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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー中篇 その01
しおりを挟むイベントが始まり四日目。
ずいぶんといろんなことがあったが……そこら辺は端折っておこう。
祈念者の中でも(俺が勝手に思っている)主人公候補たちが目覚ましい活躍を魅せ、好成績によってエリアを発展させていった。
その結果祈念者の生活環境は整い、万全の態勢で挑めるようになる。
そして恩恵は俺も当然あやかれるので……その一つを訪れていた。
「あ゛ーーー、ぎも゛ぢい゛い゛ーーー!」
体を包み込む温かさが心をも温める。
少々お高めの一人用の部屋なので、どれだけ声を出そうとクレームは付けられない。
「……ふぅ。回復速度も上がるし、主人公候補たちは本当にイイ場所を回復してくれた」
俺の居る場所、それは──『銭湯』。
火属性と水属性の魔物の欠片と宝珠を集めまくった結果解放されたらしいが……まあ、そこら辺の事情はどうでもいいか。
大切なのはそれを利用できるということ。
普通に金で入ることが可能なため、通常額以上を注ぎ込むことで用意されるプライベート版の銭湯を独り占め……なんてこともできるわけだ。
「ずいぶんと配慮が行き届いているよな。いつ聞いたか覚えてないけど、たしか有名人もやってるとかって話題になってたし……そういう所の対策か?」
いくら運営神が主導でやっているイベントとはいえ、そのすべてをやるような奴らではないのは最初に分かった。
つまりそれを補佐する存在として、GMや『運営』が協力している。
「まあ、運営神がやるんだからリソースの方も多めに使えるのか……リオンは間違いなく発狂しているだろうけど。そのお蔭でこうしていられるんだ、多少の我慢はしてほしい」
リソースがあれば、大抵のことは自在に行うことが可能だ。
しかし、第二回闘技大会以降そこまで過激なイベントが無かったのは、おそらくこのときのためだったのだろう。
「後半戦になって、何かしらの変化があるんだろうな。これだけだと、本当にただのプレオープンだし……いったい何をしてくるんだか、さっぱりだよ」
考え事はやはり風呂の中に限る。
現実と違って、こちらであればどれだけ入ろうとのぼせることはない。
たとえそうなっても{夢現反転}がある俺にとって、その状態はプラスにしかならないけれども。
「連絡を待つしかないか。俺の思い違いってのが一番うれしいけど、その可能性が一番低いのは俺がよーく知っているんだよな……」
凶運なのもそうなのだが、どうにも期待すればするほど裏切られる気がするのだ。
人の場合はそうでもないが、展開に関する運はことごとく悪い展開に流れる。
「よし、出ますか」
ザパァッと風呂から出ると、魔法を使って皮膚に付いた雫を取り払う。
ついでに生活魔法の“清浄”を行使し、汚れもサッパリさせてから個人用の銭湯から出て目的地へ向かう。
「ここ、だったっけ?」
神殿ごとに戦えるボスに違いがあるので、記憶した座標と間違っていないかを確認してから中へ入る。
内部で表記されるリストを調べ、目的の相手が居るかを確かめてから──そこへ飛ぶ。
◆ □ ◆ □ ◆
倒したことのあるボスという条件を満たさずとも、戦うことは可能だ。
一定以上の欠片を所持していたり、称号を持っていたりと……ティンスとオブリはそのパターンだったな。
俺の持つ称号は膨大で、『○○殺し』系も豊富に取り揃えている。
つまりは対応する種族の魔物であれば、大抵のボスとは戦えるわけだ。
「準備運動ぐらいにはなればいいが……」
風も吹かない広い草原の中で、その者は独り佇んでいた。
黒いジャージを着込み、現代のシューズを履く平凡な顔立ちの男。
──鏡で見ている相貌を持つソレが、ただただボーっと立ち尽くしている。
「前回は乱入だったし、中途半端だったのが気になってたんだよな。さて、どれくらいに強さだったんだ? ──偽物さん」
かつて『ディザスター』の名を与えられ、祈念者たちと闘ったイベントボス。
数千数万をたった独りで相手取るそのさまは、まさに厄災というべき存在だ。
「──って、ナックルに言われたけど。いやいや、そこまで異常じゃないからな」
実際、ティンスたち眷属プレイヤーによってこのボスは瀕死まで追い込まれていた。
決して倒せない相手ではない、ただ単に面倒なぐらいタフに設定されているだけだ。
「けど、これはお独り用にカスタマイズされているみたいだな……」
神眼が一つ、鑑定眼によって把握した情報がそれを教えてくれる。
というかボスって、人数によって多少能力値に変動がある……これは迷宮を管理していた頃に知ったことだ。
つまり、侵入者が多ければ多いほど迷宮守護者のミントは強化されていたわけだな。
「(運営神の寵愛)の効果か……人数に応じた超強化。なるほどなるほど、やっぱり来て正解だったな」
過去の亡霊ともいえる存在なので、スキルの奪取には確実に失敗するだろう。
しかし現象を読み取り、再現するのであれば(眷属なら)確実に可能だ。
「眷属へのお土産にもなるからなー。万能性は再現できているけど、今の縛りを設けた俺だからこそ勝てる……みたいな展開になってくれればいいけど」
勝率なんて未来眼でも分からない。
俺も『俺』も未来を変える力を持っているので、そこら辺は不確定になっている。
──信じられるのはこれまでの積み重ね。
せっかくなので、眷属パワーで倒してみよう……礼装に手を当て、そんなことを思う俺だった。
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