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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と東の西京 その17
しおりを挟む──結論:ここ、マジヤバい。
スキルのレベルアップ速度と言う別視点を知ったことで、それを認識できた。
だってぐんぐん上がるんだもん、目に見える速度で数字が書き換わっていくんだぞ。
リーの指輪こと『神呪の指輪』が持つ経験値貯蔵能力により、精神耐性系スキルのレベルアップに使える経験値を溜め込めている。
……【忍耐】がそれに該当し、{感情}の能力ですべてのレベルがリンクしているので、過去の俺に届けでもすれば、一瞬でカンストした超絶チート野郎になっているかもな。
「まあ、そんなこんなですべての汚泥を取り込んだ聖杯が誕生しました。これを飲んだら不老不死……とかじゃなく死ぬだろうけど、とにかくこの場所から悪徳は失われた」
今はその残滓がこべりつき、どうにか悪感情を取り込んで穢そうと努力しているだけ。
本体が俺の手の中にある以上、これをどうにかされたらもう活動は停止する。
「そして、すでに願いは叶っている。俺はすべてを捻じ曲げて、作り変えろと言った──まだ作り変わっていない」
その言葉を引き金に、聖杯が光輝く。
こういうときの王道、中身の浄化……みたいな展開ではなく、ただただ禍々しい汚泥に光が当てられているだけ。
「そしていつもの登場──『機巧乙女』~」
俺の願望丸出しの神器を取りだし、鼻歌混じりに汚泥を人形にぶっかけていく。
ぐちょぐちょべちょべちょに汚れきった人形だが、一瞬輝くとそれらはすべて消える。
「あとはしばらく待つだ──って、あれ?」
武具っ娘であれば、数時間は掛かるであろう受肉時間。
だが『渇望の聖杯』に促進効果でもあるのか、急速な勢いで生命を模り始めている。
さすがにちょっと不味いかな……と思い始めたその瞬間、人形の内部から穢れが溢れ出て全方位に放たれた。
「刀だけでイケるか……いや、できるって信じないとな──“納刀”、“居合”」
背負っていた大太刀をスキルで腰に瞬間移動させると、二つの武技を用いて抜刀する。
器に注ぎ終わったことで増殖し続ける膨大な魔力を刀に籠め、穢れを斬り裂く。
うん、やればできるようだ。
魔力に浄化を意識して行った武技だし……さながら『清』って感じだな。
「さぁ、出てこいよ──『穢れ』」
「…………」
「ダメか。なら、:言之葉:を起動して、俺自身も神耳を使えばいいか──よし、これでいいはずだな」
「■■■■■■■■■……」
俺の言葉を言語として確実に届けられるスキル、そして俺が逆に相手の言語を聞き取れるスキルを併用したはず。
だが、聞こえてくるのは耳障りなノイズのような音だけ。
たぶん、この音も俺以外が聴くと発狂する感じなんだろうな。
現れたソレは、『機巧乙女』の影響を受けたのでたぶん女性型だ……平たいけど。
しかし、俺の眼にはただ昏いナニカが纏わりついているようにしか視えない。
真っ黒になった人形だが、動いている以上意思はあるよな?
「こっちの言葉は伝わっているはずだし、会話を続けるか。妖怪語を意識して……へい、ユー! いったいワッツハップンを……オーマイガー!?」
エセ英語を話していると、再び穢れがこちらへ向けて放たれた。
ただし全方位にではなく、指向性を持ってすべてがこちらにである。
「なら──“刃車・清”」
体を捻り、刀を横に一回転。
それを終えると円状の斬撃が生まれ、四方八方を飛び回って穢れを払っていく。
だが、それでも手数が足りない。
一度の武技発動で生まれる斬撃は一つのみなので、処理が少しずつ追いつかなくなる。
そして時折肌に触れる穢れ。
何度も言っている気がするが、それだけで普通の奴はゲームオーバーなんだろうな。
「けど、方法自体は上手くいっているな──“刃車蓄択・清”」
刻々と連続して放つ、上位互換の武技を用いて輪っかが生まれる速度は急上昇。
三半規管が持つ限り発動し続けるため、霊体状態の俺は延々と生みだせる。
「……■■■■■■■■■……」
「うん、さっぱり分からん。だけどどうにかしないと──“山割・清”」
頭上まで届く広大な穢れを生みだし、俺を呑み込もうとする『穢れ』。
なので一刀両断する要領で、勢いよく上から下へ刀を振るい斬撃を飛ばす。
浄化補正もあるため穢れの一部が払われ、そこを中心に斬撃が食いこみ活路を開く。
「…………■■■■■■■■■■…………」
「どうしたらいいかな……とりあえず、一回斬って正常に戻るか試してみるか? で、ダメだったらもう一回やってみる」
バカ丸出しの考えだが、そもそも凡人に天才的なアイデアを求める方が間違っている。
人生は行き当たりばったりなので、多少ミスしても最後に成功すれば良いと思います。
刀をすべて片付け、もう一本準備する。
俺の打ち上げた模倣聖剣にして神剣、そして聖刀にして神刀でもある古代の剣。
「ギリギリセーフかな──『天叢雲』」
刀と剣、両方の性質を兼ね揃えた古代の剣は魔力を流すとよく撓り刀のように扱える。
これならば今から使う武技でも耐えられるし、何より威力を充分に伝えられるだろう。
「夢現流武具術刀之型──」
再び居合の構えを取り、身体強化で体を動かせるようにしてその瞬間を待つ。
相対する『穢れ』も何かを感じ取ったようで、圧倒的な量の穢れを解き放ってくる。
対する俺は、刀を鞘から抜くだけ。
姿勢やら重心やら速度やら、何から何まで気にして放つ──もう一つの抜刀術の頂。
「──“異間斬り”」
武技の効果はシンプル、対象を斬ること。
ただしそこに束縛は存在せず、目に視える概念であればどんなものだろうと斬れる。
つまりはそういうことだ……神器である人形だろうと、上下真っ二つとなった。
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