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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と東の西京 その03

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「ふむ、ここであるな」


 街並みはすでに説明したので、例の組合とやらについて話しておこう。
 シンプルに言えば──井島版のギルドだ。

 俺が作った身分証も、東都支部で登録して用意した物である。
 システムはだいたい冒険者ギルドと同じもので、やっていることも似た感じ。


「逆に同じようにしているのでは、と思えるほどであるな……互換機能が無いところだけは、少し謎ではあるが」


 言語は共通のモノを用意しているのに、ギルドは別々にしているんだよな。
 そこまでいっしょにしていたら、何かあると疑念を抱いていたかもしれない。

 ──何かしらの意志によって、それが成されたのか? とな。


「だがまあ、そんなことはござらん。今の某は新人の冒険者として登録しておる」


 冒険者組合、なんだよな。
 ギルドカード代わりの組合札を見ながら、そんなことを思う。

 西の大陸と同じ冒険者、という概念がバッチリ伝わっているのはなぜだろうか?
 探索者とか、そういう言葉にならなかったのが疑問だって……やっぱり気にしてるな。


「──式神に関する講座を受ける方は、こちらへお集まりください!」

「……うむ、時間であるか」


 講座を受けるのは、俺だけではなく新人らしい子供や遠くから来た者たちなどだ。
 東都では式神を使うことはないので、習う必要が無かったからな。

 式神を作製するためには、符という紙が必要で……それは西京でしか作れない。
 そして何より、友好的な妖怪は西京で暮らしているからな。


「──続きは講座で、でござるな」


 俺が考察していることなんかより、もっと詳細な情報を組合員教えてくれるだろう。
 支払った金額の分も含めて、しっかりと耳に入れておかないとな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──私たち人族と妖怪は、かつて争い合う関係でした。しかし、かつての『陰陽道師』様である『アベノハルアキ』によって、私たちは妖怪たちと友好的な関係を結んだ……とされています」


 曖昧な説明から講義は始まった。
 耳に入った『アベノハルアキ』とは、地球における『安倍晴明』のことだろう。

 実は読み方がはっきりとしておらず、いちおうは『セイメイ』が主に伝わっているがそれ以外にも候補が挙げられているぞ。

 あとは『陰陽道師』という単語。
 システムとしての職業なんだとは思うが、たぶん上位の職業だよな……就職条件を知っておきたい。


「さて、そんな私たちの関係を表すモノの一つ──それが式神です。契約を結んだ妖怪の方を、召喚することができます。式神の利点として、契約の媒介に使った物が無くならない限り妖怪の方が半不死になることです」

『!』

「妖怪種はもともと、長い寿命を持っているためただ生きているだけでは死ぬことがないそうです。そうした退屈が理由で、かつて争いが起きていたそうです」


 物凄くはた迷惑な話だが、停滞した日々を破壊したかったのだろう。
 そして『陰陽道師』によって、それが満たされるようになったわけだ。


「契約に使うのはこちらの札──契約符という品です。互いに契約を交わすことで、妖怪種の方にこの札へ憑依してもらいます。すると、彼らは人の世を自由に回れるようになりまして、契約者を守護してくれるのです」

「なぁ先生、ならなんで契約していないヤツもこっちにいるんだ?」

「それは、ハルアキ様によって西京内であれば契約が無くとも活動できる結界が構築されたからです。短期間であれば外にも居られますが、それでも彼らが満足する経験をするためには誰かと契約しなければなりません」


 子供の質問に、組合員は答える。

 妖怪は西京に居るのではなく、西京にしか居られないということか。
 前に鬼が東都に居たのだが……まあ、それも話を聞けば分かるのか?


「話を戻しましょう。契約方法は二つ──この街に居る妖怪の方と契約を交わす、もしくはそれ以外の妖怪と契約を交わすことです」

「えっ、外に出られないんじゃないの?」

「一部の実力を持つ妖怪の方は、外でも活動することができます。もともとハルアキ様が結界を張られる前も、妖怪種がこちらの世界から来ていましたからね」


 妖怪は精霊のように、妖怪の世界から来た種族である。
 精霊同様に、ランクがあって単独活動ができるかどうかが決まっているのだろう。


「彼らとこの札を使い、契約を交わせば晴れて式神を手に入れたことになります。しかしながら、彼らはアナタがたの奴隷ではありません。そのことを理解してくださいね──最悪、契約を反故したとして殺されますよ」

「こ、殺される!?」

「契約を違えれば、です。君はお友達の妖怪の子との約束を破るのですか? ……その通り、その心さえあればきっと、妖怪とも仲良くできますよ」


 精霊は仕えることに満足感を得る種族。
 だからこそ、精霊は多少性格が悪い奴にも従っているんだよなぁ……俺も含めて。


「実際に妖怪種の方と契約を交わす方法を教えることはできません。しかし、どういった方が居るかをご説明することはできます。次の時間は、そんな妖怪種についてのご説明を妖怪の方に行ってもらいます」


 講義はまだまだ続く。
 ……符の解析、まだ進んでいないな。


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