上 下
1,317 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と東の西京 その12

しおりを挟む


 符を剥がさないでどうにかする方法がないのか、少し考え……面倒だなということで、サクッと剥がした。

 すると中から膨大な量の瘴気が漏れだし、俺に襲いかかる。


「ああ、うむ。このパターン、もう経験済みであるな──“破邪刀領ハジャトウリョウ”」


 触媒用の破邪刀を地面に突き刺すと、簡易結界が構築され瘴気から身を護った。
 瘴気の濃さそのものには耐えられるが、その勢いに吹き飛ばれそうだったからな。


「あのときと同じ状況であれば、また魔石を生みだす作業をしても良かったのだが……今回は、諦めねばならぬな」


 禍々しい瘴気はやがて少しずつ量を減らしていき、これまで地上に漂っていた量より少し多い程度で安定した。

 そうなってから数十秒待ち、“破邪刀領”の維持を止めて刀を鞘に納める。
 符が外されたことで見えるようになったそこは……昏く暗い穴だった。


「穴、と錯覚するほどに色が無いのだな。辺りの光を呑み込んでいるのか? ……まあ、ここで考えていても仕方ないな。刀も準備してあるのだ──行くだけ行こうではないか」


 何度やっても懲りないと眷属に言われそうだが、愚直にやらなければ分からない場合もある……少なくとも、今回はそれに該当しないとは思うけどさ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???


 リオンのときに理解したのだが、神はそれぞれ個人の領域を持っているらしい。
 いちおう<次元魔法>で行けるのだが……拒絶されれば、抵抗もできずに追いだされる。

 少なくとも入る最中に絶対追い出されない方法、それは神自らが生成した入り口を通って中に入ること。

 だが、それは大歓迎ウェルカムと同義ではない。
 何者かによって生成を強要された……そしてそれを維持させられている穴から入るのであれば、対応も相応のものになるだろう。


「──妖怪であり、邪神である。妖怪とはそもそも、そういった存在も多い。先の者が母と呼ぶのだ、当然上位の存在であろう」


 空間を捻じ曲げてあるのか、リオンの時と同様にすぐに目的の存在を見つけられない。
 今回は通常の眼しか使えないので、探すのも一苦労だ。


「カカの場合とは違うのであるな。リオンは鎖が目立っていたし、こちらは……うむ、果てが無いほど広いのである」


 カカのように行動を抑制されているわけでも、リオンのようにリソースを抑制されているわけでもない。

 その結果、リソースを自在に操作して空間の広さを拡張したのかもな。


「……問題は、相手が気づいている点であるな。いったい何をされるのか…………ああ、そのような手を取るのであるか」

『…………』

「天狗……ではないな。顔が獣ではないか」


 呟いた通りの妖怪が無数に現れ、握り締めた棒のようなモノを突きつけてくる。
 おそらくは魂を持たない神の使徒、即席で用意された防衛用の存在だろう。


「アメと違い、生きておらぬのであれば──某も全力を振るえよう。分からぬとは思うが告げるぞ、死にたくなった者から掛かってくるがよい」

『…………』

「連携か。うむ、貴殿らのように機械化した意思であればそれも上手くできよう」


 数十本の棒が、第一陣としていっせいに穿たれる。
 その後ろでは波状攻撃でも仕様としているのか、構えを取っている天狗モドキたちが。

 対する俺の選択は、破邪刀の装備数を二本にして手数を増やすだけ。
 だがそれで充分、アメが相手では使えずにいた戦闘法を使い始めた。


「──“剣身一体”」


 かつて、シャインが模倣してきた固有スキル【剣身一体】……能力は剣と一つになることで、最大限性能を発揮できる。


「──疾ッ!」


 一体なのに二本使っているじゃないか、というツッコミには答えないとして……知覚領域が増加され、棒が迫る速度が体感的にゆっくりなものになった。

 一つひとつ、ティルの剣技にやや劣るレベルぐらいまで昇華できた剣技を使って捌く。
 そして、破邪刀の性能を高めることで聖性の力を増幅して天狗モドキへ送り込む。


「──“昇竜ショウリュウ”、“兜割カブトワり”」


 アメとの闘いで使った武技だが、今の状態で使えば威力は段違いだ。
 下から上へ斬撃を飛ばし、その流れに従い俺の体も同時に上へ跳ね上がる。

 剣と一体化、その定義がおかしいからか斬撃に刀を留めるイメージをすれば俺ごと斬撃の進む方向へ行けるんだよな。

 そんなコンボで一度棒から離れ、距離を取れた状態で“昇竜”から“兜割り”の挙動に切り替える。

 俺を上に引っ張り上げる力が失われ、一瞬だけ訪れる自由落下の感覚。
 その間に姿勢を整え、本来は両手で行うはずの“兜割り”を二本同時に振るう。


「第一陣はこれにて終い。二陣は……ふむ、以降はないようであるし、一度に終わらせるが吉であるか」


 最後なのであれば、しばらく敵を気にしなくてよくなるように軽快な一撃を放った方が良さそうだ。

 最大速度で気を練り上げると、それらを二振りの刀に籠めていき。


「──“業魔一刀ゴウマイットウ”、“一刀両断イットウリョウダン”」


 霊体特化の斬撃、そして一太刀に膨大なエネルギーを籠められる一撃。

 ついでにここら一帯も綺麗になればいいのに……そんなことを思いながら、スッと刀を振るい──


「……あっ」


 空間に発生した異常事態に、声を漏らしてしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...