上 下
1,314 / 2,519
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と東の西京 その09

しおりを挟む


「君は瘴気にも耐性があるんだね。正直、驚いたよ」

「……母の愛では無かったのか?」

「愛の力さ、それは否定しないさ。だからこそ、驚いているんだ──ここまで奥深くに来てもなお、平然としている君にね」


 あれから瘴気の濃さは、死者の都と同レベルぐらいにはなっていた。
 だがまあそこに行けるのだから、ここでもまだ普通に歩いていられる。

 最悪、{夢現反転}を起動するが……うん、もう少し体を馴染ませていこう。


「瘴気の濃さは、最大どれほどなのだ?」

「そうだねぇ……今の十倍ぐらいかな?」

「じゅっ、それはなんとも……いったい、何があるのであるか?」

「人々が疎み、拒絶し、存在を否定されたナニカ……みたいな感じでどうだい?」


 どうだい、と言われても答えづらい。
 だが瘴気が十倍か……未知適応と再編構築が上手く機能すれば、さらに強くなれるかもしれないな。


「それは面白そうであるな。アメ、お主はそこへ某を案内してくれるのであるか?」

「ははっ、直接向かうのはちょっとね。ただまあ、近くまで行ってみることにしよう」

「ありがたい。某もワクワクしてきたところである……よろしく頼む」

「ああ、任せておいてくれ」


 瘴気が濃くなるにつれ、通常の生命の反応がいっさい無くなっている。
 代わりに知覚できるのは、目の前の瘴気塗れの天狗同様に、瘴気で動く生命体のみ。

 アメ──暫定『邪天狗』は、瘴気が深くなるにつれてその存在力が増している。
 完全体の『偽善者メルス』ならばともかく、今の『メルス』では完勝はできないだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「あれは……祠であるか?」

「そうさ。あそこがもっとも瘴気の濃い場所だよ……耐えられるかい?」

「……いや、無理であろうな。こうして離れている今でも、時折感覚が狂う」

「さすがに君でも、ここが限界なのか」


 強化した視界──1km先に視たそれは、ポツンと置かれた祠である。
 そこから俺が居る場所まで自然はいっさい存在せず、枯れた大地だけが広がっていた。


「もしこれより先に進むというのなら、私も少しやることが増えていたからね。よかったよ、君がここで止まってくれて」

「ふむ……なあ、アメよ」

「なんだい?」

「本当に、ここで止まってよかったと思っているのであるか? そして、この先に進まなければやることが増えないのであるか?」


 ピタッと動きを止めるアメ。
 貼り付けていた笑顔も失われ、無表情の瞳がこちらを見てくる。


「おそらくだが、お主は本当のことを言えないのであるな? ……いや、正しくは嘘しか吐けないのであろう。真偽が分からぬ境界線がギリギリ、それ以上は言えぬのであろう」

「…………」

「質問に答えてほしい。お主は某と話しているのか? 肯定するのであれば、某は大人しくアメのやるべきことに従おう。だが、否と答えるのであれば──」

「うん、話していないよ・・・・


 すぐにアメから離れ、柄に手を伸ばす。
 だがアメを中心に放たれたエネルギーの波動に……その手を止めてしまう。


「よく知っていたね、誰の入れ知恵かな?」

「某は異界出身の者ゆえ。このような言葉も知っているのである──『天邪鬼』」

「そう、その通り。私は天邪鬼さ……こう言おうと、君には理解できないだろう」


 つまり、違うわけだ。
 天邪鬼は女神であったり子鬼であったり、目の前の邪天狗とは違う特徴があるとされている……しかも少し、できることも違う。

 天邪鬼とは心を読み、それを悪戯に用いたことから捻くれ者や少数者と定義された。
 つまり、絶対に嘘を吐かなければならないといった性質は持たないはずなのだ。


「それで、某はこれからお主はいったい何をされるのだ? まさか……殺すのか?」

「まさかまさか、そんなこと。私はこう見えても善なる神の一柱でもあるからね、誰も殺したこともない清い体さ。君にはただ、一度還ってもらおうと考えていただけだよ」

「……つまり、死ねと」

「ははっ、何もしないよ──ほらねっ?」


 再び浮かべられた笑顔、そして瞬時に近づいたアメは俺に貫き手を放っていた。
 それはすでに起きていること……一秒もしない内に、それは事実となるだろう。


「──“回流カイリュウ”」


 だが、その前に俺も対応していた。
 刀でいなし、弾き、その反動を使い後方へさらに下がる。

 本来はカウンターを行う武技だが……それが悪手だと、<八感知覚>が警鐘を鳴らしていたので俺なりにアレンジして対応した。


「まずまずだね。君はただの妖怪だと思っていたけど、まさかこんなに動けるとは……本当に予想外だよ」

「理解してもらえたようで、何よりである。某もただ死ぬわけにはいかぬ……案内してもらうのでな、ここより先へ」

「……まだ諦めないんだね。なら、私は君をもてなそうじゃないか。私なりの方法で、多少は加減をしてね」


 レイヴンが使っていた邪神の使徒の力以上のモノを、アメから感じ取っている。
 それらすべてが完全な悪意ではないだろうが……間違いなく、エネルギーは膨大だ。

 加減をするということは、裏を返して本気で行くということ。
 さてどうするべきか……異なる刀の柄を握り締め、そう思案していった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...