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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー中篇 その17
しおりを挟む「……美味いな、これは」
《メルスのがやっぱり一番だけど……うん、これも美味しいかな?》
「そう言ってもらえて何よりだ。けど、そっちの蛇にも食べさせて大丈夫なのか?」
「ああ、ただの白蛇に見えるようだが本性は違うからな。気にしなくて構わん」
むやみやたらに食べ物を動物に食べさせてはいけません!
当たり前のルールだが、眷属相手に気にしてはいけないことだ。
それに、消化強化系のスキルを持たせているので影響は及ばないだろうし。
卵を載せてもらった焼きそばは、前回よりも口の中に広がる旨味が強くなっていた。
タレも工夫を重ねていたのか、素材に負けない味わいとなっている。
「あの場所を教えて良かったと思えるな」
「……あんた、いったい何者なんだ? ただのプレイヤーじゃないはずだぜ」
「知りたければ好きにすればいいさ、別に止めはしないぞ。ただ、直接聞くのだけは止めてくれよ」
「あ、ああ……分かった」
だって、面倒臭いから。
ナックル辺りが来たときに確認すれば、知りたいことは分かるだろう。
ナックルは非常に優秀なので、言うべき情報と言ってはいけない情報をしっかりと分けて考えてくれているのも助かるところだ。
「これ、土産にもできるか? それぞれ指定したトッピングを増やしてもらいたい」
「ああ、できるぞ。マシマシもサービスにしておくよ」
「助かる。なら、その配分だが──」
少々厚かましく具材を増やしたり無くしたりしたが、それでも店主は俺の注文通りに焼きそばを完成させてくれた。
眷属がどういった焼きそばを好むのか未だに微妙なので、特殊な味付けも含めてさまざまな味を用意したわけだな。
「[アイテムボックス]はちゃんと空いているか? 無いならサービスで『収納箱』を用意するが……」
「『収納箱』? なんだ、それは」
「ああ、あんたは知らないのか? 最近、出回るようになった小型の『収納袋』みたいな物だ。容量は小さいが、念じるだけでアイテムを出せるのが便利ってことで最近は人気の魔道具なんだよ」
「それは……たしかに便利そうだな」
袋の場合、取りだす動作が必要だ。
だがその新作の場合、箱に触れるだけで自然とアイテムを取りだせるわけで……戦闘中など、無駄な動作を極力控えたい者などには人気のアイテムだろう。
「小さいのは安いんだ。だから、こういう店でも有償のサービスに付けられる」
「ならば、一つ買っておこう。ああ、こちらはそのままの値段で構わない」
「……まあ、あんたがそれでイイって言うなら別に良いんだが」
お値段は男が言った通り、そこまでの価格ではなかった……だが考えてしまう。
空間属性はレアなもの、それをこんなに安くして……何か裏があるのか、と。
そこら辺は解析班が調査してくれるだろうし、その結果を待てばいい。
もし何か問題があるのなら──そのときは偽善者が出動するだけだ。
◆ □ ◆ □ ◆
《どうだった、今日は楽しかった?》
「それは俺が言うべき台詞だと思うが……最高だったよ」
《ふふーん、蛇のままでもメルスを満足させられるなんて、さすがあたしよね!》
シャーシャー声が漏れるものの、辺りに蛇の姿を維持するヤンの言葉は伝わらない。
しかし、蛇のままの姿で胸を張ろうと起き上がる光景は、愛らしさでいっぱいだった。
そっと頭の近くに指を向かわせると、自分から指に近寄ってくれる。
その仕草も可愛いもので、そのまま頭を撫でておく。
《ん~~~。ところでメルス、明日は最終日なんだよね? 何かやりたいことって、考えてあるの?》
「まあ、あるにはあるが……なんでだ?」
《これまでやってきたことを考えるとさ、上手くいかない気がしてねー。ほら、独占したり殲滅したり、いろいろあったじゃん?》
「…………俺がやらかしたことばっかりだけどな」
お蔭様でリョクと出会えたし、イアのスカウトにも成功していた……まあ、悪い事ばかりじゃなかったわけだ。
だけどそれは俺の主観であり──現実において、そんな小さな出来事以上に祈念者が受けた被害は尋常ではない。
《えっと……グロース? みたいなのが居るわけじゃん? メルスは凶運だし、このまま何も起きない方がおかしいっていうか……》
「たしかにそうだが……さすがにバレている状況でお前たちは使えないぞ。ギーだけはバレているから、呼ぶこともできるけど」
《それは……【嫉妬】の権化たるあたしには賛成できないかな? 使うならちゃんと──あたしたち全員を使ったほしいな》
こういうところが、ヤンが病んでいない部分である。
俺の求めた理想のヤンデレ──他を思いやれる心を持っているのだ。
「ヤンには悪いが、今回は我慢してもらおうか。そりゃあ本当に危なくなったら全員呼んでも勝つし、最悪<正義>も使う。死にそうなら{感情}全部を使う……今回はたぶん、そうならないとは思うけどさ」
《えっ、なんで?》
「それはだな……」
さまざまなスキルを組み合わせて、今後起きうる事態を調べてみた。
その結果をヤンに教えてみると──納得してくれたようだ。
《ふーん、あたしたちの出番は無いんだー》
「埋め合わせはするさ。差し当たっては、美味しい食べ物だな」
《本当!? な、ならあたし、ステーキが食べたい!》
「みんなにも訊いておかないとな……よし、それをヤン君に命じようではないか」
シャー! とノリよく応えるヤン。
素材はいっぱいあるし、無くても生みだせるから問題なし……さて、いよいよ明日は最終戦だ。
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