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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー前篇 その20
しおりを挟むそびえ立つ巨大な樹木。
屋久杉が幼木に思えるほど、広大で至大な樹木にはなんとなく心当たりがあった。
「──世界樹、なのか?」
《はい。正確には、世界樹の差し木らしいですよ。なので、あれは世界樹の枝です》
「……マジか。というか、これはペルソナの戦ったことのあるボスなのか」
《そうです。迷い込んだフィールドで、突発的に起きたクエストのボスでした》
念話を介してペルソナが情報を提供する。
迷い込んだということは、特殊フィールド内で起きたクエストなのか。
おそらくだが、場所さえ分かればその場所にはまだ行けるんだろうな。
見ただけで分かる、あの世界樹を人の身で伐り倒すのはほぼ不可能だと。
「それで、ボスはどんなヤツなんだ?」
《はい、それは……》
「──ッ! 来ます!」
ペルソナが答えようとした瞬間、光の速度で駆け抜けたシャインが何もない場所へ剣を振るった。
否、そこには何かが現れたのだ。
シャインはそれを察知し、剣でその不意打ちを防ぐことに成功する。
「これは?」
《ドリアード・ガーディアンという、ボスの先兵です。ボスは……あちらです》
「……あの根元に居る女性型の精霊か?」
《ドリアード・ユグドラシルガーディアンという精霊です。魔物ではありませんので、世界樹を害そうとしなければあちらから攻撃することはありません》
しかし、実際に攻撃はされている。
クエストを完全再現する必要は無い、あくまで戦闘を行わせることが運営神の目的なのだから、そこは調整すれば良い。
「シャイン、いろいろと調べたいからまず普通のドリアードをやってくれ。ペルソナの方は……シャインと自由に戦うか俺の補助をするか選んでほしい」
《えっ? えっ……》
「一度やっている相手だし、強要する気はない。ただまあ、知りたいことがあったら聞くから、そのときは頼むぞ」
戦闘経験があるのはペルソナだけなので、そこは固定だ。
しかしどういった心情で戦闘したのか分からないので、そこは選択させることにした。
すると念話を中断し、パクパクと口を動かしたのち──
「あっ、わ、わた、し、たた、かぃます!」
「そうか。なら、シャインといっしょにやるか? それとも……」
「い、ぃっしょ……です!」
俺をジッと見てそう言っているのだ……その意図ぐらいは、どうにか汲み取れる。
「まあ、補助の一環か。シャイン、そのまま倒せそうか?」
「はい! このシャイン、ご主人様の命とあらば神であろうと殲滅してみせます!」
「よろしくなー。それじゃあペルソナ、俺たちは──あそこへ行くぞ」
「は、はぃ!」
ペルソナの職業は<天魔騎士>。
かつては【黒騎士】という固有職業だったモノに、天魔因子を流し込んだ結果発現した伝説級の職業だ。
擬似的に天魔の力を扱えるため、彼女は背中から翼を生やして世界樹の下へ向かう。
俺もパパッと“飛翔”を発動し、世界樹へ近づいていく。
「……眷属には劣るけど、それなりに可愛い容姿なのかな? 今回は殺す対象だし、そこはどうでもいいけど。ペルソナ、戦闘中は念話にしてくれよ」
《は、はい!》
「よし、じゃあやりますか」
俺が握り締めるのは小さめな両刃の斧。
林業で使われているような両刃斧に、芸術的な刻印が刻まれた逸品。
俺たちに気づき、追加でガーディアンを発注する本体。
魔力を高め、ブーストすることで速度を上げて──急接近し、斧を振るう。
「あっ、意外とイケそう」
「え゛っ!?」
「ああ、そういえば『断界』の斧だもんな。相手が世界でも問題ないか」
武器の名は今告げたように『断界斧』。
世界すらも真っ二つにできる威力を誇るが故に、その名を与えた神器である。
相応の力を籠めて振るったそれは、勢いよく内側へ食い込み傷跡を残す。
本体の方もなんだか苦しげな表情を浮かべているので、確実に入っているだろう。
「ペルソナ……ちなみにだが、世界樹にこんな感じでダメージを与えるとどうなる?」
《わ、分かりませんよ! というか、たぶん破壊不可能ですからね!》
「ああ、うん。怒ってる怒ってる、シャインの方も耐えられるかな?」
レベルとか関係なく、攻撃すると能力値が超向上するシステムだったのだろう。
しかし、発生条件を満たしていなかったからペルソナは知らなかったと。
──やべっ、ちょっと面白そうだ。
「ペルソナ、伐り倒すぞ」
《ほ、本気ですか?》
「失敗しても困らないしな……ペルソナ、悪いけどアイツを俺に届かせないようにしてくれ。魔法で補助は掛けておくからさ」
《や、やってみます……》
俺が昔使っていた“全能強化・不明”をペルソナへ施し、成長限界である250すら容易く超えるであろう強さを与える。
ついでにシャインを呼び、いっしょに護衛役として使う。
「すぅ……はぁ、すぅ……はぁ」
魔力と気力を練り上げ──生成し、精製することで完成するエネルギーをより高位なものへ昇華させていく。
そして、そこへ崇められる存在だけが宿す力を練り込むことで……それは完成する。
「行くぞ、断界斧──“破界伐採”」
俺が斧を横に振るった瞬間、物理法則を無視して斧が巨大化した。
大樹を伐り落とすだけのデカさを手に入れたその斧は、その奥深くまで侵入する。
「あと“次元干渉”、そして“大樹伐採”」
断界斧が持つ二つのスキルを発動したうえで、木を伐採する際に補正が入るというシンプルな武技を発動した。
「裏技的ゲームクリア。壁抜けで殿堂入りって、周回したいプレイヤーなら絶対にやっていたはずだよな……まあ、対策されるか」
波に乗っていたわけではないが、この方法でもいちおうはクリアとなるだろう。
ボスであるドリアードは木の化身──木本体を倒しても、それは討伐になる。
「さて、シャインとペルソナと合流しよう。欠片か宝珠をゲットしたら……偽装工作に専念しないと」
予めリオンが対策をしてくれてはいたが、それが今も正常に作動しているかどうかの確認などもある。
しばらくの間は……お休みだな。
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