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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー中篇 その08

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《──まだ時間が掛かりそうです。メル、どうしますか?》

《私も私で少し遊んでいるよ。今回だけは、私は呼んでもいけないから気を付けてね》

《分かりました。ですが、メルも無茶はしてはいけませんよ》

《はーい》


 なんて念話をした後に行動し始める。
 長期戦を行い──宝珠の乱獲を防いだうえで、痺れを切らした祈念者が放つ強力な武技やスキルを解析しようとしているのだろう。

 おそらく{多重存在}みたいなスキルを扱えるだろうし、ただの順番待ちが原因というわけでもないからな。


「──とまあ、そんなこんなで今の私を護衛してほしいんだよ」

「分かりました、お任せくださいメルス様」


 やる気に溢れるその女性は、背中から生えた白い翼をパタパタとさせている。
 握り拳を両手でギュッとしている仕草が、とても心にクる愛らしいアクションだ。


「レミル、よろしくね」

「はい!」

「……改めて護衛について説明するよ。この小さい状態を維持したまま隠れて、言っておきたい場所があるんだ。だからレミルには、その妨げになるものを防いでね」

「はい、委細承知しました」


 装備はプレゼントした『拿掠』シリーズではないが、『神鉄』を糸状にして編んだ服なので防御性能は高い。

 魔法陣を刻んだり、製作中に付与魔法を施したりといろいろとやっているため、売る場所に売れば小国ぐらいなら買い落せるぐらいの額になると思う。

 そんな風に言えば堅固そうに思える服ではあるが、もっと分かりやすい表現をするのであれば──ワンピースである。

 それも丈が短く、ヒラヒラの……うん、デザインした甲斐があるというものだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 称号『○○スレイヤー』によって、対応した種族のボスはだいたい解放されている。
 だがそれ以外にも、称号は対戦相手をいくつか解放してくれていた。


「そういえば、ちょうどアレが厄災だったっけ? なるほど、それならあなたが出てきても仕方が無いのかも」


 三つの称号──英霊・使徒・厄災を殺したことで得た『○○殺し』。
 厄災が偽者を意味しているのであれば、他の称号にも対応する存在が居るわけで……。


「ねえ、久しぶりだね──レイヴン」

「…………」

「あれ、覚えていないのかな? あなたの輝かしい邪神教徒ライフを終わらせてあげた恩人なのになぁ……」

「……覚えてんよ」


 その瞬間、膨大な力の濁流が放出される。
 レミルもその瞬間力を解放し、俺の渡していた盾を瞬時に装備した。

 ──『多重絶壁[アルメス]』、硬さだけなら神器と同等のレベルを誇る武具だ。

 そんな装備によって抵抗値を上げたレミルでも、若干の冷や汗が流れ出ている。
 なぜか強化されているレイヴンは、俺に向けて殺意の視線を向けた。


「ここはどこなんだよ、あれからいったい何があったんだよ…………なんでテメェは、まだ生きていやがるんだよ!」

「というか、よく私があのときの素晴らしい英雄様だって分かるね」

「分かんに決まってんだろ! 邪神様の加護は、テメェら愚者の嘘偽りなんか全部お見通しなんだよ!」

「へー、便利なんだね邪神って……そういえば、いいことを教えてあげるよ」


 あの頃から数十ヶ月も経っている。
 過去から変われていない彼のためにも、とても重要な情報を授けてやろう。


「あの邪神──偽物だからね」

「……ハッ?」

「『支配』の邪神でしょ? 実はね、あれはとある邪神が持っていた権能を奪って創られたんだよ。特に主体性もないし、その創った神様の言うことを訊くだけ……傀儡の神様ってことなんだよ」

「…………」


 権能でお察しの通り、リオンの権能を素地に創造された存在である。

 リオンが言うことを訊かない優秀な存在であったこともあり、こちらは意思を最初から持たない運営神にとって大変都合の良い悪役として扱き使われているのだ。


「……んだよ、それ」

「まあ嘘偽りを言っていないのは、自分で理解してくれるみたいだから言ってみたけど。もしかして……知らなかったの?」

「なんだよ、それ。ハッ、それがどうした。俺が邪神様を崇めるようになったのは、別に本物だからじゃねぇ、くそったれな愚者どもに知らしめるためだ──この世は悪によって成り立つんだってな」

「ふーん……偽悪者だったんだ」


 俺みたいに偽善を振り撒くのではなく、悪事によって何かをしたかったようだ。

 だがもう、すでにレイヴンは死んでいる。
 今の彼は亡者であり、現実においては何もできない仮初の存在でしかない。


「偽悪者だと? 何言ってやがる。テメェみたいなカス野郎と違って、こっちは真面目に世界を救ってやってんだ。むしろ、英雄とでも言われたいものだな」

「まっ、今のあなたって死んでるから英霊だけどね……」

「死んでる……か。そうだな、たしかに俺は死んだ。テメェのせいで邪神様の意志とやらは果たせず、あの国もそのまんまだ。全部仕組まれてたんだろ?」

「みたいだね」


 実際の世界では成功していたみたいだが、運営神によってそれは書き換えられた。
 彼らは何もできず、祈念者という不条理によって生を終えてしまう。


「……なんだろうな、不思議と頭に過ぎってくるんだ。このあとどうすればいいか、今の俺はそれに逆らえねぇ……逆らわねぇ。やりたいこととやるべきことが同じなんだ、わざわざ拒む必要がねぇ」

「ふーん、それってどんなこと?」

「簡単だ──テメェを殺すことだよ」


 その瞬間、どす黒い瘴気がこのフィールドすべてを包み込む。


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