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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー中篇 その19
しおりを挟む次元魔法──“災害喚起”。
本来であれば、ランダムに指定した場所へ大規模な自然災害を起こすだけなのだが、調整が加わり隕石のみが降る魔法となった。
今レイドバトルはクロスファイアが起きてしまうので、本来であれば広範囲に影響が及ぶ攻撃の使用は好まれない。
だがアルカによって大半の者を避難させられた今、そこは自己責任だろう……死なないとは思うけどさ。
「さて、これでしばらくはあの門も無敵解除状態だろう。うん、ナックルが指揮を執ってすぐに行動を始めてくれた」
門の装飾品を破壊すれば、召喚に掛かる時間やら無敵解除時間も伸びるらしいのでだいぶ有利となるだろう。
さすがに出てきた後のボスがどうなるかまでは、まだ分からないけどさ。
「だけどまあ、こんな絶好の機会に観察していないなんて選択肢は無いよな。わざわざここに来てくれてありがとう──『成長』」
「──正しくは『成超』、成って超えると書いて成超だよ」
「発音だけじゃ分からなかったんだよ。あえて嬉し……くはないが、とりあえず自己紹介でもしようか」
超高度に居るはずの俺の下へ現れる、少年か少女か分からない中性的な子供。
ただし神懸った精巧な顔立ちは、おそらく男女問わず心を奪われるだろう。
……俺? ほら、普段からもっと芸術的な美しさを兼ね揃えた眷属と居るからさ。
「俺は…………ノゾム。次元魔法が使えるだけのただの一般人だ」
「このタイミングで偽名を言うのは、どうかと思うな……『成超』にして『覚成』。一番新しい『超越種』──『ザ・グロウス』。よろしくね、兄さん」
「俺にはこんな、弟か妹か分からなくなるような血縁者は居なかったはずだが?」
「好きな方で考えて。今から始めることに、それは特に関係ないから」
改めて、容姿を見る。
ベースとなる白髪が虹色に輝き、光の反射によって色が変化していた。
瞳の色は普通に黒なのだが、時々目の中で数字の羅列が走っているように感じる。
服装はただ巫女だか巫覡だかが着そうな袴で、神々しい神器の持つ波動を感知した。
武器などは特に目に見える形で所持してはおらず、傍から無防備だと感じるだろう。
「始めること? なんだ、お兄ちゃんと遊びたかったのか?」
「うん、だいたい合ってるね。これからぼくと兄さんは死合いをするんだ。それで、最後にどちらかが倒れるまでそれを続ける──これだけのルールさ」
「……俺、そんなことよりも自分の知り合いがちゃんとやれてるかみたいんだけど」
「そんなことなんて、ひどいこと言わないでよ兄さん。ぼくに与えられた使命を蔑ろにするなんて……よよよっ、ぼくは悲しいよ」
ずいぶんと人間臭くなったものだ。
動きだけ見れば普通に可愛いと認めるのだが、これまでの発言もすべてずっと冷めた目で言っているので俺の心も冷めてしまう。
「あれ? これをやると、もうほとんどの人はため息を吐いたり息を漏らしたりして言うことを訊いてくれたんだけど?」
「前者は宝珠のために仕方なく、後者は……まあ、お前の顔がよかったからだろう」
「本当? ぼく自身は自分の顔を認識したことが無いから知らないし、特に興味も無かったんだけど……これもいちおう、兄さん用の対策になっているみたいだよ」
「……俺をなんだと思っていやがる」
可愛い子には手を出さないってか?
たしかに出した覚えはないが……それって単に、やる必要が無かっただけだろう。
実際、撲滅イベントでは老若男女問わずに滅ぼしたわけで……大切なのは、俺の偽善心に反応するかどうかでしかない。
だが、運営神側の見解は違ったようで──
「おかしいな……スペーク様からの確かな情報だったんだけど?」
「そんな不確かな確かを信じるな。それよりも、俺対策って言ったってことは──認めるということでいいよな?」
「うん、当然だよ。もちろん生まれた理由の全部じゃないにせよ、二人の兄さんを殺した兄さんたのためにぼくは創られた」
初代は『偽りの厄災』。
二代目は偽『模倣者』として、俺の前にその姿を現した。
そして三代目である『ザ・グロウス』は、段階を踏んでこの場に現れる。
祈念者という存在を識り、俺を殺すだけの力を蓄えたうえで。
「改めて──『ザ・グロウス』、無限の学習能力を与えられたぼくの使命は、運営神様に逆らう者や指示された者を処分すること。今その指示を受けている個体は一人……それが『メルス』兄さんだよ」
どうやら名前の方は、あっさり看破されていたようだ。
だがそれを気にする必要は無いので、平然とした表情で会話を続ける。
「……お前に殺されると、俺はどうなる?」
「死に戻りが確定した場合、兄さんは運営神様の所へ行くことになる。そして、その後はどうなるか……分かるよね?」
「ハッ、敵の本拠地に乗り込んで大暴れでもするってところか?」
あえて挑発するように煽ってみた。
だが『ザ・グロウス』は偽りの笑みを浮かべ、真の意味で何も映していない瞳をこちらへ向けてその回答を告げる。
「兄さんのログを本体からすべて暴いて、干渉したすべてを修正するんだよ」
「修、正……?」
「兄さんが考えているものでもっとすぐに理解できるものなら……『幻歌の王譜』であった書き換え現象だよ。兄さんの存在を触媒に使って、リソースを消費する。それだけで、兄さんの居なかった史実が誕生する」
「…………」
俺は閉口した──そして宝珠を手に取る。
ギーは呼ばないにせよ、『摸宝玉』でなければ勝てないと分かっていたから。
「それを使ってくれるってことは、どうやら本気で相手してくれるんだね?」
「…………」
「たしかにぼくを相手にするなら、下手な情報は漏らさない方がいいけど……それだけで勝てるなら、誰も苦労はしないよ」
運営神なりに工夫を凝らした『模宝玉』モドキを与えられた『ザ・グロウス』は、その珠を掌の上で転がし始める。
俺が黙っているのはそれだけが理由ではない──だがそれも、お見通しだろう。
(──“災害喚起・閃却万雷”)
万を超える轟雷と共に、もう一つの戦いの幕が開いた。
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