1,307 / 2,519
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と東の西京 その02
しおりを挟む天象紋様が刻まれた着物に身を包み、編み笠を被るかつてのPKスタイル。
前回と違うのは、装備しているのが二本の妖刀では無い部分だ。
「……あー、あーあー……うむ、こんな感じにすれば良かろう」
演技スキルは皆無ではあるが、声を変えることは別の才能が求められる。
なので、それ故に簡単にできた──声色を変えて気分だけでも変化させておく。
いわゆる、声に重みや力強さがあるというヤツだろうか?
普段の薄っぺらいモブボイスから、そんな主人公に居そうなクリアボイスへ変更する。
口調は俺の考える侍……モドキ。
外国人の考える侍、みたいな感じの口調を意識しておく。
「それにしても……過去の日の本とはこのような場所であったのでござろうか? 某たちの知らない、未知の世界が…………やっぱり維持は止めておこう」
とりあえず声の設定を{夢幻記憶}に刻んだので、必要に応じて先ほどまでの声色を出すことができる。
ただ、それ以上に言葉遣い……じゃなくて語彙が尽きそうなんだよな。
我ながら、実に面倒臭い役割を演じようとしたものである。
◆ □ ◆ □ ◆
「ふむ……これは興味深い」
その光景を見た日本人は、きっと俺と似たような感想を抱くに違いない。
目の前に広がるのは、もう一つの可能性を歩んだ日本とも言えようか。
「東都はそれでも、まだ江戸としての在り方があった。しかし、西京は……ふむ」
東は侍や武将の概念が色濃く残り、西は妖怪や陰陽道の概念が強く残った街。
それだけしか分かっていなかった俺には、その意味が理解できなかった。
「妖怪とはどこから生まれた存在なのか……少なくとも、人の世とは異なる文明を築いているのであろうな」
平安風の街並みなのだが、別にお歯黒や白粉をする者はいない。
牛車が走っているわけでもなく、十二単を着た者が歩いているわけではない……それこそ、普通の街のような喧騒が広がっている。
カジュアルな服装で街を歩く陰陽師、そしてそれに付き従う妖怪……見た目を気にしなければただの友人みたいな光景もあった。
「妖怪を忌み嫌わず、共に在り続けた世界がここにあるのか……東とは扱いが異なるのであろうな」
あちらではそうそう見かけなかった妖怪がたくさんいる光景を見て、そう感じる。
大人から子供まで、多様な妖怪たちと共にこの街で生きているのだろう。
「──などといった光景を、強化した視力で把握しているわけだが……ふむ、まずは入るために審査を突破せねばな」
「次の方、どうぞこちらへ」
「うむ、相分かった」
街の入り口に在る門の下では、妖怪と普人がいっしょに審査を行っている。
時間潰しに先の光景を見ていたが、ようやく俺の番がやってきた。
他大陸のギルドカードは使えない。
というか、そもそもギルドの体系がまったく異なっている。
なので代わりの身分証明を、東都に居るうちに準備しておいた。
……ちょうど、井島から来た男が帝国には居たから準備は簡単だったのだ。
「ノゾムさん、ですか。こちらを訪れるのは初めてのようですね……失礼ですが、こちらへ来た目的は?」
「うむ、観光である。特に目的を持っているわけではないが、その街々でしか味わえぬモノを味わっているな」
「……観光ですね。では、一つ質問を行います──彼のことをどう思いますか?」
彼、というのは先ほど挙げた妖怪のこと。
人に似た鬼人のような種族ではなく、頭と背中に皿と甲羅を乗せた──河童である。
「どう、と言われても……何か問題があるのか? 多少人族と異なる姿をしているが、他種族とはそういうものであろう?」
「…………合格です。この街、というより西側では私たちは対等な関係を築いています。妖怪だからと差別を行った場合、その者は即刻厳罰を受けます」
「なるほど、それは当然であろう。何か気にしておかなければならぬことはないか?」
「東都よりお出でとのことですが、妖怪語は習得されていますか? 時折この街にまだ馴染んでいない妖怪が、あなたに話しかけた際言葉が伝わらない場合がございます」
英語を勉強していない日本人に、日本語を使えない外人が絡んでくるようなものだな。
共通語は使えれば大抵の者と話すことができるのだが……普人以外は独自の言語を持っており、そちらを使っている場合がある。
言語云々を解決する方法はいくつかあり、魔道具で翻訳することも可能だ。
だが俺には必要ないので、河童に意識を向けて語りかける。
「……これで伝わるだろうか? 河童殿、妖怪と接する際に気を付けなければならないことはあるだろうか?」
「! あんた、スゲェ上手いな。まあそうだなぁ……いきなり契約を申し込んだりしないのは大前提だが、ずっと妖怪と呼ぶのはやめておいた方がいい。あんたも自分を人族って言われ続けるのは嫌だろう?」
「なるほど……相分かった。では河童殿、契約やそういった常識を学ぶためにはどうすればよいだろうか?」
「へぇ、結ぶ気があったのかい。なら、組合に行ってみるといい。あんたみたいなヤツのために説明会をやっているぜ」
親切な河童に感謝して、街へ入る。
後ろでは普人と河童が、揃って俺に恒例の言葉を告げていた。
「「ようこそ──西京へ!」」
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~
Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。
彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。
「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」
そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。
「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」
正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。
いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる