1,272 / 2,518
偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー中篇 その01
しおりを挟むイベントが始まり四日目。
ずいぶんといろんなことがあったが……そこら辺は端折っておこう。
祈念者の中でも(俺が勝手に思っている)主人公候補たちが目覚ましい活躍を魅せ、好成績によってエリアを発展させていった。
その結果祈念者の生活環境は整い、万全の態勢で挑めるようになる。
そして恩恵は俺も当然あやかれるので……その一つを訪れていた。
「あ゛ーーー、ぎも゛ぢい゛い゛ーーー!」
体を包み込む温かさが心をも温める。
少々お高めの一人用の部屋なので、どれだけ声を出そうとクレームは付けられない。
「……ふぅ。回復速度も上がるし、主人公候補たちは本当にイイ場所を回復してくれた」
俺の居る場所、それは──『銭湯』。
火属性と水属性の魔物の欠片と宝珠を集めまくった結果解放されたらしいが……まあ、そこら辺の事情はどうでもいいか。
大切なのはそれを利用できるということ。
普通に金で入ることが可能なため、通常額以上を注ぎ込むことで用意されるプライベート版の銭湯を独り占め……なんてこともできるわけだ。
「ずいぶんと配慮が行き届いているよな。いつ聞いたか覚えてないけど、たしか有名人もやってるとかって話題になってたし……そういう所の対策か?」
いくら運営神が主導でやっているイベントとはいえ、そのすべてをやるような奴らではないのは最初に分かった。
つまりそれを補佐する存在として、GMや『運営』が協力している。
「まあ、運営神がやるんだからリソースの方も多めに使えるのか……リオンは間違いなく発狂しているだろうけど。そのお蔭でこうしていられるんだ、多少の我慢はしてほしい」
リソースがあれば、大抵のことは自在に行うことが可能だ。
しかし、第二回闘技大会以降そこまで過激なイベントが無かったのは、おそらくこのときのためだったのだろう。
「後半戦になって、何かしらの変化があるんだろうな。これだけだと、本当にただのプレオープンだし……いったい何をしてくるんだか、さっぱりだよ」
考え事はやはり風呂の中に限る。
現実と違って、こちらであればどれだけ入ろうとのぼせることはない。
たとえそうなっても{夢現反転}がある俺にとって、その状態はプラスにしかならないけれども。
「連絡を待つしかないか。俺の思い違いってのが一番うれしいけど、その可能性が一番低いのは俺がよーく知っているんだよな……」
凶運なのもそうなのだが、どうにも期待すればするほど裏切られる気がするのだ。
人の場合はそうでもないが、展開に関する運はことごとく悪い展開に流れる。
「よし、出ますか」
ザパァッと風呂から出ると、魔法を使って皮膚に付いた雫を取り払う。
ついでに生活魔法の“清浄”を行使し、汚れもサッパリさせてから個人用の銭湯から出て目的地へ向かう。
「ここ、だったっけ?」
神殿ごとに戦えるボスに違いがあるので、記憶した座標と間違っていないかを確認してから中へ入る。
内部で表記されるリストを調べ、目的の相手が居るかを確かめてから──そこへ飛ぶ。
◆ □ ◆ □ ◆
倒したことのあるボスという条件を満たさずとも、戦うことは可能だ。
一定以上の欠片を所持していたり、称号を持っていたりと……ティンスとオブリはそのパターンだったな。
俺の持つ称号は膨大で、『○○殺し』系も豊富に取り揃えている。
つまりは対応する種族の魔物であれば、大抵のボスとは戦えるわけだ。
「準備運動ぐらいにはなればいいが……」
風も吹かない広い草原の中で、その者は独り佇んでいた。
黒いジャージを着込み、現代のシューズを履く平凡な顔立ちの男。
──鏡で見ている相貌を持つソレが、ただただボーっと立ち尽くしている。
「前回は乱入だったし、中途半端だったのが気になってたんだよな。さて、どれくらいに強さだったんだ? ──偽物さん」
かつて『ディザスター』の名を与えられ、祈念者たちと闘ったイベントボス。
数千数万をたった独りで相手取るそのさまは、まさに厄災というべき存在だ。
「──って、ナックルに言われたけど。いやいや、そこまで異常じゃないからな」
実際、ティンスたち眷属プレイヤーによってこのボスは瀕死まで追い込まれていた。
決して倒せない相手ではない、ただ単に面倒なぐらいタフに設定されているだけだ。
「けど、これはお独り用にカスタマイズされているみたいだな……」
神眼が一つ、鑑定眼によって把握した情報がそれを教えてくれる。
というかボスって、人数によって多少能力値に変動がある……これは迷宮を管理していた頃に知ったことだ。
つまり、侵入者が多ければ多いほど迷宮守護者のミントは強化されていたわけだな。
「(運営神の寵愛)の効果か……人数に応じた超強化。なるほどなるほど、やっぱり来て正解だったな」
過去の亡霊ともいえる存在なので、スキルの奪取には確実に失敗するだろう。
しかし現象を読み取り、再現するのであれば(眷属なら)確実に可能だ。
「眷属へのお土産にもなるからなー。万能性は再現できているけど、今の縛りを設けた俺だからこそ勝てる……みたいな展開になってくれればいいけど」
勝率なんて未来眼でも分からない。
俺も『俺』も未来を変える力を持っているので、そこら辺は不確定になっている。
──信じられるのはこれまでの積み重ね。
せっかくなので、眷属パワーで倒してみよう……礼装に手を当て、そんなことを思う俺だった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる