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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー後篇 その01
しおりを挟む俺自身は『ザ・グロウス』に関わらずに放置して、【暴食】で喰っておいた。
レミルの時と同じ展開だが……まあ、やることも同じなんだから当然だな。
無事に祈念者たちも『屍練の扉』を破壊することに成功、報酬として腕輪型の魔道具を入手した。
「もちろん、俺もゲットはしている。俺には必要ないけど、便利な効果だな」
詳細はまた後日……と思ったが、わりとすぐに説明することになりそうだ。
歓声を上げる祈念者たちの下へ、俺もこっそりと着地して合流する。
「あんたねぇ……」
「おう、アルカ。どうしたんだ、そんな怒ったような顔を浮かべて?」
「怒ったような……じゃなくて、怒っているのよ。やりすぎよ、やりすぎ! それに、二発も撃てたんじゃないの!」
「ああ、あれと最初の一発はまったくの別物だから関係ないよ。魔導……まあ、今のお前には使えないヤツだな」
それを言うだけで、アルカの怒りはより純度を高めたモノとなる。
そして、呼応するように一瞬髪の色が赤くなり……すぐに元へ戻った。
「なんだ、いつの間にそこまでできるようになってたのかよ」
「……当然よ、とは言いがたいわね。制御できていないからこそ、さっきも髪に影響が出ていたわけだし」
「眼までは変わってなかったし、だいぶ抑えられてる方だと思うぞ。それに、赤色の髪も似合っていたんじゃないか?」
「ッ! そ、そういうことをサラッと言わないでくれる!?」
なぜか無数の魔力球を放ってくるので、起動したままだった【暴食】でそのすべてを平らげていく。
どんな対策を施しているか分からなかったので、等しく呑み込んだ後で解析するのが得策だったんだよ。
「けど……せっかく封印できていたのに解放するのか? というか、お前以外に誰も使おうとしていないのに」
「だからこそよ。あんたにギャフンと言わせるためには、さらなる力が必要になる。一番手っ取り早いものといえば……やっぱりこれしかないじゃないの」
アルカの持つ固有スキル──【憤怒】。
正確にはアルカのではなく、アルカが借り受けたものではあるが。
その持ち主たる俺には、固有スキルによる侵蝕効果を確認することができた。
だが前に会った頃から、アルカだけが極稀に侵蝕を起こすようになったわけで……。
「完全な『蝕』の状態にはなってないみたいだが、いつ起きるか分からないんだぞ? 最悪、思いっ切り恥ずかしくなるような言動になるけど……それでもいいのか?」
「そ、それも覚悟の上よ! あんたを倒すためなら、それぐらい些細なことじゃない!」
「全然そんな小さなレベルじゃないからな。見せる気はないけど、俺にとってはだいぶ恥ずかしいし」
「……ねぇ、そんなに恥ずかしいの?」
その質問には答えず、遠くを眺める。
……嗚呼、よくもまあ眷属たちは俺といっしょに居てくれるものだ。
閑話休題
「ところでアルカ、あの腕輪はもう使い道を見つけてあるのか?」
「さっぱりね。いっそのこと、あんたに何か創ってもらおうかしら?」
「創るって……前にそんなノリで精霊を生みだしたんだが、ダメだって眷属に言われたんだよ。だから却下で」
「そうは言っても、なかなか見つからないんだから仕方ないじゃない。だからこそ、今回のイベントだったんでしょうけどね」
報酬は『試役の腕輪』。
その名の通り、お試し版の使役ができるという効果を持った腕輪である。
従魔契約を腕輪が仲介することで、魔物使い系の職業でなくとも一体のみ従魔を使役することができるのだ。
ただし、二体目以降は絶対にできない。
従魔の素晴らしさを知った者は、召喚士か調教士を目指すという抱き合わせ商法だ。
「まさか、ボスの宝珠や欠片が進化派生の触媒になるとはな。知らなかったヤツは、なんとしてもここに戻ってくるわけだ」
「……そういえば、このエリアって実際にはどこにあるのかしら? いちおう[マップ]で調べてみたことがあったけれど、うちのギルドは全滅よ」
「運営側で座標を隠しているからだろうな。どうせ後で放送するだろうから、それを待てばいいだろう」
ここはイベント用のエリアである。
かつての過去の王都エリア同様、こちらで起きたことを現実でも反映できるようにしてある……まあ、俺の“夢現返し”と似たようなものだな。
何が言いたいのかと言えば、最初からこのエリアは常設されることが確約されていたということだ。
そうでなければ、設備強化なんてシステムはいちいちやらないだろう。
「……ところで、あんたはどれくらい従魔を持っているの?」
「迷宮込みなら数えられなくなるが、それ抜きなら…………二十体ぐらいか?」
「眷属抜きで?」
「ああ、抜きでだ」
リョクやレミルなどは元従魔である。
だが一度転移によってリセットされ、契約の結び直しを行っていないため従魔ではなくなっているのだ。
「まあ、錬金術でも従魔は創れるんだ。自分で補助特化の人造魔物でも創ってみたらどうだ? 意外と使えるかもしれないぞ」
「……そうね、そのやり方もあったわね。参考にしてみるわ」
「あ、ああ……」
俺は自分を殺そうとしている相手に、そのためのヒントを与えてしまったのだろうか?
本当、死ぬ日もそう遠くはないかもしれない……そう思ってしまう俺であった。
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