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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と東の西京 その05
しおりを挟む「ふむ、符は契約用の他にもいくつかあるのか……だが、買えないのだな?」
「はい。組合で一定の評価を受け、組合員としての地位を高めていただけませんと」
「それを上げるためにはどうすれば?」
「……依頼を達成したり、素材を持ち込んでいただければそれで可能です」
和服の受付嬢は、表面上の笑顔をニッコリと浮かべてそう答えてくれる。
符の中には危険な術が刻まれている物もあり、そういったものは新人には買えない。
少なくとも公式の売店では、高難易度の符は買うことができないみたいだな。
西の大陸にある冒険者ギルドでも、似たような制度が取られているんだけどさ。
「相分かった。では、依頼を受けて認められようではないか。受付嬢よ、某のような者に丁寧な対応感謝する」
「……仕事ですから」
嫌悪感をいっさい見せないというのは、なかなかにできないことだ。
精神力が強い、そうあれと組合でもギルドでも言われているんだな。
……今回は<畏怖嫌厭>防止のスキルを使用していないので、嫌われるはずなのに。
一流の仕事人は、彼女のような人のことを言うのだろう。
「仕事か……できるだけ厄介な、それこそ誰も行えぬような依頼が良いのだがな。受付嬢よ、これをカタにするので何か達成が困難な依頼を出してもらえないだろうか?」
「……おかしなことを言う人です。ですが、それは…………一枚の羽で、それだけの魔力が感じられるなんて」
「これは太陽神の加護を受けし、『八咫烏』の羽である。二枚持つその一枚を担保にするので、どうか某に依頼を」
「ば、買収はダメですよ!」
おっと、そう捉えられてしまったか。
俺にとっては複製したアイテムでしかないのだが、やはりその裏事情を知らない受付嬢からすればその価値は計り知れない。
神の加護を持っていた魔物の素材は、加工することでそのまま加護を引き継ぐことができるのでかなり高価な取引がされるのだ。
そして、太陽神の加護であれば陽が出ている間恩恵がある物が大きい……つまり、世間一般的な活動をしている者にとって、喉から手が出るほど欲しい素材なんだよな。
「買収ではない、あくまでも担保だ。愚かにも死地へ向かう者の介添えをしてもらいたいだけである。組合員として、まだ最下位の地位……失うモノは何もない」
「で、ですが……」
「ダメならば、勝手に向かうまでだ。それでもいちおう、話は通そうと思った。せめて、依頼だけでも見させてもらえないだろうか。受けるかは別としてである」
「…………分かりました。ただし、絶対に受注はしませんからね」
そう言うと受付嬢は、一度奥の部屋へ引っ込んで数枚の依頼書を持ってきてくれた。
そこに記された内容は、まあなんとも面倒臭そうな依頼ばかり。
「これを出した者たちは、どのような目的で依頼を出したのだろうか」
「一級の方にのみ、見せているのですよ。ああ、もしかしたら私……減給されてしまうからしれません」
「……ははっ」
「笑わないでください!」
呪縛に耐えられる精神性があれば、時間経過で俺に対する認識も少しずつ改められる。
所詮は強制的な認識改変なので、少しずつ捉え方が修正させられていくのだ。
一度この場から離れたことで、そうなったのかもしれない……怒られているだけだが、まあ無視よりはありがたい。
「では、この『界廊』の調査という依頼を受けさせていただこう」
「だから、依頼の受注は……って、よりにもよって界廊の調査を!?」
バンッと机を叩き、周囲の視線を集めてしまう受付嬢。
だが本人はそんなこと気にしていない……叩いたダメージに、痛みを感じているから。
「~~~~ッ!」
「うむ、よく分からぬがこれがもっとも難易度が高いようなのでな。では、某は支度を行う故……烏の羽は七日を過ぎれば組合へ提供しよう。愚行に関しては、それで勘弁してもらいたい」
「あっ、待ってくだ……」
「では、頼んだのである」
受付嬢は忙しいので、止めようとした次の瞬間には俺を恨めしい目で見ていた次の冒険者によって道を阻まれる。
俺は俺で誰も居ないことを確認してから、一本の腰に差していた短刀を抜いて武技を行使した。
「──“隠潜”」
武技を使用することで、俺の姿は通常の方法では捉えることができない。
堂々と街の中を歩くが、組合から俺を制裁しに来た者たちも気づかず通過する。
「界廊とは世界を繋ぐ回廊のこと、つまりは妖怪の世界へ直接向かう連絡路。……これ以上のことは、学んだ書物には載っていなかったから分からぬが」
同じように、精霊の世界へ向かう界廊も存在するらしい。
精霊が人の世界へ来るときは別だが、逆に人が精霊界へ向かうためには……ほとんどの場合これを通らなければならないんだとか。
……ユラルのように追放された聖霊も、こちらの通路を通ることになる。
「やはり男子たる者、狙うは最上級の妖怪であろう。具体的には……うむ、いつもの感じであればなおのことよし!」
目的地は依頼書に書かれていた。
少々都から離れてはいるが、それでも行くだけの価値がある。
「受付嬢には悪いことをしたのである……アレとは別に、羽を加工して贈ることにしようか。んー…………まずは、眷属に相談しておいた方が好い気がしてきたのである」
うーん……アイリス辺りに相談しようか。
小物を気にしてくれるヤツ、あんまりいないんだよなー。
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