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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー後篇 その02

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 あれからもう少し、知っている祈念者と会話をしていたのだが──


《完了致しました》

「……やけに早くないか?」

《レミル様にレン様が行われた処置よりも、使えるモノが多いですので。やりようはございました》

「そ、そういうものなのか」


 処置、とかあまり言わないでもらいたい。
 レミルはいつの間にかレンがそうしていたのだが、今回は俺が俺の意思でそうするように命じたのだから。

 ということもあって、一度その場から離れ誰も居ない場所へ移動する。
 もう戦闘を行う必要もないので、アルカでも突破できない結界を辺りに構築しておく。


《すでに『グレイプニル』にて束縛しておりますので、抵抗することはないでしょう。また、リオン様による加工がされているため、運営神との繋がりも妨害してあります》

「そりゃあ凄い。それなら俺も安心していられるよ」

《もちろん、メルス様好みにしてありますのでそちらもバッチリです》

「……ん?」


 いやまあ、もう九割がた分かっている。
 アンたちのサービス精神が、いったいどの方向へ暴走したのかは。

 ……あながち暴走でもない気がするけど。

 アイツ──『ザ・グロウス』と出会い、言葉を交わして思っていた願い。
 それを汲み取った眷属たちが、それを叶えてしまった……いや、くれたのだと。


「喰った所に戻してあるのか?」

《いえ、今回は従魔として。メルス様の黒に転写しておきましたので、そちらを》

「……いつの間に」


 従えた奴らを呼びだせる召喚陣を描き記した魔本──『コンヴォシオン』。
 そこに新しく記された魔法陣を眺め、やや時間を空け……覚悟を決めて魔力を通す。


「さぁ現れろ──『ザ・グロウス』」


 なんだかこれまでのどの召喚よりも膨大な魔力を消費……しないな。
 むしろその逆、超コスパよく生みだすことができる愚物ぐらいのコスパの良さだ。 

 そんな安上がりな『ザ・グロウス』が、召喚陣からゆっくりと姿を現す。


「……ふー、ふー!」

「ま、待て。別に俺が命じたわけじゃないんだ。ただ、取るとどうなるか分からないからもう少し待機しててくれ」

「ふー、ふーふーふー!」


 まず、『ザ・グロウス』の口には紐が食い込んでおり言葉が発せられないようになっている……『グレイプニル』である。

 だが紐状のそれ、口だけでなく全身を結ぶように複雑な縛り方をされているのだ。
 しかも、なぜか胸を強調する感じで……子供なので、強調するも何もないけど。


「ふーーー!!」

「えっ、戦闘のために最適化された体? いや、別にそういうことが聞きたいわけじゃないからな。うん、まあ女一択に体を調整されたんだから諦めておけよ」

「ふーふー、ふーーー!」


 別に何を言っているかは分からないぞ。
 ……まあ、俺が言った通り性別は女になっている。

 もともとは無性だったようだが、性転換や女性化のサンプルが多い俺の周り。
 俺の知っている方法なのか知らない方法なのか不明だが、技術だけは確立している。


「まあ、もともとお前は見た目が中性的だったから変化はないんだけどさ。うーん、股間でも確認しておくか?」

「ッ──!?」

「冗談だって──もうとっくに視てある」

「…………ッ! ふーーー!!」


 うん、本当だと分かったようだ。
 さすが成長する『超越種』、こういうことでもすぐに理解してくれる。

 透視眼なんていかにも覗きにピッタリな眼で視たところ、俺の持つ凸部分が無かった。
 本当は布越しに確認しようと思っていたのだが……履いてなかったんだよ。


「そろそろいいかな? 俺の魔力で包んだから、舌を噛んで自殺はできないようにした。だからもう外してやるよ」

「…………どういうつもりなの?」

「何がだ? 主語を言ってくれないと、さっぱりなんだが」

「わざわざぼくを生かして、運営神様に対する人質にでも使うの? 残念、あの方々はぼくなんかに価値なんか見出していないよ……もう、ね」


 自分で言っていて虚しくなったのだろう。
 言えば言うほどテンションが下がっていく『ザ・グロウス』。

 一方俺はそんな傷心中の『ザ・グロウス』に近づくと、そっと手を伸ばす。
 これまでの行いのせいか、痛みに耐えるように目を瞑られるが──気にせず撫でた。


「名前、どうしようか?」

「……へっ?」

「『ザ・グロウス』って名前じゃなかなか呼びづらいだろう。グロウスは苗字にするとしても、やっぱり名前になる部分が要るだろうからなぁ。直接聞くのは反則だとは思うんだが、どんなのがいいんだ?」


 そもそも、運営神も『ザ・グロウス』を識別名にしても愛称のように使ってはいないだろうし。

 同じ『超越種』である『還魂』のアイドロプラズムは、自らをアイと名乗っていた。
 せめて、そんな感じで呼べる名前だったら良かったが……無いならば付けるしかない。


「どうして……」

「んー……って、理由か? お前が俺を呼んだんだろう──『兄さん』って。だから俺は兄として、下の子の面倒はみないとな。少なくとも、ロクでもない親族からは引き剥がしておきたかった」

「運営神様は……ロクでもなくなんかない」

「かもしれないな。だが、俺はそういう部分しか知らない。これは俺のエゴ、だけどそうしたかった……あのときは微妙だったが、今は立派な妹だしな」


 言っていることが無茶なことは分かっているが、それでも伝えておく。
 分かっているのだろう、『ザ・グロウス』もすべてを理解しているわけではないと。


「運営神も全員が悪いわけじゃない。ただ、少なくとも三柱は下界に干渉して生きとし生きる者の運命を狂わせている。残りの運営神には、良い奴がいるかもしれない。お前はたぶん、ソイツの部分が強いんだろうな」

「…………ぼくは」

「まずはソイツらに会ってほしい。それからだな、身の振る舞いを考えるのは」


 送還陣を広げ、『ザ・グロウス』を夢現空間へ届ける。
 念話で伝えておいたので、すでに待機しているだろう。


「そうだ……『虹成』、ニィナにしよう。虹に……さまざまな在り方を持てる、何にでも成れる子。気に入ってくれると嬉しい」

「……覚えておくよ」

「ああ、そうしてくれ」


 送還陣が起動し、『ザ・グロウス』……いや、ニィナはこの場から消える。
 そして、残された俺は念話でその情報を伝えておく……祝おう、『ニィナ・グロウス』の誕生を。


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