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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー後篇 その10

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 夢現空間 玄関


「まだ続けるのか?」

「……兄さん。うん、ぼくが納得できる中でみんなが許してくれたのがこれだから。少しでも何かしないと、落ち着かないんだ」

「そうか……限界だけは超えるなよ。それをしたら、他の奴らも罪悪感を覚える」

「……うん、分かった」


 帰ってきた俺を迎えるのは、背負う必要のない罪を抱える『ザ・グロウス』ことニィナである……創造うみの親である運営神たちに強い想いを抱いていたが故に、その所業を必要以上に受け止めてしまっている。

 無限に学習し、成長する『超越種』。
 その力は運営神の想像以上に、心を育み優しさを理解できる子にしていたのだろう。


「どうしたものかねぇ。まあ、できるだけここは眷属に任せたい……どうなっている?」

「──年少組が懐いているわね。ニィナは別に悪人ってわけじゃないし、むしろどうにかしてあげたいって感じみたいよ。魔王様、今後のご予定は?」


 いつの間にか傍に侍っていた、メイド姿の少女──リッカに状況を尋ねてみる。
 年少組……まあ、ミントやカグのことなんだが、上手くやっていけそうだ。

 ちなみに、眷属の大半は生まれて一年ぐらいなんだよな。

 見た目でだいたい分けているのだが、いわゆる『見た目は子供で頭脳が大人』……なんてヤツもいるわけだし。


「とりあえずはアレだな。ちょうどだし、二人に頼めば連れてきてくれるだろう」

「そっちは任せておきましょう。私は私で、魔王様のサポートに入るわ」

「イベントも一区切り、新しい家族の加入を祝って──パーッとやりますか」


 まあ要するに……歓迎パーティーを開くってことで。
 とりあえず、全員のスケジュールを空けられるように連絡を回しておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 食堂


 ミントとカグの協力もあって、ニィナは土下座を止めて食堂にやってきていた。
 捕しょ……捕縛後に空腹度システムを導入させたので、お腹も減っているようだ。


「それじゃあ、新しい家族であるニィナよりまず一言!」

「えっ? え、えっと…………お、お世話になります?」

「はいそれじゃあ──乾杯!」

『かんぱーーーい!!』


 戸惑うニィナをハイテンポで進めることで素直に応対させ、いちいち悩みを思い返させる暇を与えずに迎え入れる。

 持っているグラスを打ち鳴らさせ、グイッと飲んだらパーティーの始まりだ。


「……とは言っても、今回はニィナが主役だから特にやることはないけどな。好きなだけ食べたり飲んだり、そういうことをして楽しみを見つけてくれればいいさ」

「…………訊いてもいい?」

「別に構わないが……なんだ?」

「なんで……私も?」


 食堂の端に移動した俺の下に来たのは、輝くオーロラのような髪色をフードの中に押し込む少女である。

 グラスや皿を持ち歩くでもなく、ただただ質問するためだけにこちらへ来たようだ。

 彼女はリラ、ニィナの次に新しい家族。
 童話『星の銀貨』の主人公であり、異常な献身を行う【献上】心の塊みたいな少女だ。


「何か問題でもあったか?」

「ノゾムはあの子を救いたかった……だから迎え入れたのは分かる……けど、私は本当に必要だったの?」

「眷属になっただろう? あっちでシャルも歌ってるし、何をしてもいい。ただ、どうせなら友達になってやってほしい──願いじゃなくて、ただの期待だ」

「…………難しそう……」


 まあ、そんな在り方で生きていたからか、いろいろと性格に難ありだけれど。
 同じく『赤ずきん』の主人公であるシャルは、友達が最初から居たんだけどな。


「リラ、とりあえずニィナと話してきてくれないか? 話題が無いなら、挨拶だけでも構わない……まあ、他の眷属が何かしら繋げてくれそうだが。それだけでも、お前との縁がニィナの中で生まれる」

「……どんなことでもいいの?」

「ああ、今のニィナはそれ以前の問題だ。まずは前を向かせるところから始めないと」

「……分かった、行ってくる……」


 俺の持っていたグラスの中身を魔法で取り除き、代わりにジュースを注いだ状態で渡しておいた。

 捧げるために生きていたせいか、あんまり自分のモノを持とうとしないんだよな。
 いずれはそういう部分も、少しずつ改善していかないと……。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「に、兄さん」

「ん? なんだニィナ、もうみんなと話すのはいいのか?」

「み、みんなが兄さんに言った方がいいって言うから……その聞いてほしいんだ」


 パーティーも終わりに近づいた頃、ニィナが俺の下へ訪れる。
 遠くからこちらを見守る眷属たち……やれやれ、いったい何を吹き込んだんだか。


「兄さんは……ぼくが必要?」

「必要とか必要じゃないとかじゃなくて、俺はお前と仲良くなりたかった。それだけじゃダメなのか?」

「……みんなが言ってた通り、兄さんはこういうとき話を逸らすんだって」

「アイツら……」


 ギロッと本当に視線で衝撃を生みだすが、そんなもの速攻で無効化してこちらを見守る眷属たち……クソッ、こういうときに小技が使えればな。

 なんてふざけたことを考えている俺とは対照的に、少しずつ感情を沈めてしまっているニィナは語り続けていた。


「教えて兄さん……ぼくは、ここに居てのかな? 兄さんを殺そうとして、みんなにひどいことをした運営神様が生んだ『超越種』なのに……こんなに楽しい場所に」

「いいんだよ。そんなこと言ったら、ただのモブでしかない俺がアイツらと家族になったりハーレムを構築できているこの現状は、異常でしかない……だけど、異常じゃないと今にはならなかったんだ」

「兄さん……」


 そう、『普通』じゃありえない。
 常識も倫理も、あらゆる<美徳>や<正義>側に立つ者たちが、俺という存在が行ったすべてを否定するだろう。

 だが、<大罪>たちはそれを肯定する。
 思うままに歩めと、少しずつ『普通』という思考の軛を外していきながら。

 囚われている必要などすでに失われた。
 どのような形であろうと、俺は眷属たちと共に在り続けたい。


「普通なんてクソくらえだ。ニィナ、お前は俺たちの家族として……特別な繋がりを持つ一員として、ここに住むんだ。これからよろしくな──ようこそ、家族へ」


 差し出した手を、ニィナは握り締める。
 頬からは涙が伝っているが、それを拭こうともせずに。


「本当に……本当に、ここに居ていいの?」

「ああ。文句を言うヤツがいたら、俺に言ってくれ……眷属相手以外なら、ガツンと言ってやるからな」

「もし、眷属の誰かだったら?」

「そのときは……俺が泣くな」


 呆れたのか小さく笑ったニィナは、ようやく涙を空いた手で拭う。
 まだ手は解かれることなく、さらに力強く握り締められる。


「兄さん、兄さんもいっしょに行こう。みんな待ってるよ」

「い、いや、俺はここでお前が馴染んでいくのを観ていれば充分……」

「そんなこと言わないで……ほら、ね?」

「…………仕方ないな」


 ニィナに連れられ、再びパーティーを盛り上げて続けていく。
 足りない料理は補うし、イベントが足りないなら追加で行わせる。

 今日という日を良い日にさせよう──ニィナにとって、これからの毎日が楽しいモノだと分かってもらえるように。


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