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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と精霊講義 前篇
しおりを挟む夢現空間 修練場
「──というわけで、改めてオリジナルの精霊創造に関する注意点を訊きたい」
「…………」
「なあ、落ち着いてくれよ。少なくとも事前に確認している辺り、ある程度成長したと思わないか? これもきっと、ニィナが加護的なモノをもたらしたのかもしれないな」
「メルスン、そもそもアウトだって言ったことだからね。成長も何も、ダメな方向へズブズブ沈み込んでいるから」
おっと、これまた手厳しい聖霊様だ。
しかし無言で生みだした神樹を消してくれる辺り、話をしてくれる気はあるようだな。
「前回は精霊に関することはちょっぴりで、聖霊に関することばっかり聞いたからな。今回は精霊に居る希少な固有精霊……時とか空間の精霊についても学んでおきたい」
「うーん……聖霊に関することなら、基礎知識として頭に入っているんだけど。そういうことって、私よりリュシルンに訊いた方が分かると思うよ?」
「そうかもしれないけどさ。ほら、ユラルは精霊の創造がアウトとかそういう禁忌な部分は分かっているだろう? 分からなかったらリュシルにも訊けるようにダブル講師体制にして……なっ?」
「もう、そこまで言うなら仕方がないね。分かった、今度やってみるよ」
すぐに、ではない。
リュシルとユラルの都合、そしてその講義に興味がある眷属たちの時間調整などが必須事項だからだ。
完全に暇なのは俺ぐらい、あのパーティー以降はニィナも忙しい日々を送っている。
本当、俺って無職感が溢れているよな……おまけに言うとヒモ属性も。
「リュシルの予定の大半は、研究所関連のことだしな。アッチと連絡を取って、時間を空けてもらうことにする。精霊に関する情報を訊きたいのは、みんな同じだしな」
「……って、メルスン以外が禁忌に踏み込むようなことはしないでよ? メルスンはいちおうでも精霊神様と聖霊神様の加護を受けているから、できているんだからね」
「種族神の加護を受けると、種族の創造ができるってことか? なら、それなりに俺が生みだせる種族って多いんだな」
「そうじゃなくて……うん、これ以上は言うのを止めておくよ。知れば知るほど、なんだかメルスンが高笑いしながら新しいナニカを創る未来しか見えてこないし」
ご明察である。
だがまあ、そんなにひどいことでも無かろうに……武具っ娘や一部の眷属の肉体である『機巧乙女』だって、ある意味新種族だぞ。
どうせなら、【種族創造士】にも就いておきたかったな。
他の創造系職業である世界とスキルには、いろんな意味で助けられていたし。
っと、話が逸れたな。
とりあえずリュシルにもこの話をしておかないと……うん、まだユラルにしたばっかりの話だから何も言っていないのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
図書室
「──それは構いませんが……ユラルさんだけでも充分では?」
「本人がそう望んでいるんだし、リュシルがどう答えるかだな。ここの書物に、ユラルが知らなくてリュシルが知っていることがどれだけあるかなんて、俺にはサッパリだし」
「私が知っているのは人族が定義した精霊であって、実際に精霊とは違っているかもしれませんよ? どれだけ調べても、本質とは差があるかもしれません」
どれだけ理解しようとしても、対象のすべてを知り尽くすことはできない。
動物だろうと植物だろうと、人間だろうと世界だろうと……それは同じこと。
だがそれでも、知ろうとすることに無駄なことなんてない。
相手を理解しようとする、まずそういったことをしなければ分かり合えないからだ。
「そういう部分も含めて、学んでおきたい。ちなみにリュシル、特殊な精霊について何か知っていることは?」
「特殊な精霊……ですか? 個体としてですか、それとも属性として?」
「そこから知っておきたいんだが、個体と種族で特殊という言葉にも差があるのか?」
「はい。個体の場合、王や女王を冠している精霊ですね。各属性ごとに存在し、それぞれの属性精霊を束ねています。属性の場合は、ナースさんのように存在自体が希少なケースですね」
王や女王か……ファンタジーの概念で言えば、定番の存在だな。
特に精霊王、なんていかにもである。
聖霊は精霊王のさらに上位の存在し、神霊はその上の種族だ。
そう考えると……うちの環境はやはり異常と言えよう。
「ナースは導いたから例外にするとして、他に伝承とかに記された面白そうな精霊っていないのか? すでに存在している精霊なら、創っても怒られなさそうだ」
「……たぶん、怒られますよ。時の大精霊や空間の大精霊といった存在が世界を生みだしたという話がありますね。大精霊、といった種族が無いはずなのですが」
「無いはずの種族、そして貴重な属性……それは面白そうだな。ユラルに講義の時、試していいか言っておこう」
「だから、絶対に怒られますよ」
未来予知とかそんなレベルではなく、もうそれって確定した事項だよな。
まあそれでも、俺は試すことを止めない。
時と空間の精霊はまだ試したことがなかったので、創造の際の危険性などをしっかりと訊いておかなければならないからな。
……うん、創るのは前提である。
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