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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と精霊講義 中篇

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 夢現空間 会議室


 何かしら、話し合いがあればこの部屋だ。
 前回の聖霊に関する講義を訊く際も、この場所を使っていた。

 ユラルは今回も女教師っぽい服装に身を包み、眼鏡まで着装してのスタンバイだ。

 前回と違う点と言えば……隣に助手としてリュシル、その助手にマシューが居るところである。


「いや、助手の助手って何?」

開発者ディベロッパーを補助するのは私の役目です。たとえ創造者クリエイターがユラル様の補助をせよと命じようと、私が開発者の傍から離れることは……少ししかありません」

「ああ、そういえば未だに『小さな世界』に入れていないのか……どんまい」

「…………ッ」


 小さく舌打ちされたうえ、上座から凄まじい速度でナニカが飛んできた。

 躱すのもアレだと判断し──反射眼で把握したうえで、一気に魔力と気力で額を硬くしてそのまま弾き返す。


「…………ふっ」

「──ッ!」

「あの、メルスさん……あまりマシューをからかわないでください。マシューも、それ以外の時間はできるだけいっしょに居られるようにしているんですから…………ねっ?」

「……畏まりました、開発者」


 仲裁役のリュシルによって、俺たちの小さな闘争はすぐに幕を閉じる。
 そして話はユラル講師による精霊学──魔法でチャイムを再現して、講義を始めた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「精霊は大きく分けて七種類の属性が居て、それぞれの環境に合った場所に住んでいるんだよ。これは魔法の属性でもある基礎七大属性と同じ──火・水・風・土・光・闇・無に分けられています」

[火:温度を司る
 水:水温を司る
 風:気流を司る
 土:地面を司る
 光:明光を司る
 闇:暗闇を司る
 無:未知を司る]

「あくまで環境だけだから、魔法みたいに解釈なんてことはしていないよ。自然の中でどの属性の精霊がどんな場所に居るのか……これだけで考えてね」


 白板に書かれた七属性、それは精霊たちが司る環境を示している。
 光が闇に合わせている感があるし、無が意味するものが少し分かりづらい。

 だがまあ、そういったことは予想済みだろうし、もう少し話を訊き続ける。


「精霊は魔力で活動する精神生命体、自然現象を守るための存在。基本的に生まれた場所から離れることはないけど、自分と同属性の魔力がある場所ならどこにでも生まれる」

「……生まれる?」

「そう、生まれるんだよ。人々がその属性を使いたい、という無自覚の願いに精霊たちが呼応しているの。もっと強くしたい、その想いが世界から精霊を切り取っているんだよ」


 白板に大きな丸、そして少し離れた場所に小さな丸を描いていく。


「意思を持っていない擬似的な精霊を生みだして、補助をさせているの。強い想いを以って使う魔法が高い威力を発揮するのは、こういう現象があるからなんだよ。で、これを意識的に行うのが──精霊魔法なんだよ」

『へ~』

「えっと、リュシルン……何か捕捉しなきゃいけないことはあるかな?」


 これらの話は、あくまで精霊側の話。
 事実がそうだったのであろうと、知らずにいた者たちは異なる解釈をしている。

 そして、それを知るであろうリュシルは、自身の記憶の中からもっともその答えに合う情報を引き出す。


「そうですね……下級精霊の中でも、意思を持たず存在がすぐに失われる精霊を微精霊と呼ぶ地域があったそうです。これは、ユラルさんの話と照らし合わせる限り、無自覚の生成のことなんでしょう」

「微精霊……うん、そういう言い方もできるね。ちなみに、メルスンと接触する前のナースンも微精霊と同じ状態だよ。無精霊だからどの場所にでも居られるけど、魔力に干渉されたらたぶん消滅してたと思う」

『え~~~!』


 意思を持たないからこそ、微精霊たちは自身を厭わず魔法の行使などに力を貸すのだろう……ナースもナースという自我を持たなければ、いずれそうなっていたかもしれない。


「落ち着け、ナース。それは仮定の話、すでにお前は俺の配下だ。無かった話を、いちいち気にする必要などな……いぐがぁっ!」

『けいやくしゃー!』


 講義を理解するお頭も無いのに参加していたナースは、感極まり身体強化された状態で突っ込んでくる。

 いちおう人化ができるようになった今も、ナースは精霊状態で居ることが多い。
 ……まあ、あの状態になっても上手く言葉が話せないからな。


 閑話休題ひきはがします


 優秀な回復職は居ないが、回復魔法を使える者は多いので痛みを緩和してもらう。
 ある程度良くなったら痛覚を遮断して、講義を再開してもらった。


「……えーっと、本当はしたくないけど本題はここからだよ。精霊に関する禁忌、つまりやっちゃいけないこと。いつもいつもそれをメルスンが破るから、みんなもいっしょにそれを勉強しよう!」

「メルスさん、私が言うのもアレですが……言われたことは守りましょうよ」


 うん、禁忌の智を求めた学者が言うことではない気がする。


「俺は、眷属を守りたいという大義名分の下戦力増強を行っていただけです──無罪を主張します」

『…………』


 ……周りの視線は、無罪とは言っていないが気にしない。
 ギリギリセーフのラインを知るためにも、講義を最後まで訊かないと。


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