心配は要らないと思うが……纏め上げることに異存はない。よりいっそう、平定に励むとしようか」


 今代の選ばれし者たちは全員、協力者なのだから実行するのは容易いだろう。
 平定、それは裏を返せば意思の統一──そして、征服でもあるんだよな。


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