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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と赤色の解放戦 その04

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「はぁ、はぁ……さすがに限界……」

 サランはその小さな身を地に着け、剣を杖代わりにして疲労に耐える。

 妖精である彼女は、魔力量や操作能力が高い……しかし、今回行った技はそれらを限界まで振り絞らなければ行えなかった。

「ナーラ、サランを回復するんだ。ルミン、君はその間周囲の回復を代わりにやっていてほしい」

「「はい!」」

「オウシュ、ここはライアに任せて前に出て戦ってくれ。先ほど言っていた予感、これが勝利の鍵かもしれない」

「わ、分かりました」

 オウシュはすでに抜いていた剣を握り締めると、まだ残っている壁から現れる人型の炎相手に戦っていく。

 なお、この間燃やされた壁は少しずつ修復されている。
 しかし人型の炎は生まれてこず、壁がただ直されているだけ。

「おそらく、壁はこの人型の炎を生むか壁を直すかのどちらかしかできないのだろう……もちろん、今はの話だが。シヤン、君の魔眼で一掃できないか?」

「ああ、俺もやってみる」

 魔眼使いにして『魔王』であるシヤンは、左目に魔力を注ぎ込み魔眼を起動させる。

「──“波浄眼”!」

 開眼した瞳を中心に、浄化の力を持った波が連続して炎に向かっていく。
 射程距離はシヤンの視界とリンクしているため、高く聳える壁にまで届かせられる。

 だが、浄化の波が直接的に炎に影響を及ぼせられるわけではない。
 シヤンはそれを承知のうえ、前段階として発動したに過ぎなかった。

「──“波静”」

 同じ響きだが、違う意味を持って告げられた能力の名。
 瞳から放たれていた波動が収まり、これまでの分が命中していた場所へ浸透する。

 静まった波、それは内部から同様の現象を浸透した対象へ強要していく。
 未だに炎を生みだしていた壁の一部が突如不活性となり、火を消していた。

「──“破静”」

 そしてもう一度、同じ響きを持って告げられた能力の名。
 先ほどとは矛盾する、静けさを破るという意味を与えられた魔眼の力。

「…………壊れろ!」

 内部に自身の波を浸透させたモノを対象に発動できる“破静”、シヤンに魔眼を与えた者すら扱えないその派生した能力によって、壁の一部に罅が入り──砕け散った。

「はぁ、はぁ…………俺ももう限界!」

「『勇者』と『魔王』の一撃を、それでもなお壁そのものは残っているのか。逆に気になるな、メルスが手を加えたらどうなるのか」

『……ん? ウィー、呼んだか?』

 石は握らずとも、勝手に繋がる。
 大気中の魔力を勝手に吸い上げ、名を呼んだことで起動した。

「いや、何でも……メルス、そちらの状況はどうなっている? 邪神の眷属は……」

『数が多くてな……そいっと。やっぱり面倒臭くて時間が掛かりそうだ。ああ、ブリッドもどんどん薙ぎ払って薙ぎ払って。とにかくだな、困ったら──オウシュに全力全開を使わせればいいからな』

「先ほどその一端を知った。たしかに、少年であればすべてを終わらせることもできるだろう……だが、あれは奥の手なのでは?」

『そこら辺はウィーに任せるよ……っと、そろそろ面倒さも増してくるみたいだ。じゃあ切るから、頑張ってくれよ』

 連絡中は内部の回路が巡り、使用者の自然回復能力が活性化する……付いているがあるのか分かりづらい効果ではあるが、それにより活力を得たウィー。

「やはり、己で調べねば分からぬことも多いな──いざ、参らん!」

 自身も宝剣を引き抜くと、人型の炎の下へ向かい切り刻んでいく。
 そしてあえて調整して斬ることで、その変化を観察する。

「やはりな。破片でも残せば、そこからまた再生する。さて、次はどこまでやればいいかの確認か……『生き抜け』!」

 鞘に仕込まれた装飾が声に反応し、さまざまな形で身体を強化していく。
 五感が鋭くなり、思考を加速させ、機動力は凄まじく、威力も高まった。

「武技は要らん。まだ何があるか分からないからな──疾ッ!」

 走り、振るい、斬り……それをただひたすら繰り返していくだけ。
 だがそれゆえにシンプル、加速した思考はそれを実行するためだけに運用される。

 気づかぬ内に斬り、攻撃される前に斬り、反撃よりも先に斬り……そしてその中で、より効率よく倒す方法を見出していく。

「──まだ先があるな。だが、今はこれだけか……壁をすべて破壊した時、それもまた解決するか──ハッ!」

 回復していた壁に傷を与え、再び炎が生まれないようにしていく。
 ついでに自分自身で破壊できないかと試すが……さすがに、武技なしではできない。

「ティルエ師匠であれば、このような壁でも切り刻めたかもしれない……が、やはり私ではまだまだだな」

 一度剣を納め、後方へ下がる。
 そして『賢者』の……これまで情報を解析していたアカネの下へ向かう。

「どうだ、イケるか?」

 そこでは弟であるアカリが彼女の足元に魔法陣を描き、これから行う魔法の発動を補助していた。

「うーん、たぶんねー。それじゃー、みんな離れててー!」

「ネェちゃん、接続完了! やっちゃえ!」

「──うん、見ててね」

 伸ばさず短く伝え、アカネはその手にした長杖を媒介に魔法を振るう。
 それは魔法の中でも最上位のもの、それがいま炸裂する。

「──“森羅万焼オールバーン”!」

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