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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と赤色の解放戦 その09

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「ここが、橙色の世界……温かいなー」


 赤色の世界が炎の海で構成された海洋世界だったならば、橙色の世界は──春麗らかで穏やかな温暖世界とでも言えようか。

 花々の香りが風に乗り、花弁が舞い散り、一面の花畑が世界単位で広がっている。
 桜っぽい樹木や梅っぽい樹木、その巨大サイズが視界にいくつも見えた。


「あー、これはファンタジーだな……えっ、花って空を飛べるんだな?」


 ポカポカ陽気に当てられて空を仰いでいると、その間を遮るように巨大な花弁が宙を飛ぶ姿を目撃する。

 しかも、望遠眼によるとその上には巨大な城が映り……載るんだな。


「ずいぶんとまあ、赤色の世界と違って危険度が低い世界みたいだな──そうは思わないか、赤色の世界出身の方々?」

「……これは、貴公の眷属になっていなかったら驚いていただろうな」

「まあ、耐性は付けていたか。だからそれを知らないオウシュとかは驚いているし、それこそ妖精のサランと異世界人の姉弟ぐらいしかビックリ程度に収めてないか」

「メルス……これが、異なる世界なのか」


 自分の住む世界とは、別の世界がある。
 言葉として、表面的にしか認識してできなかった彼らにとって、それは天地が引っくり返るほどの驚きだろう。

 地球出身の(異)常識持ちや、そういう場所出身の種族でもなければそれが普通だ。

 ウィーだけは、俺を通じてさまざまな世界の在りようを学んでいたのであまり驚かずに済んでいる……それでも、やはり動揺ぐらいはしているみたいだが。


「ウィー、とりあえずこの扉は隠しておくからな。魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”」


 そう伝えてから、魔力を全力で生成して魔導として消費する。
 扉を包むようにして生みだされた霧が、それを呑み込み──その存在を抹消した。


「見えないが、いちおうあるぞ。ただし触れないし使えない。世界が扉を無い物と認識しているから、無い物は使えないってわけだ」

「ちょっとー、やりすぎじゃないかなー?」

「そうか? けど、こっちの奴らが入ろうとするのを防ぐのも面倒だし……証拠隠滅した方が手っ取り早いだろ」

「それも……そうだけどー」


 赤色の『賢者』さんはそんなことを仰られるが、橙色の『賢者』に魔導を使われてバレる可能性だってある。

 魔導は俺の特権ではなく、魔力を扱う者であればいずれ到達できる極地の一つなだけ。
 霧を吹き飛ばされればバレるだろうし……二重三重に、別の対策を施しておくか。


「さて、これからどうするか……いちおう来れるようにはしておくけど、この驚きようだと復活まで時間が掛かりそうだし」

「……起こしちゃうー?」

「そうだな……アカリ、どっちがいいか? 俺だとなんでも強引になるし、お前の姉はお前優先だし。なら、最初からアカリの意見を訊いておきたい」

「えっ? な、なら……ちょっと近くを探検してきたい……かな?」


 目をキラキラさせ、好奇心のアピールをしてくる。
 そして別の場所から視線を感じる……どうやら姉が、弟の願いを叶えたいようだ。


「ならそうしようか。アカネ、方法は比較的害の無いように、アイツらをシャキッとさせてくれないか? そうしたら、全員で近くを歩いてみよう」

「うーん……ならー──“緊張弛緩デタント”ー」

『…………はっ!』

「よし、これでよさそうだなー。はーい、全員注目ー! これからピクニックとして、近くの散策を行う! いろいろと考えたいかもしれないが、まずは歩いてくれ!」


 ピクニックという単語に反応したのか、それぞれ足を止めることなく動き出す。
 先頭はアカリとアカネの転移姉弟、間を他のメンバーが挟み最後方に俺が居る。

 そこに近づくのは……妖精。
 赤色の『勇者』であるサランは、俺の肩の上に座って足をぷらぷらと振り始めた。


「……急に、どうかしましたか?」

「ちょっと慣れない場所だから、ここで休もうと思っただけ。あともう分かっているからいちいち会う度に戻さなくて良いから」

「……そっか、ちょっと残念だな。せっかくサランとの思い出の役割ロールだったのに」

「…………その台詞が、もっと別の形で聞けたらな。特に心にも思ってないことを言わないで、ほらどんどん進んで進んで」


 別に嫌なことを言われているわけでもないので、サランを乗せたまま他の者たちを追いかけて歩いていく。

 そうして景色を見ながら少しすると、ボソリと何かを呟きだす。


「ねぇ、分かっている? ここがただ、綺麗なだけの場所じゃないって」

「そりゃあまあな。耐性が強すぎて逆に気づけなかったが……毒か?」

「精霊界にもあるの、こういう状態異常を引き起こす花が。どんな経緯があるかは分からないけど……少なくとも、全部が全部見たままの世界じゃない」

「赤色の世界はその点、シンプルだったってことか。燃える、それだけ考えておけばいい世界だったんだし……あっ、この世界の神はどうなっているのかな?」


 赤色の世界は何らかの理由で本来の神だったカカが邪神に堕とされ、そのうえで邪神としての存在すら貶められようとしていた。

 だがこの世界の場合、まだ同じ状況に陥っているという確証はない。
 もしかしたら、普通に神をやっているのかもしれない……それなら情報が訊ける。


「まあ、探索は俺たちに任せろ。来たいならくればいいし、護衛もしてやる。心配することなんて全部取り除くさ。今回のピクニックみたいに、楽しいことだけ考えようぜ」


 ピクニックだし、ストックしてある料理の中からつまみやすい物を準備しよう。
 そんなことを考えながら、進んでいた他のメンバーに追いつくのだった。


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