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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー中篇 その04
しおりを挟む「生命力の致死到達を確認──:万夫不当:を起動」
一度死んだことがトリガーになったのか、偽者の戦闘力がはるかに高まっていく。
完全に個人を相手に使うようなものではないと思うのだが……その分、俺に期待してくれていると考えれば、少しは気が楽になる。
「俺の方の箱は、あっちとはたぶん逆になっている……つまりは死亡確定」
偽者を包む白い箱は、内部で死んだ者を蘇らせることができる箱だった。
では俺を包む黒い箱は? 先ほど言っていた名は“黒き穴昏き闇”……名前が白い方とは逆なので、なんとなく予想は付くだろう。
「たぶん、普通に使うなら不死鳥とかに対する策なんだろうな。けど、この場合は化け物退治のため……ってか?」
まったく認めたくはないが、世界を管理している運営神からすれば、俺は予想不可能な化け物なんだとか。
自分たちのやってきたことをことごとく邪魔され続けた結果、リソースを裂いて活動の妨害をしようとするほどだしな。
「負けるわけにはいかないわけだ──なあ、『無槍』よ」
俺の意思に呼応するように、召喚した透明な槍はキラリと輝く。
言いたいことはだいたい分かった……要するに、すべてぶっ壊すということだ。
「やろうぜ、『無槍』。お前とならどこまでもいける──“神突き”!」
「:武芸之才:」
夢現流武具術に登録された神殺しの武技。
その槍版を発動して、勢いよく刺突してみるものの──大盾に形状を変えた『模宝玉』モドキによって、それは防がれてしまう。
「いや、まだだ……夢現流武具術槍の型──“力槍・三叉破槍”!」
籠めたエネルギーによって槍の先が三つ又になる幻像が現れると、それぞれの部分から異なる属性の力が溢れだす。
元となる神の槍は属性がそれぞれ定まっていたらしいが、俺の夢現流武具術に収められたこの武技は、その属性をそれぞれ好きなモノへ変更可能だ。
籠めた属性はそれぞれ──火・水・虚空。
真ん中に注いだ虚空のエネルギーだけは、まだ解放しないように火と水が少し前に突き出ている……逆の『山』みたいな感じだな。
「行くぞ──“疾風突”」
宣言と共に纏いだす風の力。
敏捷力を高めて進むと、大盾を構えた偽者がそれをあっさりと防ぐ。
だが、火と水の力が影響を及ぼす。
温めたり冷やしたり、その急激な温度差によって本来は不壊でもある神器に、少しずつ耐久度という概念をもたらしていく。
「まだだ──伸びろ!」
短槍や長槍もあるのだから、当然長さの調節ができる。
本当の穂の部分を使っていた虚空属性を纏う部分のみを伸ばし、速度を付けて盾に捩じり込んでいく。
「──ッ!」
「おっしゃぁあ!」
初めはピキッという小さな音だった。
それはやがてビキビキという音になっていき……最後にそれは砕け散る。
神器が不壊なのは絶対に壊れないからではなく、壊しても直るから不壊なのだ。
しかしそれには時間が掛かるし──俺はその時間を与える気が無い。
「ついでに行くぞ──『殺せ』!」
「:即撃対応:」
「『降り注げ』!」
魔力を<久遠回路>で増幅させつつ、必要な魔力に余裕ができたら『無槍』へ回す。
極力エネルギーの消費は抑え、余剰分はすべてさらなる供給のために炉へくべ、増殖させていく。
相手は俺の動きを解析し、成長するAIのようなもの。
対応されることは想定済みなので、今はまだ手札を使い潰して時間を稼いでいる。
そして、一つ目の準備が整う。
「魔導解放──“普遍在りし凡人領域”!」
白も黒も呑み込む、半透明な空気。
両方を同時に潰すために消費した魔力は、俺の持つ魔力の九割を喰らった。
しかしそれだけの価値がある。
俺のオリジナル魔導によって、このフィールドそのものが完全に支配された。
「言って虚しいが、俺ってモブだからな。そのままの初心を保たないとって考えたんだ」
「解析……」
「できないぞ。あらゆるスキルが使えなくなる、そのうえで能力値の恩恵がいっさい無い状態になる……過去の低スペックな肉体を使うお前に、勝ち目ってあるのか?」
ちなみに、俺はいちおう筋トレしていた。
リーで能力値に偽装を施して1と0だけのステータスにすれば、いつでも環境を整えられたしな。
「全能力使用不可、状況確認……神気の行使による強制自爆──」
「だから無駄だ。前にも同じことをしたんだから、それも封じれるようにするのが当然だろう? 神にも通じる魔導を消しているんだから、そうなるに決まっているだろうに」
ただし、あくまで魔導名が示す通りモブ化するだけの魔導だ。
回復効率が人並みになり、動きが一般人ほどになるだけ……行使することはできる。
空間魔法……は使えないので、嵌めていた『挑戦者の指輪』の[アイテムボックス]を起動し、そこから異なる武具と魔石を大量に用意していく。
「この状況でステゴロなんてナンセンスなことはする気がないぞ。お前は圧倒的不利な状況で、ただ一方的に蹂躙されればいい。なーに、そもそも後腐れない勝ちなんて最初から期待していない……もうお前は用済みだ」
眷属による解析も済んでいるだろうし……また用があるなら呼びだして、もう一度叩き潰せばいいだけだしな。
──さて、フルボッコの時間だ。
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