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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と東の西京 その02

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 天象紋様が刻まれた着物に身を包み、編み笠を被るかつてのPKスタイル。
 前回と違うのは、装備しているのが二本の妖刀では無い部分だ。


「……あー、あーあー……うむ、こんな感じにすれば良かろう」


 演技スキルは皆無ではあるが、声を変えることは別の才能が求められる。
 なので、それ故に簡単にできた──声色を変えて気分だけでも変化させておく。

 いわゆる、声に重みや力強さがあるというヤツだろうか?
 普段の薄っぺらいモブボイスから、そんな主人公に居そうなクリアボイスへ変更する。

 口調は俺の考える侍……モドキ。
 外国人の考える侍、みたいな感じの口調を意識しておく。


「それにしても……過去の日の本とはこのような場所であったのでござろうか? 某たちの知らない、未知の世界が…………やっぱり維持は止めておこう」


 とりあえず声の設定を{夢幻記憶}に刻んだので、必要に応じて先ほどまでの声色を出すことができる。

 ただ、それ以上に言葉遣い……じゃなくて語彙が尽きそうなんだよな。
 我ながら、実に面倒臭い役割を演じようとしたものである。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ふむ……これは興味深い」


 その光景を見た日本人は、きっと俺と似たような感想を抱くに違いない。
 目の前に広がるのは、もう一つの可能性を歩んだ日本とも言えようか。


「東都はそれでも、まだ江戸としての在り方があった。しかし、西京は……ふむ」


 東は侍や武将の概念が色濃く残り、西は妖怪や陰陽道の概念が強く残った街。
 それだけしか分かっていなかった俺には、その意味が理解できなかった。


「妖怪とはどこから生まれた存在なのか……少なくとも、人の世とは異なる文明を築いているのであろうな」


 平安風の街並みなのだが、別にお歯黒や白粉をする者はいない。

 牛車が走っているわけでもなく、十二単を着た者が歩いているわけではない……それこそ、普通の街のような喧騒が広がっている。

 カジュアルな服装で街を歩く陰陽師、そしてそれに付き従う妖怪……見た目を気にしなければただの友人みたいな光景もあった。


「妖怪を忌み嫌わず、共に在り続けた世界がここにあるのか……東とは扱いが異なるのであろうな」


 あちらではそうそう見かけなかった妖怪がたくさんいる光景を見て、そう感じる。
 大人から子供まで、多様な妖怪たちと共にこの街で生きているのだろう。


「──などといった光景を、強化した視力で把握しているわけだが……ふむ、まずは入るために審査を突破せねばな」

「次の方、どうぞこちらへ」

「うむ、相分かった」


 街の入り口に在る門の下では、妖怪と普人がいっしょに審査を行っている。
 時間潰しに先の光景を見ていたが、ようやく俺の番がやってきた。

 他大陸のギルドカードは使えない。
 というか、そもそもギルドの体系がまったく異なっている。

 なので代わりの身分証明を、東都に居るうちに準備しておいた。
 ……ちょうど、井島から来た男が帝国には居たから準備は簡単だったのだ。


「ノゾムさん、ですか。こちらを訪れるのは初めてのようですね……失礼ですが、こちらへ来た目的は?」

「うむ、観光である。特に目的を持っているわけではないが、その街々でしか味わえぬモノを味わっているな」

「……観光ですね。では、一つ質問を行います──彼のことをどう思いますか?」


 彼、というのは先ほど挙げた妖怪のこと。
 人に似た鬼人のような種族ではなく、頭と背中に皿と甲羅を乗せた──河童である。


「どう、と言われても……何か問題があるのか? 多少人族と異なる姿をしているが、他種族とはそういうものであろう?」

「…………合格です。この街、というより西側では私たちは対等な関係を築いています。妖怪だからと差別を行った場合、その者は即刻厳罰を受けます」

「なるほど、それは当然であろう。何か気にしておかなければならぬことはないか?」

「東都よりお出でとのことですが、妖怪語は習得されていますか? 時折この街にまだ馴染んでいない妖怪が、あなたに話しかけた際言葉が伝わらない場合がございます」


 英語を勉強していない日本人に、日本語を使えない外人が絡んでくるようなものだな。

 共通語は使えれば大抵の者と話すことができるのだが……普人以外は独自の言語を持っており、そちらを使っている場合がある。

 言語云々を解決する方法はいくつかあり、魔道具で翻訳することも可能だ。
 だが俺には必要ないので、河童に意識を向けて語りかける。


「……これで伝わるだろうか? 河童殿、妖怪と接する際に気を付けなければならないことはあるだろうか?」

「! あんた、スゲェ上手いな。まあそうだなぁ……いきなり契約を申し込んだりしないのは大前提だが、ずっと妖怪と呼ぶのはやめておいた方がいい。あんたも自分を人族って言われ続けるのは嫌だろう?」

「なるほど……相分かった。では河童殿、契約やそういった常識を学ぶためにはどうすればよいだろうか?」

「へぇ、結ぶ気があったのかい。なら、組合に行ってみるといい。あんたみたいなヤツのために説明会をやっているぜ」


 親切な河童に感謝して、街へ入る。
 後ろでは普人と河童が、揃って俺に恒例の言葉を告げていた。


「「ようこそ──西京へ!」」


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