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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と赤色の解放戦 その05

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 赤色の『賢者』はあらゆる魔法の適性を持つうえ、火属性の魔法の威力を一段階上に向上させる。

 今回使ったのは火属性最上位の業炎魔法、それをさらに『賢者』の力によって引き上げた大火力。

「ふぅー。アー君、もう疲れたよー」

「……ああもうっ、今回だけだからね」

「ふふふー、頑張った甲斐があるなー」

 万象を燃やし尽くす真なる焔。
 赤色の世界は火を中心にした理が存在し、あらゆる現象が火に通じている。

 水は火で消され、風は火により生まれ、土は火に融かされる……そして、火はより強大な火によって燃焼され──消えていく。

 魔法陣によって拡大された焔は、空間を覆い包んでいた壁すべてを対象としていた。
 修復する時間も、人型の炎で庇う暇もいっさいない──すべてがその焔に燃やされる。

「扉に変化はない。やはり、まだ先があるということか……全員、警戒を怠るな! そして、今の間に体力や魔力を回復しておけ」

 何かを終えたとき、隙が生まれることを経験上よく知っているウィー。
 ポーションを飲ませて傷を癒させ、いつ起きるか分からない戦闘に備える。

「あっ、みんな見てみて。壁の在った場所が光って魔法陣が出てきたよ!」

「サラン姉、凄い説明口調なんだけど……でもだいたいそんな感じだよね」

 失われたはずの壁、しかし地面に描かれた魔法陣は炎を生みだしそこからナニカを召喚していく。

「第二段階か……ウィー姉、こういうのってレイド級で強いの間違いないんだけど……何かやれることってある?」

「頼めるなら、再びアカネの魔法に適切な魔法陣を構築してもらいたい。それが嫌、あるいは暇があるならば遠距離からの補助や妨害などを頼みたい」

「おっ、おう!」

「そろそろか……来るぞ!」

 魔法陣は完成し、召喚は成功する。
 現れたのは──浮遊し、手の生えた灯台のようなナニカだった。

「『赤護門番レインフォースレッド』、そんな名前だねー。略してー『RR』かなー?」

「RR、か……それにしよう。まずはどんな力を持つかの検証を……むっ?」

 再び輝く連絡用の魔道具。
 なぜこのタイミングなのか、そう考えつつも緊急の連絡を示す輝きでなかったことに安堵しながら魔道具を握る。

「とりあえず、慎重に試していこう。攻めすぎないように手の内を探っていくぞ」

『了解!』

 ウィーの職業は『大将軍』。
 その統率下にある者を鼓舞し、活力を与える能力を所持している。

 そして戦略を練り上げる思考、そして状況把握能力。
 それらを用いて観察を行いながら、再び魔道具で連絡を取り合う。

「どうしたのだ、いったい。こちらは守護者らしき存在が現れたのだぞ」

『んー、偽邪神が分体を創ってこっちに来たからその連絡。たぶん、そっちにも影響があると思ってさ……具体的には、黒い炎が出てくるとか』

「──う、ウィーさん! く、黒い炎がRRに触れて大変なことに!」

『なんか……タイムリーな話だな』

 ウィーもすぐに目を向けると、たしかに黒い炎がRRを包み込んでいた。
 抵抗するようにもがくRRだが、やがて力尽き完全に炎に包まれる。

 そして奥を見通せない昏い色に変色し、球体となって内部でナニカが行われていく。

『ちなみにこっちからそっちにそんなことを言いたくなった理由だが、いかにもな次元の穴を抉じ開けてそこに炎を飛ばしていたからだぞ。途中で殺したから少なめだと思うんだが……大丈夫か?』

「禍々しい力だが……そちらの分体はいったいどうなった?」

『もう屠ったけど? ただ、ちょっと会話をしただけでキレるような短気なヤツだったから、ここから逃げてどうにかしようとか考えていたんだろう』

「それはたぶん、貴公に問題があったのだろうな。なるほど、それでこちらにあの炎が現れたわけか……」

 そう呟き、再び話題の残滓らしきものの様子を窺うウィー。
 禍々しい力の塊は、RRを取り込み今なおそれを増大させていた。

 念のため全員を後退させて『そのとき』を待つものの、未だに中身は現れない。

「メルス、どのような方法でその分体を倒したのだ? ああ、先に行っておくが人の身でできる方法でだが」

『なら難しいかもな……こっちはブリッドの聖雷炎の息吹で一気に浄化、それを俺が補助して高めたものでトドメを刺したし。まあ偽者、邪神に定番な聖属性が通用したことはお知らせしておこう……これで充分か?』

「ああ、それで充分だ」

『ならよかった。ここら一帯の浄化が終わったら、観戦としゃれ込ませてもらおう。絶対に誰も死なず、無事に帰って来てくれよ』

 最後にそう言い、連絡を切るメルス。
 強大な相手を前にしているウィーたちに、死ぬなという難題を押しつけて。

「まったく……無茶なことを」

 ピシピシと罅割れる音を鳴らし、ソレは少しずつ外部に強大な力を解き放っていく。
 その禍々しさは自然と他者にひざを折ることを強要し、絶望をその身に抱かせる。

「だがそれがなんだ。たとえ相手が神や使徒だろうと……これまで私は、何度も何度も戦い抜いてきた」

 体に刻まれた印を強く思い浮かべ、己を鼓舞して竦みを振り払う。
 同じく邪気に当てられた者たちに向け、言葉を送る。

「──立て、これからが正念場だ!」

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