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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー中篇 その15

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《……アア? なんでアレが動いてる》

 とある世界のどこかの空間において、ソレはあることに気づいた。

 自身の神気を含んで生みだされた一体の人形──新たな『超越種スペリオルシリーズ』が、封印から解放されて起動していることに。

《あらシーバ、どうしたの? ……って、そういうことね》

《レティスか》

 ソレの傍に現れたのは、ソレをシーバと呼ぶナニカ。
 レティスと呼ばれたソレは、自身の意識をシーバに向ける。

 その世界において、容姿というものは有って無いようなモノ。

 強いてたとえるのであれば、緑色をした球体のようなモノであろう。
 そしてソレもまた、赤色の球体を模した姿である……ただし、少し澱んだ赤色の。

《『ザ・グロウス』の起動条件はいくつか用意していたけれど、本来ならもっと後だったはずよね? シーバ、何かしたの?》

《何もしてねぇから気になってんだよ。一番何かしそうなレティスが何もしてねぇってことは、条件がクリアされたってことか》

《失礼ね。私だって、ちゃんとした理由が無い限り祈念者に干渉なんてしないわよ》

 逆を言えば、何かしらの理由を思い付けば平気で干渉すると口外に告げるレティス。
 シーバはフンッと存在しえない鼻を鳴らして、冷めた声で話を続ける。

《シェリアが調べた情報だと、とっくにあの島から出ていきやがっていたからな……忌々しい老害どもめ!》

《たしかに、大神様の誰かが力を貸さなかったらこんな状況にはならなかったわね。だけどそれこそが現実で史実、あの子は上手く私たちから逃れただけよ。今回の起動も、もしかしたら彼かもしれないわね》

《…………『メルス』め》

 すべての元凶、その名を呟く。
 本来の計画は潰え、第二第三と立てた計画も上手く行っていない。

 また、膨大な年月を要したメインの計画に必要な道具・・も──すべて奪われた。

《一号は消失、二号は喪失。そして、今回の三号……これで彼は倒せるのかしら?》

《アイツは……俺の神威に邪魔な存在だ。ならば俺は義のままに……アア? なんだ、これ……》

《シーバ、そろそろ休んだ方がいいわ。アナタ、調整ができていないわよ》

《……チッ、『超越種』が邪魔をしなければすぐに掌握できただろうに》

 運営神は二つの神髄をその身に宿す。
 その神髄が宿す概念が、人々にとって重要であればあるほど強大な力を得らえる。

 シーバ──シーバラスが持つのは『義侠』と『真実』の神髄。
 かつて存在した『真実』の神より奪い取ったソレを、己に宿したことで力を得た。

 だがその神髄はシーバラスには上手く馴染まず、時折拒否反応のような感覚がシーバラスを襲う。

 原因は適合率、そして『真実』の神の力を持つ『超越種』の存在。
 すべてを掌握できない限り……シーバラスは永劫の痛みを味わい続ける。

《──どこに居るんだ、『救世』》

  ◆   □   ◆   □   ◆


 のんびりとしていたのだが、突然リオンから連絡が入った。


《バレたのだ!》

「えっ、もうバレたの? まったく……だから悪戯はしない方がいいって言ったのに」

《違うのだ! そもそもあれはメルスが……なんて言っている暇はないのだ!》


 せっかくのボケをあっさり処理されたが、それなりに急いでいるらしい。
 まあ、このタイミングでリオンが直接伝えてくることなので、俺でも分かるけどさ。


「それで、どれがバレたの? 侵入、討伐、それとも……そもそもの偽装工作?」

《討伐なのだ。討伐そのものは隠せても、出現で条件を洗い直されてしまったのだ》

「ログを見れば、私が居たってことは分かっちゃうもんね。そっかー、索敵系も学習しているはずだし、すぐに見つかっちゃうかもしれないね」

《……それなのだ。いつの間にリソースを無駄遣いして、『超越種』などと大掛かりなモノを創るとは……まったく》


 普通の神では『超越種』を創れない。
 いちおう現人神である俺、そして神器から生まれた武具っ娘であろうと無理である。

 だが、リオンたち運営神は膨大な力を秘めた上級神──そのうえで神髄を二つ持っているため、一度に扱うことのできる神気量も膨大なのだ。

 そんな奴らが集まって力を合わせれば、新たな『超越種』を一体生みだせる……ただしかなりギリギリで、二体目を創造することはできないとのこと。


《本来は大神様が擬似神髄を生みだし、他の上級神たちが己の神威を籠めることで完成する『超越種』。それを補助なしで創るのであれば、相当な量のリソースを必要としたはずなのだ》

「ふーん、そういう仕組みだったんだ。その違いが力に影響することは?」

《そのための無限成長なのだ。初めから強くなくとも、最後には相応の力を得る……アヤツらに必要なのは過程ではなく結果なのだ》

「私を殺せればいいってことか……無力化とか、できればいいんだけどね」


 クラーレたちが持ってきた情報の中には、彼女たちが撮影してきた会話もあった。
 それを観たところ、絶対に殺し合わなければいけない奴には思えなかったのだ。


《……可能なのだ。だが、そちの背負う負担もかなり増えるのだ》

「うん、そっちは度外視していいから。救えるモノは救っていく──それが偽善者ってものだからね」


 まずは試すべきだ。

 レイヴンとは違う、可能性をたしかに残した相手との和解……いやまあ、可能なら会わないまま主人公候補たちが対処してほしいんだけどさ。


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