1,286 / 2,518
偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー中篇 その15
しおりを挟む《……アア? なんでアレが動いてる》
とある世界のどこかの空間において、ソレはあることに気づいた。
自身の神気を含んで生みだされた一体の人形──新たな『超越種』が、封印から解放されて起動していることに。
《あらシーバ、どうしたの? ……って、そういうことね》
《レティスか》
ソレの傍に現れたのは、ソレをシーバと呼ぶナニカ。
レティスと呼ばれたソレは、自身の意識をシーバに向ける。
その世界において、容姿というものは有って無いようなモノ。
強いてたとえるのであれば、緑色をした球体のようなモノであろう。
そしてソレもまた、赤色の球体を模した姿である……ただし、少し澱んだ赤色の。
《『ザ・グロウス』の起動条件はいくつか用意していたけれど、本来ならもっと後だったはずよね? シーバ、何かしたの?》
《何もしてねぇから気になってんだよ。一番何かしそうなレティスが何もしてねぇってことは、条件がクリアされたってことか》
《失礼ね。私だって、ちゃんとした理由が無い限り祈念者に干渉なんてしないわよ》
逆を言えば、何かしらの理由を思い付けば平気で干渉すると口外に告げるレティス。
シーバはフンッと存在しえない鼻を鳴らして、冷めた声で話を続ける。
《シェリアが調べた情報だと、とっくにあの島から出ていきやがっていたからな……忌々しい老害どもめ!》
《たしかに、大神様の誰かが力を貸さなかったらこんな状況にはならなかったわね。だけどそれこそが現実で史実、あの子は上手く私たちから逃れただけよ。今回の起動も、もしかしたら彼かもしれないわね》
《…………『メルス』め》
すべての元凶、その名を呟く。
本来の計画は潰え、第二第三と立てた計画も上手く行っていない。
また、膨大な年月を要したメインの計画に必要な道具も──すべて奪われた。
《一号は消失、二号は喪失。そして、今回の三号……これで彼は倒せるのかしら?》
《アイツは……俺の神威に邪魔な存在だ。ならば俺は義のままに……アア? なんだ、これ……》
《シーバ、そろそろ休んだ方がいいわ。アナタ、調整ができていないわよ》
《……チッ、『超越種』が邪魔をしなければすぐに掌握できただろうに》
運営神は二つの神髄をその身に宿す。
その神髄が宿す概念が、人々にとって重要であればあるほど強大な力を得らえる。
シーバ──シーバラスが持つのは『義侠』と『真実』の神髄。
かつて存在した『真実』の神より奪い取ったソレを、己に宿したことで力を得た。
だがその神髄はシーバラスには上手く馴染まず、時折拒否反応のような感覚がシーバラスを襲う。
原因は適合率、そして『真実』の神の力を持つ『超越種』の存在。
すべてを掌握できない限り……シーバラスは永劫の痛みを味わい続ける。
《──どこに居るんだ、『救世』》
◆ □ ◆ □ ◆
のんびりとしていたのだが、突然リオンから連絡が入った。
《バレたのだ!》
「えっ、もうバレたの? まったく……だから悪戯はしない方がいいって言ったのに」
《違うのだ! そもそもあれはメルスが……なんて言っている暇はないのだ!》
せっかくのボケをあっさり処理されたが、それなりに急いでいるらしい。
まあ、このタイミングでリオンが直接伝えてくることなので、俺でも分かるけどさ。
「それで、どれがバレたの? 侵入、討伐、それとも……そもそもの偽装工作?」
《討伐なのだ。討伐そのものは隠せても、出現で条件を洗い直されてしまったのだ》
「ログを見れば、私が居たってことは分かっちゃうもんね。そっかー、索敵系も学習しているはずだし、すぐに見つかっちゃうかもしれないね」
《……それなのだ。いつの間にリソースを無駄遣いして、『超越種』などと大掛かりなモノを創るとは……まったく》
普通の神では『超越種』を創れない。
いちおう現人神である俺、そして神器から生まれた武具っ娘であろうと無理である。
だが、リオンたち運営神は膨大な力を秘めた上級神──そのうえで神髄を二つ持っているため、一度に扱うことのできる神気量も膨大なのだ。
そんな奴らが集まって力を合わせれば、新たな『超越種』を一体生みだせる……ただしかなりギリギリで、二体目を創造することはできないとのこと。
《本来は大神様が擬似神髄を生みだし、他の上級神たちが己の神威を籠めることで完成する『超越種』。それを補助なしで創るのであれば、相当な量のリソースを必要としたはずなのだ》
「ふーん、そういう仕組みだったんだ。その違いが力に影響することは?」
《そのための無限成長なのだ。初めから強くなくとも、最後には相応の力を得る……アヤツらに必要なのは過程ではなく結果なのだ》
「私を殺せればいいってことか……無力化とか、できればいいんだけどね」
クラーレたちが持ってきた情報の中には、彼女たちが撮影してきた会話もあった。
それを観たところ、絶対に殺し合わなければいけない奴には思えなかったのだ。
《……可能なのだ。だが、そちの背負う負担もかなり増えるのだ》
「うん、そっちは度外視していいから。救えるモノは救っていく──それが偽善者ってものだからね」
まずは試すべきだ。
レイヴンとは違う、可能性をたしかに残した相手との和解……いやまあ、可能なら会わないまま主人公候補たちが対処してほしいんだけどさ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる