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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー前篇 その19
しおりを挟む「んぅ……今は何時だ?」
「えっと、お昼?」
「だいぶ寝てたな……ありがとうな、スー」
俺を堕落させ、眠りに着かせていたスーの膝枕を惜しみながらも脱出し、体を起こす。
結界によって外部から隔離されていたこともあり、これまでの行いが祈念者たちにバレている様子はない。
「もう……行くの?」
「ああ、最大量まで魔力を回復できたし、早く行かないとまた遅れちゃいそうだからな」
「……ダメ?」
「うぐぅ……い、行かないとな。スーも俺が約束を破るようなヤツじゃないって、分かっているだろう?」
さすがは【怠惰】の魔武具。
どうやったら人が欲望に屈するかどうか、無自覚で分かっていらっしゃる。
ただまあ、これまでの相手と違って相手は怒らないだろう……しかしそれ以上に失望してくるかもしれないので、なんとしても間に合わせておきたかった。
「んぅ……なら、送っていく」
「そうだな。スーが居ないと、回復量もそう多くは無いし……結界魔法、頼めるか?」
「ん!」
結界魔法とはその名の通り、結界を操る魔法だ──では、結界とは何か?
点と点を結び、界を──すなわち新たな領域を確立することだ。
防御として結界を用いているのは、領域への不可侵性を利用するのがイメージしやすいからである。
だが、結界という概念にはより多くの可能性が秘められているのだ。
領域の主である発動者には、それを選び行使する権限が与えられている。
その一つとして挙げられるのは、結界を繋げることで行える擬似的な瞬間移動。
二つの結界の座標を知覚し、距離の概念を偽装することで行える空間操作。
「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってきます」
目的地を伝えると、スーはすぐに準備を整えて俺を送ってくれた。
本人はその場を動かずとも、俺の居る場所と目的地を結ぶだけでいい。
──つまり、結界転移である。
◆ □ ◆ □ ◆
「……っと、着いた着いた。時間通りの集合で何よりだ」
スーのように才能を持つ者、または俺のように座標と結界の存在を明確に把握していなければ行えない高レベルな転移だった。
もともと結界魔法は無魔法と空間魔法から派生したような魔法なので、可能と言えば可能なんだが……祈念者の中でこれができるヤツが、いったい何人いるのだろう?
「まあ、アルカはできなくてもできるようにするだろうけど……というか、魔導もそろそろできるようになるかな?」
確固たるイメージと、それを行おうという意志、そして魔力さえあれば使える魔導。
要するに我が強いヤツが使えば使うほど、強力になる世界を書き換える魔の極地。
それこそアルカにピッタリだろう。
魔力もそれこそ、今の彼女には祈念者何千人分と言えるほどの膨大な量があるし。
「──おっ、来た来た」
いつもは待たせている側の俺だが、今回は迎え入れる側だ。
それぞれ闇色の特徴を持つ二人組──片や髪色や瞳が昏さを放つ少女、片や光を通さない黒尽くめの鎧に身を包んでいる騎士。
そんな二人組の片方、容姿が見えている方が俺を見つけると、一瞬足元が昏く染まるエフェクトを発生させてこちらに駆けつけ……てこようとするのを、鎧騎士が捕らえた。
「……おい、何をする。ご主人様が目の前にいるんだぞ」
「…………!」
「ふんっ、周りなど知ったことではない。俺はすぐにあの人の傍に侍りたいんだ!」
「…………、………………」
鎧騎士は声を出さないが、少女はその騎士へ向けて返答するように声を出す。
少女の発言に関してだが……こうも叫ばれていると、俺も面倒だな。
「二人とも、集合」
『──ッ!』
周りを気にせず揉めていた二人だったが、俺の声を聞いた瞬間すぐにこちらへ駆けつけ直立姿勢で待機する。
それだけの動きができるのに……と内心でため息を吐いて心情をリセットしてから、改めて二人に挨拶を行う。
「シャイン、ペルソナ。お前たちを同時に呼びだしたのは、先ほどのやり取りを行わせるためだ……ぶっちゃけ、俺自身が処理をすると全部ご褒美と解釈するし」
「もちろんで──」
「『黙れ』」
「…………」
つい、英語ついでに:言之葉:を行使して黙らせてしまった。
その解除を行ってから、再び話を続ける。
「シャインはハーレムギルドの運営で忙しいし……ちなみにだが、最近は盛況なのか?」
「ご主人様には及びませんが……まあ、それなりにメンバーが増えています。古参のパーティーから後押しされて、今日という日を迎えることができました」
もともと高慢なイケメン野郎としてハーレムをしていたシャインだが、俺の{感情}が暴走したこともあって性別を変えられるようになった。
しかし、そんな今でもハーレムメンバーはそのままシャインの下を離れないし、さらなるハーレムを増やしている……なんだかどっちでもイケるメンバーになったらしい。
「……なんで好かれるんだろう。まあいい、ペルソナは身バレが危険だし。認識阻害のアクセサリーは使ってくれているか? ああ、念話で構わないから」
《あっ、はい。あんまり魔力を消費しなくて良いから、いつも使っています》
「理論上は超級鑑定と看破系スキルが数個分でも防げるけど、固有スキルがあるとどうなるか分からないから過信しないでくれよ」
《それは最初から心掛けています》
現実の肉体データをそのまま使ってしまった結果、身バレする可能性を生んだしまったペルソナ。
姿を隠すため、彼女は固有スキルを手に入れるほど必死だった。
要はイアのときと似たような案件だったので、対処も簡単に済んだわけだ。
イアよりも必死にならなければならないので、こちらもそれなりに本気で創ったけど。
「──さて、二人には俺がまだ戦ったことのないボスを選んでもらいたい。これまでのヤツらは自分で選んできたが……何か戦いたい相手とかっていたか?」
「ご主人様が選ぶ敵であればなんでも!」
《私も、どんな相手であろうと全力を尽くすだけです》
「まあ、そういうわけでだ。二人のどちらかがクエストとかで倒したことのある魔物と戦わせてほしい。まあ、俺は縛りがあるからあまり積極的には戦えないだろうし、実際に戦うのはお前たちだろうけど」
「分かりました!」
《ぜ、善処します》
シャインなんかは自分のハーレムメンバーとそれなりにクエストをこなしているだろうし、ペルソナもソロ活動の中で面白い魔物と戦闘しているかもしれない。
実際イアが戦っていたゴーレムもそんな感じだったし……いったいどんな魔物をチョイスするのか、今から楽しみだよ。
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