上 下
1,326 / 2,519
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と赤色の解放戦 その02

しおりを挟む


「……ついに、このときが来たのか」

「ああ、そうみたいだな。ブリッド、門を開けてもらえるか?」

「了解した」


 心の準備云々はすでに済まさせたので、試練を始めるべくブリッドを促す。

 代々聖炎龍たちに受け継がれた力──閉ざされた扉を、選ばれし者たちを集結させることで解放させる代行権限。

 ブリッドが何かを唱えると、門そのものに刻まれた術式が起動する。
 それは転移の術式、選ばれし者たちを試練の間へ誘う証を示す場。


「これより先、選ばれし者とその従者以外が向かうこと能わず。メルス、正式な権限を持たず来訪したお前も例外ではない」

「分かっているさ。それじゃあお前ら、俺の分まで頑張って来てくれよ。それまで美味しい料理でも作って、終わったあとの宴会の準備でもしておくからさ」

「……ふんっ、ずいぶんと呑気なことを」

「当然だろう? 失敗なんてない、そう言い切れるぐらいお前たちは強くなった。だからこれからやるのは、ただの戦闘。別に重いモノも何も背負う必要は無い。ただ行って、相手を倒すだけ……それだけだろう?」


 いっさい情報が無かったため、練習には前来た時に戦った魔物を出すしか無かった。

 だがこういうイベントには、相応のボスがいるだろう……それを考慮してもなお、俺には負ける光景ヴィジョンが浮かんでこない。


「メルスの言う通りだ。ここに居る皆で、閉ざされた世界に虹を掛ける時が来た──行くぞ、戦いの始まりだ!」

『おぉーーー!!』


 なんて宣誓と共に、この世界の代表者たちは門に触れてここではないどこかへ向かう。
 残されたのは俺とブリッドのみ、静寂がこの場を支配する。


「……分かっているな?」

「そりゃあもちろん。わざわざこんな機会を設けたら、当然動くよな」

「邪神の眷属どもが。まだなお、この世界を脅かそうとするか」

「開かれたらこの世界にどんな影響があるのか、どうやら邪神は知らされていないみたいだな。だからこそ、不確定要素は取り除こうとして──こんな風に派遣してきたわけだ」


 だがそれを邪魔するように、どこからともなく現れる者たち。
 例外なく瘴気と邪気を纏い、爛々と瞳を昏く澱ませて近づいてくる。


「さて、あっちもあっちでそろそろ着いた頃だろうか。俺たちもこっちで、やれることをやっておかないとな──ブリッド!」

「おう──ガァアアアアアアアアッ!」


 聖なる炎、そして雷が解き放たれた。
 あまり力を持ち合わせていない者は、初撃だけで潰える。

 異なる聖属性を同時に併せ持つブリッドの一撃は、互いが互いを高めるようにしてその威力を増幅させていく。

 ある者はその身を焼き焦がされ、ある者は纏う装備ごと痺れさせられたりと。
 少し怯えたものの、すぐに狂気に染まった彼らは進軍を再開する。

 ──二人だけで、勝てるかな?


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ところ変わり、門の奥にて。
 選ばれし者たちとその従者として入り込んだ数名は、辺りを見渡していた。

「ここが……『審判の門』」

「そうだよー。ここがー最後のなんかーん」

「こんな場所があるんだ……」

 すべての物が赤色に染め上げられたその場所は、赤色の世界を羽ばたこうとする者たちへ試練を与える。

 本当に旅立つのか、相応の力を以って先へ進むのか……覚悟無き力を審判し、他の世界では生きられぬ者たちを送り返すために。

「けど……何も起きない?」

「魔物も居ないじゃない」

 現在、この場に居るのは審判を受ける者たちのみ。
 部外者はいっさい存在せず、ただただ時間だけが過ぎていく。

「……おそらく外では、メルスたちが邪神の眷属たちと交戦しているだろう。奴らにとっても、外部へ渡る手段は喉から手が出るほどほしいものであるからな」

「!? じゃ、じゃあ、早く行かないと!」

「落ち着け。連絡の手段はある……ああ、どうやら繋がっているようだな」

 身に纏う軍服の下を、胸の部分から弄ったウィーが取りだしたのは──小さな石。
 宝玉とも呼べる綺麗な円形と輝きを誇るそれに、魔力を流して語りかける。

「聞こえるか、メルス。こちらは無事、目的地へ辿り着いた」

 すると少し間が開いた後、石からも同様に声が聞こえ始めた。

『あ……、……か。なら、…………せて、早く……に……欲しいんだが』

 途切れ途切れの音声と、時折聞こえる爆発音に一部の者はビクッと怯える。
 しかしウィーは冷静に、ただ一言だけ伝えるべきことを伝えた。

「無駄な演出はいい。それよりも、状況を説明してほしい」

『──あっ、やっぱり分かっちゃう? こちらは滞りなく順調、現れた邪神の眷属もすでに三十体ぐらい倒してあと二十体か? 全部ブリッドのお蔭だがな』

「そうか……こちらは全部が赤色の空間に飛ばされた。魔物も現れず、ただ待っている状況にある」

『えっ? それは想定外だな……なら、もう少し待って何もなかったら何か怪しいモノが無いか探してみてくれ。マジかよ、まさかのマニュアルか? ──っと、そろそろ敵も本格的になるから一度切るぞ』

 一方的にそう告げられ、ブツンと途切れて輝きを失う石。
 それを元の場所へ仕舞うと──ウィー指揮の下、不審物の捜索が始まった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...