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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と東の西京 その12
しおりを挟む符を剥がさないでどうにかする方法がないのか、少し考え……面倒だなということで、サクッと剥がした。
すると中から膨大な量の瘴気が漏れだし、俺に襲いかかる。
「ああ、うむ。このパターン、もう経験済みであるな──“破邪刀領”」
触媒用の破邪刀を地面に突き刺すと、簡易結界が構築され瘴気から身を護った。
瘴気の濃さそのものには耐えられるが、その勢いに吹き飛ばれそうだったからな。
「あのときと同じ状況であれば、また魔石を生みだす作業をしても良かったのだが……今回は、諦めねばならぬな」
禍々しい瘴気はやがて少しずつ量を減らしていき、これまで地上に漂っていた量より少し多い程度で安定した。
そうなってから数十秒待ち、“破邪刀領”の維持を止めて刀を鞘に納める。
符が外されたことで見えるようになったそこは……昏く暗い穴だった。
「穴、と錯覚するほどに色が無いのだな。辺りの光を呑み込んでいるのか? ……まあ、ここで考えていても仕方ないな。刀も準備してあるのだ──行くだけ行こうではないか」
何度やっても懲りないと眷属に言われそうだが、愚直にやらなければ分からない場合もある……少なくとも、今回はそれに該当しないとは思うけどさ。
◆ □ ◆ □ ◆
???
リオンのときに理解したのだが、神はそれぞれ個人の領域を持っているらしい。
いちおう<次元魔法>で行けるのだが……拒絶されれば、抵抗もできずに追いだされる。
少なくとも入る最中に絶対追い出されない方法、それは神自らが生成した入り口を通って中に入ること。
だが、それは大歓迎と同義ではない。
何者かによって生成を強要された……そしてそれを維持させられている穴から入るのであれば、対応も相応のものになるだろう。
「──妖怪であり、邪神である。妖怪とはそもそも、そういった存在も多い。先の者が母と呼ぶのだ、当然上位の存在であろう」
空間を捻じ曲げてあるのか、リオンの時と同様にすぐに目的の存在を見つけられない。
今回は通常の眼しか使えないので、探すのも一苦労だ。
「カカの場合とは違うのであるな。リオンは鎖が目立っていたし、こちらは……うむ、果てが無いほど広いのである」
カカのように行動を抑制されているわけでも、リオンのようにリソースを抑制されているわけでもない。
その結果、リソースを自在に操作して空間の広さを拡張したのかもな。
「……問題は、相手が気づいている点であるな。いったい何をされるのか…………ああ、そのような手を取るのであるか」
『…………』
「天狗……ではないな。顔が獣ではないか」
呟いた通りの妖怪が無数に現れ、握り締めた棒のようなモノを突きつけてくる。
おそらくは魂を持たない神の使徒、即席で用意された防衛用の存在だろう。
「アメと違い、生きておらぬのであれば──某も全力を振るえよう。分からぬとは思うが告げるぞ、死にたくなった者から掛かってくるがよい」
『…………』
「連携か。うむ、貴殿らのように機械化した意思であればそれも上手くできよう」
数十本の棒が、第一陣としていっせいに穿たれる。
その後ろでは波状攻撃でも仕様としているのか、構えを取っている天狗モドキたちが。
対する俺の選択は、破邪刀の装備数を二本にして手数を増やすだけ。
だがそれで充分、アメが相手では使えずにいた戦闘法を使い始めた。
「──“剣身一体”」
かつて、シャインが模倣してきた固有スキル【剣身一体】……能力は剣と一つになることで、最大限性能を発揮できる。
「──疾ッ!」
一体なのに二本使っているじゃないか、というツッコミには答えないとして……知覚領域が増加され、棒が迫る速度が体感的にゆっくりなものになった。
一つひとつ、ティルの剣技にやや劣るレベルぐらいまで昇華できた剣技を使って捌く。
そして、破邪刀の性能を高めることで聖性の力を増幅して天狗モドキへ送り込む。
「──“昇竜”、“兜割り”」
アメとの闘いで使った武技だが、今の状態で使えば威力は段違いだ。
下から上へ斬撃を飛ばし、その流れに従い俺の体も同時に上へ跳ね上がる。
剣と一体化、その定義がおかしいからか斬撃に刀を留めるイメージをすれば俺ごと斬撃の進む方向へ行けるんだよな。
そんなコンボで一度棒から離れ、距離を取れた状態で“昇竜”から“兜割り”の挙動に切り替える。
俺を上に引っ張り上げる力が失われ、一瞬だけ訪れる自由落下の感覚。
その間に姿勢を整え、本来は両手で行うはずの“兜割り”を二本同時に振るう。
「第一陣はこれにて終い。二陣は……ふむ、以降はないようであるし、一度に終わらせるが吉であるか」
最後なのであれば、しばらく敵を気にしなくてよくなるように軽快な一撃を放った方が良さそうだ。
最大速度で気を練り上げると、それらを二振りの刀に籠めていき。
「──“業魔一刀”、“一刀両断”」
霊体特化の斬撃、そして一太刀に膨大なエネルギーを籠められる一撃。
ついでにここら一帯も綺麗になればいいのに……そんなことを思いながら、スッと刀を振るい──
「……あっ」
空間に発生した異常事態に、声を漏らしてしまった。
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