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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と東の西京 その01

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 第四世界 死線の大地


「……運動にはちょうどいいんだよな」


 縛りをいっさい施していない、完全無欠の偽善者モード。
 一定数を補充するように湧いてくる膨大な数の魔物たちを、その状態で捌いていく。


「さて、いったい何をしようか? 毎度毎度暇になるとこう思うけど……眷属に言われない限り、特段やる気が湧かないからなぁ」


 体を動かせば何か閃くかと思い、この場を訪れたが……現在、何も思い浮かばず。
 神眼が把握した魔物の群れ、その挙動を先読みしたうえで対応していく。

 武器を持っておらずとも、予め魔物の動きに合わせて拳を乗せておくだけで、勝手に魔物は吹き飛ぶ……それこそ反射的にだ。


「左手は添えるだけ、っと。そもそも触れただけでおしまいだよっと」


 現在は能力値に制限が無いので、ソウとも渡り合えるほどの超スペックボディである。

 指先で小突くだけでも魔物を倒せる怪力があるので、適当な挙動だろうと触れれば倒せるわけだな。


「……とりあえず、一度綺麗にしておくか。魔導解放──“花咲舞い散る桜吹雪”」


 巨大な桜の幻影が生えると、そこからヒラヒラと花弁が舞い落ちる。
 魔物たちがそれに触れると──凄まじい勢いで弾かれ、遠くへ飛んでいく。

 この魔導“花咲舞い散る桜吹雪”は、不壊の花弁を振り撒くというシンプルなモノだ。
 イメージしたのが桜なのは……やはり、俺が桜に思い入れがあるかもしれないな。


「桜、かぁ…………」


 適当にチョイスした魔導だったが、目の前の光景になんだか感情が揺さぶられる。
 すぐに{感情}に抑制されるのだが、それでもその事実だけは記憶に刻まれた。


「桜かぁ……」


 桜吹雪と血飛沫が舞い散る中、ボーっと呟く俺だった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 井島 上空


「さて、そもそも今も桜が咲いている場所はあるのかな?」


 超高度から神眼を使い、今なお咲いている桜を捜索している。
 季節は春……ではないので、もしかしたらの可能性に賭けていた。


「あー、やっぱり眼に見える範囲には咲いていないか。迷宮ダンジョンの中も探すか?」


 迷宮の中には、人々の幻想が形を成す……幻想型迷宮というものが存在するのだとか。
 そんな場所であれば、いつでも桜が観れるようになっているかもしれない。


「ついでに座標も把握。あっちが前に行った東の都『東都』、であっちが西の都『西京』か……前にも思ったが名前はシンプルだな」


 東は江戸風だが、西は平安風である。
 人が視えるレベルまで倍率を上げていないので分からないが、もしかしたら白粉やお歯黒なんかをやっているかもしれない。

 ちなみに、まだ北海道の部分とか九州の部分に北と南の街が、四国にも何かしら大都市があるらしい……前回のフィレルとのデートの間に、情報収集は終わらせておいたのだ。


「西か東か、どっちの方が桜が在りそうかって考えていたが……迷宮ならどっちでもよくなったんだよな。前回は東だったんだし、今回は西に行こうか」


 東では当代のオダ家が祈念者対策をしているだろうし、からかうのも悪いだろう。
 一方西には接点も無く、いろいろと見てみたいモノがたくさんある。


「忍術は無い可能性が高いが、陰陽師とか巫術関係が多く分かりそうだな」


 あとアレだ、妖怪が使う妖術。
 眷属の妖術と東都で遭遇した鬼が使っていたモノしか使えないので、レパートリーが少なくて心細い。

 縛りはまだ決めていないものの、現地で模倣したモノは使って良しにしてみようと考えている。


「まずは“空間圧縮キューブ”で舞台を作って、それからサイコロを用意……よし、準備できた」


 空間を押し縮め、物質化できるほどに固めた塊をいくつか作って土台にしてみた。
 サイコロを上空で振っても問題ないようにするには、少々強引でもこうするしかない。


「もう場所は決まっているから、目的と縛り内容だけでいいな……二つ分っと」


 今回はサイコロを二色用意し、それぞれの結果を同時に出すことに。
 パラッと落とした二つのサイコロは、揺れに揺れて土台を転がる。


「…………おおっ、なんともピッタリな」


 身支度をして、最後に神眼で地形を把握したあと能力を解除。
 空間魔法も中断し、空から地上へゆっくりと降りていく。


「……ん? 反応があるな」


 鳥系の魔物に襲われないよう、さらに上で桜を探していたのだが……自動的に発動した感知スキルがとある存在に接近に気づく。


「おおっ、野生の辰は初めてだな」

『GWOOOOOOOON!』

「竜語は……通じないか。身の丈に合わない相手に挑むとどうなるか、まだ知らないってことだな」


 幼い成辰なのだろう。
 自身の力に酔った辰は、蛇のように体をうねらせて俺を丸呑みにしようと空を泳ぐように近づいてくる。


「仕方ない──やるか」


 今回の縛りは都合よく刀。
 背中に斜め掛けにしていた太刀を引き抜くと、上から下に振り下ろすようにただ力強く叩き付けた。


「──“壱断ちヒトタチ”」

『GUWOOOOON!?』

「安心しろ、峰……ではないが刀の腹だ。角は折れただろうが、授業料として持っていくだけだ──失せろ」

『GUWOOOOOOOOOOOO!』


 膨大な魔力と<畏怖嫌厭>の相乗効果によって、辰は戦う意欲を失い逃げていった。
 ……辰の角は複製したうえで、どこかへ売り捌くとしよう。


「さて、今度こそ改めて行くとしよう」


 そんなこんなで、今回の縛りは刀系統オンリーな武士スタイルでやっていきます。


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