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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー後篇 その08
しおりを挟む《ますたー、あとで呼びかけるからそのときに召喚してね!》
《えっ? まずは事情を説明……》
《このままだと揉めるよ? だから、シガンたちにも一度この場から離れるように言っておいて。少し演出をするから、今の内に移動しておいて》
《わ、分かりました》
特定しておいたクラーレたちの反応が遠ざかっていくことを確認したのち、不躾な者たちが結界が解除されるのと同時に近づいて来ようとするのを視界に捉え──
「ちょっと待った(──“百剣戦場”)!」
一度は内包魔力がゼロになったことで失われた剣の丘を、再び配置して牽制代わりに。
ビクッと足を留め、近づけない代わりにその場から叫びだす。
「おい、いきなり何をするんだよ! こっちはただ近づいただけだろうが!」
「ふーん、それでその後はどうするの?」
「ハッ、さっきのスキルについて根掘り葉掘り吐いてもらうに決まってるだろう。そんな便利そうなスキルを独占するのは悪だ。俺がしっかり使ってやる…………あれ? なんで俺はこんなことを言って……」
「“吐状剣”だよ。えーっと、他に人たちもみんなそんな感じなのかな?」
短剣をチラつかせると、刺した剣を避けて来ようとしていた者たちが動きを止めた。
「まず一つ──私は偉大なるますたーの従魔だから、許可なく情報を開示しません! 次に、[PvP]はますたーを通してくれないと受け付けてないから無理だよ。それと同じで、[フレンド]もダメだからね!」
ここでもう一本、剣を生みだしておく。
これまでのショーを観ているが故に、その剣がどんな効果を持つか分からないだろう。
「最後に。だからって、ますたーたちの冒険の邪魔をするのもダメだからね。もしそんなことをするなら……(“千剣弾幕”)」
攻撃にも防御にも使える、千本もの剣を宙に浮かべていっせいに放つ……シンプルだが恐ろしく力を発揮する魔法を発動した。
これまたどこかで見たことのあるような現象の再現なので、一部の理解者たちは盛り上がってくれている。
「どんな手を使っても、私が犯人を徹底的に潰すよ……合法的にね♪」
同時に百と千の魔法を解除し、俺の手には二本の剣しか残らなくなる。
そして、そのうちの一本である吐状剣を遠くに投げ飛ばし──告げた。
「本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。本日のプログラムはすべて終了いたしました──“二剣入替”。じゃあね!」
俺の姿はその場から消え、大衆の視線は先ほど短剣が投擲された方へ向かう。
そして俺は……もう片方の剣の名を告げ、さらに動く。
「──“転移剣”」
設定した座標へ向かえるこの魔法。
座標は先ほど探知を行った際、投擲した方向とは逆の場所にセットしておいた。
魔法の力で運動エネルギーがリセットされるので、突然視界が切り替わったあとは空歩で調整するだけで着地できる。
そして、辺りを見渡して安全を確認したあと……クラーレと連絡を取ることに──
《ますた──》
《霊呪を以って命ずる──メルス、さっさと来なさい!》
《……はぁ》
さらに視界は切り替わり、建物内へ移る。
そこで待つのは十二の眼による視線……それは何かを要求していた。
「……状況説明はあんまり時間が掛からないから、ホールケーキ一つ分だからね」
ホールケーキ、という部分で視線の大半は別のどこかへ向けられる。
虚空を見つめ、悦に耽る少女たち……いろいろと大丈夫なのだろうか?
◆ □ ◆ □ ◆
『──心当たりが多すぎる』
それが彼女たちの回答だった。
いやまあ、分かってはいたけれど。
女性だけ(一部を除く)で構成されたギルド『月の乙女』は、その在り方うかつてのシガンの状態もあって一部から嫌われていた。
大半はちょっかいを出して反撃を喰らっただけの逆恨みだが……それでも百パーセント相手が悪いかと聞かれると、そうとも言えない態度を取っていた彼女たちである。
「プーチはともかく、他のみんなはもう少し丁寧に対処すればいいのに……あっ、そういえばますたーは──」
「うぐっ! ……そうですよ、どうせわたしはコミュ障ですよ!」
「うーん、気にしなくて良いと思うけどね。私も家族以外が相手だと全然上手く話せない時があるし……そもそも、決まったことが言えればコミュ障も関係ないしね」
「そ、そうなんですか?」
ケーキのクリームが口についているので、生活魔法を組み合わせて拭き取っておく。
なぜかとても不満気な表情をし始めるのだが……まあ、気にしないで話を続ける。
「それは今度教えるね。ますたー、帰りも私の密出国を手伝ってほしいんだ。だから、協力してくれる?」
「……なんだか情報を取引材料にしているみたいですね。けど、構いませんよ……ただ、少し頼みたいことがありまして」
「ケーキ以外ならいい……って、やっぱり甘味だったんだ。新作のドーナツならあるけどそれでいい?」
「はい、むしろそれがいいです!」
周りで羨ましそうに見てくる五人にも、同じようにドーナツをプレゼントしておく。
クラーレ的に少し嫌かもしれないので……先にご機嫌を窺っておかないとな。
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