1,310 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と東の西京 その05
しおりを挟む「ふむ、符は契約用の他にもいくつかあるのか……だが、買えないのだな?」
「はい。組合で一定の評価を受け、組合員としての地位を高めていただけませんと」
「それを上げるためにはどうすれば?」
「……依頼を達成したり、素材を持ち込んでいただければそれで可能です」
和服の受付嬢は、表面上の笑顔をニッコリと浮かべてそう答えてくれる。
符の中には危険な術が刻まれている物もあり、そういったものは新人には買えない。
少なくとも公式の売店では、高難易度の符は買うことができないみたいだな。
西の大陸にある冒険者ギルドでも、似たような制度が取られているんだけどさ。
「相分かった。では、依頼を受けて認められようではないか。受付嬢よ、某のような者に丁寧な対応感謝する」
「……仕事ですから」
嫌悪感をいっさい見せないというのは、なかなかにできないことだ。
精神力が強い、そうあれと組合でもギルドでも言われているんだな。
……今回は<畏怖嫌厭>防止のスキルを使用していないので、嫌われるはずなのに。
一流の仕事人は、彼女のような人のことを言うのだろう。
「仕事か……できるだけ厄介な、それこそ誰も行えぬような依頼が良いのだがな。受付嬢よ、これをカタにするので何か達成が困難な依頼を出してもらえないだろうか?」
「……おかしなことを言う人です。ですが、それは…………一枚の羽で、それだけの魔力が感じられるなんて」
「これは太陽神の加護を受けし、『八咫烏』の羽である。二枚持つその一枚を担保にするので、どうか某に依頼を」
「ば、買収はダメですよ!」
おっと、そう捉えられてしまったか。
俺にとっては複製したアイテムでしかないのだが、やはりその裏事情を知らない受付嬢からすればその価値は計り知れない。
神の加護を持っていた魔物の素材は、加工することでそのまま加護を引き継ぐことができるのでかなり高価な取引がされるのだ。
そして、太陽神の加護であれば陽が出ている間恩恵がある物が大きい……つまり、世間一般的な活動をしている者にとって、喉から手が出るほど欲しい素材なんだよな。
「買収ではない、あくまでも担保だ。愚かにも死地へ向かう者の介添えをしてもらいたいだけである。組合員として、まだ最下位の地位……失うモノは何もない」
「で、ですが……」
「ダメならば、勝手に向かうまでだ。それでもいちおう、話は通そうと思った。せめて、依頼だけでも見させてもらえないだろうか。受けるかは別としてである」
「…………分かりました。ただし、絶対に受注はしませんからね」
そう言うと受付嬢は、一度奥の部屋へ引っ込んで数枚の依頼書を持ってきてくれた。
そこに記された内容は、まあなんとも面倒臭そうな依頼ばかり。
「これを出した者たちは、どのような目的で依頼を出したのだろうか」
「一級の方にのみ、見せているのですよ。ああ、もしかしたら私……減給されてしまうからしれません」
「……ははっ」
「笑わないでください!」
呪縛に耐えられる精神性があれば、時間経過で俺に対する認識も少しずつ改められる。
所詮は強制的な認識改変なので、少しずつ捉え方が修正させられていくのだ。
一度この場から離れたことで、そうなったのかもしれない……怒られているだけだが、まあ無視よりはありがたい。
「では、この『界廊』の調査という依頼を受けさせていただこう」
「だから、依頼の受注は……って、よりにもよって界廊の調査を!?」
バンッと机を叩き、周囲の視線を集めてしまう受付嬢。
だが本人はそんなこと気にしていない……叩いたダメージに、痛みを感じているから。
「~~~~ッ!」
「うむ、よく分からぬがこれがもっとも難易度が高いようなのでな。では、某は支度を行う故……烏の羽は七日を過ぎれば組合へ提供しよう。愚行に関しては、それで勘弁してもらいたい」
「あっ、待ってくだ……」
「では、頼んだのである」
受付嬢は忙しいので、止めようとした次の瞬間には俺を恨めしい目で見ていた次の冒険者によって道を阻まれる。
俺は俺で誰も居ないことを確認してから、一本の腰に差していた短刀を抜いて武技を行使した。
「──“隠潜”」
武技を使用することで、俺の姿は通常の方法では捉えることができない。
堂々と街の中を歩くが、組合から俺を制裁しに来た者たちも気づかず通過する。
「界廊とは世界を繋ぐ回廊のこと、つまりは妖怪の世界へ直接向かう連絡路。……これ以上のことは、学んだ書物には載っていなかったから分からぬが」
同じように、精霊の世界へ向かう界廊も存在するらしい。
精霊が人の世界へ来るときは別だが、逆に人が精霊界へ向かうためには……ほとんどの場合これを通らなければならないんだとか。
……ユラルのように追放された聖霊も、こちらの通路を通ることになる。
「やはり男子たる者、狙うは最上級の妖怪であろう。具体的には……うむ、いつもの感じであればなおのことよし!」
目的地は依頼書に書かれていた。
少々都から離れてはいるが、それでも行くだけの価値がある。
「受付嬢には悪いことをしたのである……アレとは別に、羽を加工して贈ることにしようか。んー…………まずは、眷属に相談しておいた方が好い気がしてきたのである」
うーん……アイリス辺りに相談しようか。
小物を気にしてくれるヤツ、あんまりいないんだよなー。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる