上 下
1,309 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と東の西京 その04

しおりを挟む


「式神の召喚に、特別な詠唱などは必要ありません。魔力と札さえあれば、誰でも契約して召喚することできます」


 そう言うと組合員は、ずっと持っていた札に魔力を籠め始めた。


「大切なのはイメージ、符を通じて契約した相手と繋がる扉を心に思い浮かべて──この場へ手繰り寄せる!」


 魔力の高まりを感じたかと思えば、今度は組合員の隣に新しい生命体反応を感知する。
 そして、その場所でポンッと小さな爆発と閃光が生まれ──現れた。


「この子は『一つ目小僧』のヒー君、私と契約した式神です。戦闘力はあまりありませんが、斥候能力に長けていますよ」


 和服の小さな子供……だが、その顔についている目の数が異なっている。

 そんな妖怪が、式神として符から召喚されたわけだ……口寄せとは違った形で召喚を実行したわけだな。


「こんな見た目ですけど、私よりもご高齢の式神でもあります。何か尋ねるのであれば、しっかりと敬語を使ってくださいね」

「──おう、よろしくな新人共! ……というかお前、ヒー君は止めろって言ってるじゃねぇか」

「と、式神もとい妖怪は見た目と実際の年齢が異なる場合があることを忘れないでくださいね。かつて、それを怠った結果悲惨な目に遭った方もいるそうですから」

「……ったく、お前は変わらねぇな。ここからは俺主導で説明していくぜ。妖怪の何たるかを洗いざらい教えてやるよ」 


 そんなこんなで、説明者は組合員から彼女の式神へ交代となった。

 都の外から来た者はともかく、子供たちはこういう光景にも慣れているのだろう。
 特に興奮するわけでもなく、当然の結果のようにそれを受け入れている。

 一方、俺のようにそうではない者の中には困惑気味の者が居た。
 これから、妖怪と式神契約的なことをするのだから……慣れないといけないのにな。


「いいか、妖怪ってのは多種多様だ。お前たちや俺のように人族を模した奴、動物を模した奴、植物を模した奴……珍しい奴だと道具や建物みたいな奴もいる。そして、下級と上級もあるんだ」

「下級妖怪と上級妖怪の違いは、この街に張られた結界の外で正常に活動できるかどうかだ……ああ、ちゃんと説明してやるよ。正常じゃなければ、活動できるさ。だがずっと外に居ると……汚染され、『荒魂』になる」

「そうなると、もう魔物と同じだな。荒魂は自分の妖怪としての概念に忠実になって、ただ暴れるだけの存在になる。だからこそ、下級妖怪はこの結界の中で契約者を見つけておくわけだ」


 精霊と似たような感じだな。
 一定の領域から出ると、何かしらの問題が生まれてしまう点とか。

 精霊も、魔物になってしまう場合がある。
 その原因は環境を穢された場合など、主に精霊そのものに原因が無いことが多い。

 精霊の場合は、環境を改善したうえで鎮魂の儀的なことをすれば元に戻るのだが……妖怪の場合はどうなんだろうか?


「生まれつき上級の妖怪も居るし、下級から上級へ成り上がる妖怪も居る。ちなみに、俺は下級だぞ。上級だったらわざわざコイツと契約しなくとも、外に出られるんだしな」

「……妖怪は式神として活動して経験を積んで、レベルを上げて上級妖怪を目指します。私とヒー君の契約の一つにも、定期的にレベルを上げることが入っています」

「昔はどいつもこいつも上級だったが、今はそんな戦いもないからな。魔物を倒して地道に上げてくしかないんだ。人族と契約して外に出て、それこそ地道にな」


 昔は敵対する人族を殺していれば大量の経験値が手に入って、それで荒魂となる前に上級妖怪になれていたのだろう。

 だが『陰陽道師』によって平和となり、そうできない状況が生まれた。
 故に異なる手段──人族との契約を介して上級へ至ることを選んだわけだ。


「──とまあ、俺からの説明はこんな感じで終わりだ。あとは任せたぞ」


 ヒー君こと一つ目小僧の妖怪は、登場時と同様にポフッと光を生みだした次の瞬間には消えていた。

 気になって魔視眼で観察してみたところ、一度魔力に還元されて符の中に入り、刻まれた送還術式によって亜空間へ行ったようだ。


「最後に、皆さまに符を配布します。一人ずつ受け取ってください」


 符が貰える、ということで子供たちのテンションが急激に上がった。
 都外の者たちも、こっそり拳を握らせるなどのアクションをしている。

 全員が符を受け取ったところで、組合員は改めて説明を行う。


「この符は位階が3辺りの妖怪までしか式神契約をすることができません。この街に住む下級妖怪の方であれば、それで充分だからです。外に居る妖怪や上級の方と契約を結ぶのであればもっと上質な符を探してください」


 符の作り方は秘匿されているため、組合や専門の店で買わなければならないんだとか。
 だがそれでも、普人フーマンが作る符では位階9ぐらいまでが限界らしい。

 それ以上は技術に特化した種族が作成した符、もしくは迷宮などで見つかる符を使わなければならない……まあ、生産神の加護で作り方は分かったので、俺自身が手を加えればどうにかなりそうだ。


「では、これにて説明会を終了します。妖怪の方に迷惑を掛ける契約の強要にだけは気を付けてくださいね──犯罪になりますから」


 そう言われたところで、説明会は幕を閉じた……それを言わないといけないって。
 いったい、何度それが罪として繰り返されたんだろうな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...