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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー後篇 その04

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 リーは神殿は向かった。
 途中までいっしょに行こうとしたのだが、からかいすぎたせいで怒ってしまい……喧嘩別れというヤツである。

 もちろん、そういう形なだけだが。
 武具っ娘たちは俺の本質を知っている。
 武具創造で生まれたわけではないリーもまた、なぜか知っていたんだよな。

 俺という人間の脆弱さ、そして臆病さ。
 それ故に起きうる問題すべてを受け入れてくれる存在──それが武具っ娘たちである。


「さっきから慌ただしく動いている気がするなー……“空間移動ムーブ”」


 座標を指定せずとも、視界内であればどこへでも向かうことのできる空間魔法。
 遠視スキルで遠くの場所を把握できる者であれば、その射程はさらに伸びる。


「よし、戻ってきた……次はっと」


 魔力が俺の身を包み、形を歪めていく。
 それは身長や体重などはもちろんのこと、種族や性別も……。


「ふぅ。さて、ますたーと合流しないと」


 毎度お馴染み、幼女であり妖女であり……ついでに養女でもあるメルへ変身した。
 変身魔法で俺という存在を書き換え、運営神にバレないように偽装を行う。

 人混みの中で転移を使うのは危険でもあるため、使えば危険行動ということで捕縛される可能性が高い。

 そもそも、一定以上の威力が出る魔法を使えば即通報されるだろう。
 探知系のスキルは問題ないので、ササッと記憶している波長を思いだして探索する。


「って……遠いなぁ。なんでわざわざ、そんな場所に……」


 俺が居る場所が南寄りの中央だとすると、ますたーことクラーレたち『月の乙女』は北東の区画に居た。

 そこいらは生産区──生産職の者たちが集まって素材加工やら装備修復などを請け負っている場所だ。


「……ああ、普通は修理するんだっけ?」


 俺の装備はすべて自動修復関係のスキルを持っているか、そもそも耐久度が減らないようなものばかりである。

 クラーレたちの武具にも一部はそうしてあるのだが……弟子である生産班の面々では、まだその域に達していないようだ。

 俺が用意した武具はどうにかなっても、防具などは作っていないので確実に修復が必要だろう……このイベントの間に、それだけの戦いを繰り広げていたのだろう。


「っと、危ない危ない」

「お前、どこに目を付けて……はっ?」


 俺が考え事をしているように見えたのかもしれない。
 当たり屋みたいなヤツが、俺に自然な形でぶつかってこようとしてきた。

 だが、並列思考もスキル無しでできるようになったうえ、スキルとして探知を行っている真っ最中なのだ……ただ突っ込んでくるだけの当たり屋程度、無意識で躱せるぞ。


「テメェ……PvPで勝負だ!」

「えっと……なんでそうなるのか、私には全然分からないんだけど」

「うっ、うるせぇな! とにかく、俺らと勝負してもらうぞ!」

「……えー」


 頭に鳴り響く[PvP]の申請。
 拒否することもできるのだが、偽善者は可能な限り願いを叶えてやるのが常であろう。


「仕方ないなぁ……ただ、ちゃんとハンデは付けるからね」

「へっ、まあ言うだけ言ってみろよ」

「私は魔法スキルを一つしか使わないから。あとは武技も使わないであげる」

「そんなもん、やるわけ…………はっ?」


 おそらく、俺が彼らにハンデを設けるとでも考えていたのかもしれない。
 だがその逆、俺が彼らのためにハンデを設けるという発言に気づいたようだ。


「話し合いがしたいよね。あっちとそっち、それとそこの人とあの人、ついでにあの人もかな? 仲間といっしょに話していいからすぐに決めてよ」


 探知スキルで見つけていた当たり屋の仲間たちにそう告げると、ゾロゾロと男が集まり当たり屋と合流する。


「おい、何をやってやがる」

「申し訳ありません……」

「チッ、まあいい。目標人物は確保できた、あとはこいつを囮にいけ好かない女どもを纏めて釣り上げるだけだ」

「さすが兄貴ッ!」


 会話から察するに、『月の乙女』へ復讐するために俺は狙われたようだ。
 引っ掛かるのは、俺をしっかりと認識している点である。

 いちおうクラーレの従魔として、俺はパーティーの中へ潜り込んでいた。
 だがメルとして呼ばれている間、俺の具体的な情報は『月の乙女』以外には認識しづらいように隠しているはずなのだ。

 なので、俺を俺だと分かったうえで襲ってこれるのはレアケースである。
 普段ならば、呪いでムカついたみたいな理由でも納得できるんだけどな。


「お兄さんたち、もういいかな? 私が用意してくれたハンデを受け入れてくれるなら、さっさと勝負を受けてほしんだけど」

「その代わり、一回きりか……お前が負けたら俺たちの言うことを訊いてもらおうか」

「私はますたーの忠実な下僕。それに反しないことなら、どんなことでもやってあげる」

「ほぉう、なんでもか……まあいい、ならばそれで充分だ」


 周りで観ていた奴らが盛り上がっている。
 一部は荒い息をハァハァとやっている……うん、俺には関係ないよな。


「それじゃあ、私が勝ったらさっさと帰らせてもらうからね」

「いいだろう、ご自慢の魔法がどこまで通用するか……試してみろよ」


 縛りを設けてのPvP。
 アルカと戦うような緊張感も無いので、気楽にやってみるか。


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