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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー中篇 その16

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 イベントとして、ここにすぐ来れるのもあとわずかとなった。
 祈念者は集めた宝珠で強力な装備やスキルなどを手に入れ、少しずつ強くなっていく。

 その経験すらも『ザ・グロウス』の糧となり、対『メルス』の戦法が増えていった。
 その中に、いったいどれだけの固有スキルがあるのだろうか……嗚呼、実に怖い!


「ということで──“召喚サモン眷属ファミリア”!」


 本日は『月の乙女』とは行動を共にしていないため、再びメルスとしての活動だ。
 ただし、侵入は知られているようなので、見た目以外の情報は偽装しているが。

 誰が出るかな? とわくわくしながら魔本に魔力を通して召喚を行う。
 周りにバレないように、という条件を付けたので姿を誤魔化せる者が出てくる。


「──シャー!」

「……鳴き真似はしなくてもいいぞ。念話で話せばいい」

《呼ばれて飛び出て蛇蛇蛇蛇ーん! 明るいヤンデレことヤンちゃんだぞー! 今回はメルスにサプライズ、白いになったよー!》

「……あっ、蛇だからか。けど白蛇かー、幸運の象徴だったな」


 ヤンの人形としての種族は『無限蛇』の獣人なのだが、普通の蛇になることも可能だ。
 今は二十センチほどの長さで、龍の翼も双頭も見えていない。


《さぁメルス、あたしを撫でれ撫でれー!》

「あいよっ……こんな感じでどうだ?」

《ふふーん、もっともっとー!》

「分かった分かった、優しく撫でていくぞ」


 チロチロと舌を伸ばすヤンは、うっとりとしているのか目をスッと閉じている。
 蛇の表情を見分けられないが……ヤン個人というか、個蛇の表情なら分かるみたいだ。


《それで、寂しいメルスはどこに行くの?》

「このイベントの最後は、強制的に一つの場所で戦うことになるみたいだから、最後の観光をするんだ。だから、そのお供を呼んだわけだな」

《それがあたしだったと……ふっ、メルスもなかなか運がいいみたいだね》

「……運、ゼロなうえに凶運だけどな」


 凶運が幸運に転じていることは多いが、それって結局ステータスで強行突破し、因果を捻じ曲げているだけな気がするし。

 本来であれば死一択しかない選択肢を、選択肢完全無視で行動して誤魔化しているって感じだろうか……普通のゲームではできないまさにVRMMO特有の行動だよな。


「運はヤンに任せるよ。だいぶここに来て時間が経っているから、プレイヤーもここに順応している。……勝手に商売をやっても、揉めなきゃセーフみたいだし」

《あたし、何か食べたい! このままでも食べるのに問題は無いから早く早く!》

「そういえば……前は 暴風の中だったか。ああ、欲しいモノがあったらすぐに言ってくれよ。可能な限り、買ってみよう」

《おー、メルスの太っ腹!》


 こっちの世界でなら、俺は大金持ちだ。
 それを散財することは、経済を循環させること……つまりは善行になるわけだな。


「それじゃあ、行ってみようか」

《おー!》


 たとえるなら、お祭りデートって感じか?
 実際には違うかもしれないが、まあ傍から見たらそう思われないのは間違いない。

 少なくとも、肩に蛇を載せている男を……その蛇相手にぶつぶつ呟く奴を、マトモな人とは認識できないだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 屋台や露店は当然出ているし、金や宝珠を消費した物は建物をレンタルできた。
 ここに定住することはできないので、あくまで占有するのが限界だ。


《あっ、あの肉美味しそー!》

「ん? ああ、そうだな……一つくれ」

「…………あ、ああ」

《メルス、なんだか物凄く不審な目で見られてるねー。まっ、メルスにはあたしが居るから、気にならないし関係ないよね!》


 屋台から漂う香りにヤンが釣られたので、金を払ってそれを購入する。
 肉に果物の果汁を使ったタレを塗って、焼いたという物だが……普通に旨い。


「いや、負けないぞ。ユラルに頼んで果物から厳選すればあるいは……」

《もう、メルス。祭りには祭りの楽しみ方ってのがあるんだよ。そりゃあご飯はメルスが作るのが一番美味しいけど、祭りで家から持ち込んだ物を食べる人なんていないでしょ》

「……それも、そうだけどさ」

《そうそう、気にしない気にしない。それよりもほら、あっちにまたいい匂いがする!》


 少し考えるのを止めて、そちらへ向かう。
 そこでは焼きそばを売っており、ここら一帯の屋台の中でももっとも多く祈念者たちが並んでいた。


「って、あれは……」

《んっ、どうしたの?》

「見覚えがあるヤツが店主をやっていてな。とりあえず、並んでおこうか」

《はーい!》


 待っている間はヤンとトーク。
 サブの思考では『俺』が持っていたスキルに関する情報(by解析班)を、一つひとつ確認していく。

 そしてしばらくすると、前に誰もいなくなる……料理スキルがあるので、完成も現実リアルより速いのだ。


「──って、アンタは!?」

「久しぶりだな。あれから盛況は……まあ、見ていた通りだと思う。ずいぶんと人気な店になったようで何よりだ」

「ああ、あんたのお蔭で品質の良い素材が手に入るようになった。おまけに腕のいい料理人もあそこにはいっぱいいる……なあ、何者なんだよあんた」

「……あそこに居れば、いずれ分かるだろうさ。それよりも、今の俺は客人だ。なら、やることは一つのはずだ」


 成長したはずだ。
 迷宮都市に行ったのだから、すべてが確実に上昇する……さて、お味はいかほどに?


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