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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と赤色の解放戦 その01
しおりを挟む赤色の世界 紅蓮都市
「さぁ、準備はいいか野郎どもー!」
『…………』
「あ、あれ? お、おーい、誰か一人ぐらい答えてくれてもいいんだけど……」
『…………』
紅蓮都市に建てられたとある屋敷の中。
集められた精鋭たちに向け、俺は語りかけるのだが……全員に無視されていた。
いや、数人は反応してくれている。
「お、お──」
「ダメよオウシュ、わざわざ反応しちゃ。こういうときは、まず一度泣かせてからよ」
「お、お──」
「ダメだ。いいか、アイツはクズなんだ。ルミンの同情を引こうとしているんだ。だいたい見ろ、アイツの顔を……いや、やっぱり見るな。ルミンが見たらお前の目に害のある物質が入るかも──」
純粋な少年少女が助けてくれようとしていたのだが、素直になれない少女と度を過ぎた妹狂いによってそれは阻まれてしまう。
前者はともかく後者、誰が害のある物質を放射していると言っていやがるんだ。
「お前ら……いい加減にしろよ。俺だって、言われて傷つくことだってあるんだぞ……」
「俺は兄ちゃんにずっと男だって思われて、傷ついたぞ」
「私は……別に特に無いけど、メルスとの脱出全部が苦痛だったんですけど」
「サランはともかく、シヤンは悪かった。本当に俺の目が曇ってただけなんだって」
怒るサランを無視して、シヤンに謝る。
孤児院時代からしっかりと栄養を付けてきた結果、発育も少し良くなったので今なら俺でも性別を認識できる……だからこそ、そのことをしっかりと詫びておく。
「なあなあメルス兄ぃ、まだドラゴンを召喚しないのか?」
「アカリ、アイツの出番は門に行ってからだな。アカネ、それぞれの騎士たちの結び付きはできているか?」
「バッチリだよー。一人ずつ試練にはお供を同伴できるってシステムをー、少ーし弄るのはー、とーっても苦労したんだからねー」
「まあ、お蔭で当初よりも多い人数で試練に挑めるんだ。頑張った分の時間に似合うだけの結果だと思うぞ」
幼馴染や妹が『聖女』や『守護者』として選ばれし者で、そうではない関係者の少年たちはそのシステムを使って試練に参加できるようにしておいた。
知り合いはいるが危険な場所には連れ出せない『魔王』や、知り合いも何もボッチ街道まっしぐらな『勇者』も俺の準備した奴を一人お供として付けているぞ。
そこら辺を頑張ってくれた『賢者』も、自身の弟(不老)を連れている。
危険はほぼ取り除く予定だが……絶対視はできないのにな。
「メルス、少しよいだろうか?」
「これはこれは、どうかなさいましたでしょうか? ──この世界の赤き王殿」
「や、止めてくれないか。これもすべて、貴公の手によるモノ。たとえ王となろうと、貴公の眷属たる証はこの体に刻まれている。メルスの願いは私の願い……この世界を解放するため、尽力させてもらおう」
「堅い堅い、もっと気楽に行こうぜ。ここまでの道のりは長かったが、それと同様の黒馬でする必要は無い。精々扉に触れたときに緊張するぐらいだ……本当に問題ができたら、俺が全部終わらせてやるよ」
ちょっと最後の台詞が恥ずかしく、すぐに後ろを向いたのでウィーの反応は不明だ。
すぐに先ほどまでと同様に魔力で喉に身体強化を施し、少し声を張り上げる。
「──聞け。今回の作戦『赤色の解放戦』は正直、失敗してもいい。特段強い思い入れがあるわけでもないし、もっと大切なモノがある……死ぬな。死ねばそこで終わり、だが死ななければどうとでもなる」
中には一人、死ぬことで強くなるシスコンもいるが……まあそいつはいいとして。
レベリングの際は死にまくった『勇者』が睨んでいるが……そちらも無視をする。
「俺にとって、この作戦はおまけだ。お前たちを全員覚醒させて、やりたいことをやらせるのが目的であって……世界を開くのはどちらかといえば俺のわがままだ。だが、ここまでお前たちは俺に付いてきてくれた」
ツンデレ『聖女』は幼馴染のために力を身に着け、病弱『守護者』はシスコンのために強くなり、貧困『魔王』は家族のために戦うと決め、異世界人『賢者』は帰るために協力し、妖精『勇者』は己のために力を振るう。
そして何より、この世界の王たる『赤王』は俺の願いを聞き受けてくれた。
亡国の姫だった彼女も、今では世界が認める立派な女王である。
そんな彼女が、それでもなお俺の眷属として力を貸してくれるというのだ。
本当にいい女である……きっと出会い方が違っていては、こうはならなかっただろう。
「ありがとう、感謝する。そして、もう一仕事頼みたい。閉ざされた世界に新たな風を、赤き世界に虹色の光を──選ばれし五人とその仲間たちよ……闘いの時は来た!」
この場に居る全員を対象に、時空魔法で転移を行う。
移動する先は神聖国の地下、そこに眠るのは巨大な門。
「それじゃあ、最後の参加者の登場だ──出番だぞ、ブリッド」
用意していた黒色の魔本が光輝き、中から神々しい光を放つドラゴンが降臨する。
──さて、役者が全員揃い、ついに扉が開かれるわけだ。
用意した策もバッチリ、あとは横槍さえ入らなければ……世界は繋がる。
故に俺は門番として、挑戦者以外を拒む。
これから来るであろう……横槍を相手に。
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