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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー中篇 その10

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 どこからともなく鳴り響く管弦楽団。
 そこに奏でられる艶やかな音色、聴く者すべての心を揺れ動かす神秘の楽曲。

 それこそが俺の魔導“旋律源永奏楽団”。
 無数のバフとデバフを生みだす音を奏でることで、戦況を大きく変えられるであろう長期戦用の魔導である。


「なんだよ……この耳障りな音は!」

「今のあなたにはそう聴こえるんだね。これは私たちにとっての福音、あなたにとっての鎮魂歌だよ。デバフ効果もばっちりだから、少しずつ弱くなっていくだろうね」

「ぐっ、んだよウゼェんだよ!」


 本来、そういった演奏系のバフは直接妨害することで阻めることが難点だ。
 しかし魔導によって奏でられているこれは幻聴であり、防ぐことは決してできない。

 たとえ音を遮ろうとしても、この魔導は相手の魂魄に直接振動を伝える。
 相手がどれだけ上位の存在であろうと、言葉だけは伝わるように……。


「レミル」

「ハッ」

「私は二つ目の魔導を準備するから、もう少し粘っていて。私が心配になるから、ノーダメで耐えきってね」

「お任せください」


 相手が邪神(偽)の使徒を宿している強者であろうと、俺は難題を押し付ける。
 それぐらいやってこその眷属であり、それ以上のことをやっているのが眷属なのだ。

 これまでは盾だけだった空飛ぶ装備に加えて、剣や槍などの武器が交じりだす。
 そのすべてが武技のエフェクトを発し、何かしらの能力を発動している。


「ようやく攻撃してくんのかよ。来いよ、全部吹き飛ばしてやるよ!」

「いいえ、これは攻撃ではありません。メルス様へ向かうあらゆる干渉を拒む。それがわたしの使命ですので」

「…………ならいい。全部壊してやるよ!」

「ですので──させませんよ」


 レミルは防御のプロフェッショナル。
 防御系の能力を無数に所有しており、どのような武器であろうと相手の攻撃を的確に防ぐことが可能だ。

 再使用時間リキャストタイムなどに関しても、防御系の武技に限定して一瞬で終わる能力を持っている。
 今回の演奏にはそれを縮めるバフもあるので、さらに短くほぼゼロだ。

 ここに本来であれば『拿掠』シリーズの効果で身力値を奪うことで無限に防御できるようになる……極悪コンボなのだが、今はそれができない縛り中である。

 レミルはそれでも粘り、防ぎ続けた。
 ダメージはいっさい受けていない、バフの一つ自動回復によって武技を発動することで戦線を維持し続ける。

 ──だが、さすがに限度があるわけで。


「くっ……」

「ほらほらほぅらぁ! さっさと退けぇ、俺はテメェを殺してぇんだよメルスぅ!」

「あっ、覚えていてくれたんだ。けどごめんね、今の私はメルって名乗っているからさ。その全然足りてない脳みそに新しく名前を覚えるのは難しいと思うけど、どうにか頑張って覚えてみてくれな──」

「テメェはさっきから、人をおちょくらねぇと会話できねぇよかよ!!」


 嗚呼、またやってしまったみたいだ。
 レミルに向けられた攻撃の数が増加し、武技の発動が足りなくなっていく。

 さすがに限界かな?
 レミル自身に傷はいっさい付いていないものの、武具の方の耐久度がそろそろ限界に達したことだろう。

 もう交代だ──それを知らせるために堅固な結界を構築して邪気の攻撃を防ぐ。
 レイヴンからすれば、思いだすだけで腹が立つ思い出の一つだな。

 それを証明するように、妖精サイズから妖女サイズに変身する。
 ……通常サイズに戻らないのは、過去とは違うという証明かな。


「レミル、お疲れ様。よく私のために頑張ってくれたね」

「は、はい……ですが、その、まだ完全回復には至っていない様子ですね」

「ううん、これだけあれば充分だよ。レミルのお蔭で、安全に回復できたんだよ……よしよし、ありがとうね」


 身長差がややあるものの、背伸びをしてレミルの頭を撫でてやる。
 嬉し恥ずかしの反応をしてくれるその姿にほっこりしながら、魔力を練り上げていく。


「ねぇレイヴン、私を殺すことはできないだろうけど……このままでいいの?」

「……何がだよ」

「あなたは傀儡、神の奴隷。記憶を失おうとその存在は複製されて、何度だって私と同じ存在を屠るために生みだされる。分かっているんでしょ? 自分の置かれている状況が、自由な立場じゃないって」

「そうなんだろうな……だが、それがどうした? テメェを殺すことも、そうじゃねぇヤツを殺すことも本望だ! 愚者を殺し、邪神様へ捧げることが俺のやるべきことだ!」


 目は澱んでいるが輝いてる。
 それは【矛盾】しているようで成立した、レイヴンが定めた遺志であり意志なのかもしれない。


「そっか、なら仕方ないね。私としては、私の信念に感動して争うことを止めてもらいたかったんだけど……そうはいかないか」

「当たり前だ。いいか、愚者。テメェがどれだけ力を持っていようが、どんな手段を取ろうが救えないヤツがいる。……いいか、死ぬ前にそれを覚えておけよ」

「ふーんだ、私は死なないよ。あなたを救えなくても、救える人はいっぱいいる。そんな人を救うために私は私で在り続ける」


 準備は整った、さぁ今度こそ終わりだ。
 魔力の純度を高め、発動できるだけの魔力の準備をして──宣告すつげる。


「魔導解放──“神風吹く果てなき死兵”」


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