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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と精霊講義 後篇
しおりを挟む「精霊に関する禁忌だけど……リュシルンに先に訊いておくね──何があると思う?」
「精霊の怒りを買う行為というのがありました。たしか、意に反する行動を強要することでしたか?」
「……たぶんそれは、その精霊がそういう性格だったからだね。あと、みんな嫌がることだから精霊だけってわけじゃないと思うよ。正解は一つだけ、メルスンがよくやっている新しい精霊の創造だよ」
精霊は生みだされるモノである、これまでの話を聞く限りはそう解釈できるはず。
なのに俺の創造は否定され、禁忌だと告げられる……なぜだろうか?
「さっきの例の場合、精霊は世界の一部として組み込まれて存在できる。微精霊は使われる分だけ消えるから、ある意味帳尻が取れている……けど、メルスンの場合はドゥルンやスピルスンみたいに恒常的に維持ができる」
「帳尻……ということはつまり、創造と喪失にバランスがあるのですか?」
「うん。精霊は星のエネルギーから生みだされるもので、そこにみんながそれぞれの形を魔力で切り取って生みだしている。けど、メルスンは違う。自分で必要なモノを全部揃えちゃうから、バランスが崩れる」
再び白板に絵を描いていく。
世界を模した丸から微精霊が次々と生まれてくるのに対し、俺を描いたのであろう人型の絵もまた精霊を生みだしている。
「感覚的に分かるんだけど、メルスンも別に擬似的な上級精霊を生みだすのは別に構わないんだよ。だけど、それを別属性にしたまま放置したり、特殊な精霊を生みだしたりするのがダメなんだよ」
「……その地域における属性の比率が狂う、また特殊な精霊によって環境が変化することが問題なんですね」
「そう! ドゥルンみたいな子はまだいいけど、火精霊である火焔蜥蜴を氷冷蜥蜴にするみたいなことはダメなの……メルスン、理解してくれた?」
「…………はい」
修練場で使う分には問題ないのだが、やはり外の世界で使うのはダメなんだとか。
要するに、環境に影響を及ぼす害獣ならぬ害精霊を生みだしてはいけないのだろう。
……ただ、そろそろ生徒らしく質問をして真相に近づこうか。
「じゃあユラル、ドゥルみたいな精霊を創ることに関する問題はなんだ?」
「特殊な精霊は本来、人が創っちゃダメだからだよ。これはこれから説明するんだけど、一個体しかいない特殊な精霊は、精霊神様が他の神々といっしょに生みだした特別な存在なの……それこそ、聖霊と同格ぐらいに」
「俺もドゥルのイメージには、別の属性を混ぜ合わせたからな。加護もあったし、だから創造できたのか」
精霊竜であるスピルスもまた、俺が必要な要素である精霊神と竜神の加護を持っていたからこそ生みだせたのだろう。
活動を停止している神々ではあるが、加護のシステムさえ正常に運用されていればいいのかもしれないな。
閑話休題
「──さっきまで話していた特殊な精霊、それはドゥルンみたいに環境ではなく別のナニカを守る精霊なんだ。今からその種類を、把握できる限りで書いてもらうよ」
「はい。書物に記されている限り、歴史に何度か登場している精霊が何柱か居ました」
リュシルが白板に近づき、絵を……
「あ、あれ? ん~~~! ん~~~!」
『…………』
「ん~~~~~!! …………マシュー」
「畏まりました……ぷふっ」
テンションが一段階変動するリュシルとマシュー。
代理でペンを持ったマシューが、主の意を汲み取った絵を描いていく。
「……選ばれた勇者や魔王に光の精霊と闇の精霊が干渉するように、特定の因子や才能を持つ者の前に彼らは現れます。武器精、と呼ばれる限りなく神器に近い武器となる精霊たちです」
「物凄く聞き覚えがあるんだが……」
「この他には──獣の精霊である獣精、機械の精霊である機精などが有るとされます」
「その通り。ちなみに最初に挙げられた武器精の、一部能力に特化したのがドゥルンなんだよ。彼らは無尽蔵に武器を生成できるし、自分自身も魔力が尽きない限り破壊されてもすぐに修復……なんてことができるよ」
武器を無尽蔵に生成って辺りが、どうやら異なっていたようだ。
うん、勇者とかになられていても困る。
「あとはそうだなぁ……星の精霊──星霊が居るかな? これはもう桁違いのレベルで上位存在で、精霊神様や聖霊神様と同列の存在なんだよ。だってほら、世界の管理者の一柱だからね」
「ユラル先生、なら俺の世界にも同じ存在を創った方がいいんじゃ──ぶっ!」
「やってはいけません。できないって言いたいのに、そう言い切れないのがメルスンのダメなところだね。何が起こるか分からないから、自然発生するのを待って」
「……自然に発生するのか?」
これまでの話的に、禁忌なんだから創るなで終わると思ったんだがな。
「メルスンの世界が条件を満たせば、正式に世界として扱われた証拠として星霊が生まれるんだよ。だけど、それをする前にやったら何がどうなるか分からない……絶対に、やっちゃダメだからね」
「はいはい、分かりました分かりました」
「はいは一回だよ、メルスン──それじゃあ次は、特殊な精霊のやってきたこととできることについてお勉強するよ!」
『はーい!』
◆ □ ◆ □ ◆
なんてことをその日はやり続けた。
……まあ、ほぼ歴史だったので少しずつダウンする眷属が増えたとだけ記しておこう。
しかし、武器の精霊か……俺はギーが居るし、ドゥルが居るからまったく必要ないとはいえ、固有魔法として武器魔法の単一特化型が使えるらしい。
他の種族関係の精霊も、種族に関する性質の引き上げみたいな感じで強力な能力を揃えているんだとか。
「──特殊精霊……やっぱり創ろうか」
「メルスン……なんでそう、変わらないのかな? ダメだって言ってるのに」
「一つしか無いモノを二つにする、なんてことはしないさ。あくまで俺オリジナルを創るだけ。少なくとも、眷属の役に立てるような精霊にしておくよ」
「もう、そう言われちゃうと反論できなくなるじゃん……」
講義が終わり、俺とユラルだけとなった会議室の中。
いつもの格好に戻ったユラルが近づいて来たので、本音を伝えておく。
「そもそも、精霊は願いを叶えてくれるんだろう? 眷属が傷つかない世界を、そう願うことぐらい許してくれよ」
「だからって、メルスンが傷つく世界も嫌だからね。みんなが笑っていられる場所を、私たちと作って」
「……聖霊に願われるとは、俺もまた地位だけはデカくなったものだな。任せておけ──最初に契約した聖霊の頼みだ、やってやろうじゃないか」
「うん。いっしょに頑張ろう、メルスン」
また一つ、約束が交わされ縁が深くなっていく……。
眷属といっしょなら、どこまでもやれる気がしてくる。
──まあいずれ、眷属を笑えなくした運営神には落とし前を付けてもらおうか。
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