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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と東の西京 その10
しおりを挟む「妖術──“煉獄炎”」
「──“破魔風”」
破邪用の刀で放つ武技は、魔力破壊効果を高めた一撃。
しかし相手の妖術も、瘴気と神の力が混合する禍々しいエネルギーの塊。
本来であれば、刀は融かされ俺の肉体もドロドロにされていただろう。
魔力や気力でコーティングしていても、今は神の力に抗うことはできないからな。
「術の核をピンポイントで……」
「某の腕では、そう上手くはいかぬがな」
「いったいいつまで粘るんだろうね。私の妖気はまだまだあるよ──“凍獄氷”」
「物である分、そちらの方が捌きやすいのである──“異削風”」
物質を切り刻む斬撃によって、氷は木端微塵になっていく。
そしていったん破邪刀を鞘に納め、俺は別の刀を握り一気に駆け抜ける。
「──“昇竜”」
「くっ、なんて力強い一撃なんだ!」
「ならば、そのような態度を取ってもらいたいものだ──“兜割り”」
下から上へ斬撃を飛ばす挙動を行い、今度はその動きから強引に繋げて上から下へ──大太刀を叩き付ける。
アメはその背に広げていた翼を動かすと、鋭い金属音を鳴らして刀を防いだ。
「私の翼は金属と同じ硬さを持っている。君ではどうしようもないよ」
「……金属か。それはいったい、どのような金属であるのだろうか。たとえば……神鉄などであるのかもしれぬな」
「…………」
「まあよい。金属であるというのであれば、こちらにも考えがある──“斬鉄”」
金属に対する斬撃威力強化の武技。
眼を凝らして見ていたが……ただの比喩であり、本当に金属化しているわけではなかったようだ。
「ふむ、では速さで──“威加通地”」
「! ……速さだけなら、私も追い付けないものになっていたね」
「まだであるか──“威加通地・弐式”」
「……上がるのか、速さが」
これまでも『・真』やら『・侵』が出ていたが、通常版の武技強化版には数字がナンバリングされていく。
祈念者の場合、SP消費で強化できるのだが……自由民はそんなことをせずとも、使い続ければ行使することが可能だ。
また、SP消費をしなくとも祈念者も同様の強化は可能……本当、ズルいよな。
だが難点もあり、全然成長しないこと……本来は才能がある者だけが至る技だからだ。
「某の師は剣聖の域を超えし者なのでな。それを習う某も、ある程度であれば至ることができる……神殺しの領域へ──“参式”」
わざわざ口頭で言うのも面倒になってきたので、必要な部分である最後だけを告げ再び高速抜刀。
速度が増せば増すほど威力が向上し、雷の力を高めていくこの武技。
体の対応できない部分を少しずつ見抜いていき……翼を切断する。
「ぐぁああああああああああ!」
「……再生できるのであろう? 神とはそういった生き物であると理解している」
「──あああ……そうなのかい? けど、私はそんな大層なことできないよ。精々翼を繋げるぐらいが精一杯さ」
落としたうえで電流を使い焼き焦がしたはずのそれを、撫でるだけで元通りにして体にくっつける。
それだけで、参式まで使って切り落とした翼は接合し──その羽を勢いよく飛ばす。
威力を上げれば上げるほど、当然消費する精神力は大きくなっていく。
縛り用にやや絞ってあるので、大技を連発するようなことは難しい。
できるだけ時間を掛けず、小技を連発するか大技で決めるか決めなければ。
「まだ己が身で再現するのは、精一杯であったのだが……致し方ない」
「まだ何かするのかな? いいよ、好きなだけ見せておくれよ。私はその間、ゆっくりと待たせてもらうからね」
言葉とは裏腹に、猛烈な勢いで吹き荒れる羽の嵐はまったく止まない。
しかし俺は慌てずに対処する……刀をすべて亜空間の中身と入れ替え、用意された刀を握り締める。
「では、いざいかん──“■■■■”」
◆ □ ◆ □ ◆
アメを名乗った天狗の姿をした者は、いっさい警戒を緩めなかった。
自分に何もかもすべてを隠し貫いた男を、たかが邪気程度でどうにかできたとはこれっぽっちも思っていないからだ。
「耐えられる肉体がないゆえ。この程度になることを許してもらいたい──剣技の果て、剣聖とはかのようなものなのだ」
「残念だったね、それは想定内だよ!」
「武技は使えぬが、その分腕を振るおう」
「……遅いね!」
心にもない真逆のことを言いながら、目の前の男から逃れる。
武器を持たないアメだが、優れた動体視力があるためそれを視認していた。
──神速の抜刀術。
これまでの無駄はないがそれ以上でも無い凡人の剣技から一変し、洗練された剣技。
全身をフルに稼働することで、武技ではない純粋な剣の技は昇華された。
「武技で言うところの……『居合・十式』であろうか? だがまあ、お主はこの程度軽く捌けるであろう?」
「……ははっ、もちろんだとも。だから、そろそろ終わってくれないかな。こっちもとことんやらせてもらうから──“噴獄嵐”!」
「そう言ってもらえて何よりだ。某もできぬ剣聖の剣技、使うのであればやらせてもらうか……風よ、静寂に凪げ──『風凪』」
再び十式相当の剣技が振るわれる。
十式は通常強化の果て、ただ振るい続けるだけでは至ることのできない極み。
触れたモノすべてに破壊をもたらす暴虐の嵐は、その中へ男を呑み込んだはずだった。
しかし、中から響く納刀の音。
たったそれだけで嵐は消え去り、その場は静寂に支配された。
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