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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と東の西京 その09

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「君は瘴気にも耐性があるんだね。正直、驚いたよ」

「……母の愛では無かったのか?」

「愛の力さ、それは否定しないさ。だからこそ、驚いているんだ──ここまで奥深くに来てもなお、平然としている君にね」


 あれから瘴気の濃さは、死者の都と同レベルぐらいにはなっていた。
 だがまあそこに行けるのだから、ここでもまだ普通に歩いていられる。

 最悪、{夢現反転}を起動するが……うん、もう少し体を馴染ませていこう。


「瘴気の濃さは、最大どれほどなのだ?」

「そうだねぇ……今の十倍ぐらいかな?」

「じゅっ、それはなんとも……いったい、何があるのであるか?」

「人々が疎み、拒絶し、存在を否定されたナニカ……みたいな感じでどうだい?」


 どうだい、と言われても答えづらい。
 だが瘴気が十倍か……未知適応と再編構築が上手く機能すれば、さらに強くなれるかもしれないな。


「それは面白そうであるな。アメ、お主はそこへ某を案内してくれるのであるか?」

「ははっ、直接向かうのはちょっとね。ただまあ、近くまで行ってみることにしよう」

「ありがたい。某もワクワクしてきたところである……よろしく頼む」

「ああ、任せておいてくれ」


 瘴気が濃くなるにつれ、通常の生命の反応がいっさい無くなっている。
 代わりに知覚できるのは、目の前の瘴気塗れの天狗同様に、瘴気で動く生命体のみ。

 アメ──暫定『邪天狗』は、瘴気が深くなるにつれてその存在力が増している。
 完全体の『偽善者メルス』ならばともかく、今の『メルス』では完勝はできないだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「あれは……祠であるか?」

「そうさ。あそこがもっとも瘴気の濃い場所だよ……耐えられるかい?」

「……いや、無理であろうな。こうして離れている今でも、時折感覚が狂う」

「さすがに君でも、ここが限界なのか」


 強化した視界──1km先に視たそれは、ポツンと置かれた祠である。
 そこから俺が居る場所まで自然はいっさい存在せず、枯れた大地だけが広がっていた。


「もしこれより先に進むというのなら、私も少しやることが増えていたからね。よかったよ、君がここで止まってくれて」

「ふむ……なあ、アメよ」

「なんだい?」

「本当に、ここで止まってよかったと思っているのであるか? そして、この先に進まなければやることが増えないのであるか?」


 ピタッと動きを止めるアメ。
 貼り付けていた笑顔も失われ、無表情の瞳がこちらを見てくる。


「おそらくだが、お主は本当のことを言えないのであるな? ……いや、正しくは嘘しか吐けないのであろう。真偽が分からぬ境界線がギリギリ、それ以上は言えぬのであろう」

「…………」

「質問に答えてほしい。お主は某と話しているのか? 肯定するのであれば、某は大人しくアメのやるべきことに従おう。だが、否と答えるのであれば──」

「うん、話していないよ・・・・


 すぐにアメから離れ、柄に手を伸ばす。
 だがアメを中心に放たれたエネルギーの波動に……その手を止めてしまう。


「よく知っていたね、誰の入れ知恵かな?」

「某は異界出身の者ゆえ。このような言葉も知っているのである──『天邪鬼』」

「そう、その通り。私は天邪鬼さ……こう言おうと、君には理解できないだろう」


 つまり、違うわけだ。
 天邪鬼は女神であったり子鬼であったり、目の前の邪天狗とは違う特徴があるとされている……しかも少し、できることも違う。

 天邪鬼とは心を読み、それを悪戯に用いたことから捻くれ者や少数者と定義された。
 つまり、絶対に嘘を吐かなければならないといった性質は持たないはずなのだ。


「それで、某はこれからお主はいったい何をされるのだ? まさか……殺すのか?」

「まさかまさか、そんなこと。私はこう見えても善なる神の一柱でもあるからね、誰も殺したこともない清い体さ。君にはただ、一度還ってもらおうと考えていただけだよ」

「……つまり、死ねと」

「ははっ、何もしないよ──ほらねっ?」


 再び浮かべられた笑顔、そして瞬時に近づいたアメは俺に貫き手を放っていた。
 それはすでに起きていること……一秒もしない内に、それは事実となるだろう。


「──“回流カイリュウ”」


 だが、その前に俺も対応していた。
 刀でいなし、弾き、その反動を使い後方へさらに下がる。

 本来はカウンターを行う武技だが……それが悪手だと、<八感知覚>が警鐘を鳴らしていたので俺なりにアレンジして対応した。


「まずまずだね。君はただの妖怪だと思っていたけど、まさかこんなに動けるとは……本当に予想外だよ」

「理解してもらえたようで、何よりである。某もただ死ぬわけにはいかぬ……案内してもらうのでな、ここより先へ」

「……まだ諦めないんだね。なら、私は君をもてなそうじゃないか。私なりの方法で、多少は加減をしてね」


 レイヴンが使っていた邪神の使徒の力以上のモノを、アメから感じ取っている。
 それらすべてが完全な悪意ではないだろうが……間違いなく、エネルギーは膨大だ。

 加減をするということは、裏を返して本気で行くということ。
 さてどうするべきか……異なる刀の柄を握り締め、そう思案していった。


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