上 下
1,268 / 2,518
偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー前篇 その17

しおりを挟む


 ドロップした『悪魔種の宝珠』を握り締めて、俺がまず最初に取った行動は──逃走。


「あばよぉ──ぶぅっ!」


 しかし まわりこまれてしまった!

 いや、ユウとアルカにではなくアルカの設置した魔法に……である。
 再び拘束されるのだが──ただ一つも同じ術式が無かったため、解呪は行われない。


「学習ってものをしないわね」

「あはははっ……、さすがにそれはどうかと思うよ師匠」

「まあ、出口が分かっているならそこに罠を用意しておけばいい。いくつかプランはあったけど、まさか一番簡単なヤツに引っ掛かるとは……バカね」

「さ、さすがに弁論できないよ」


 いずれは回復できるので構わないが、よくもまあそんな多様な魔法を使えるものだ。

 隠していないのか、能力を共有する際のリストからその種類を把握できるのだが……その総数は、固有魔法を除いた数で二倍ほどとなっている。


「ずいぶんとたくさん魔法を持っているな。目指すは【大賢者】ってか?」

「そんな肩書きなんてどうでもいいわよ。たしかに、能力は欲しいけどね。ただまあ、それが無くてもあんたよりも私は強いけど」

「……だから、俺よりは強いさ。けど、偽善者には勝てないし勝たせない。それぐらいはもう分かっているんだろう?」

「いいえ。どんな手でも、偽善者を語るあんたを下せればそれでいい。だから私は眷属になったんじゃない」


 眷属の補助を受けていない俺であれば、いずれアルカも倒すことができるだろう。
 しかし『偽善者メルス』を相手取るのであれば、そういった補助を全力で受けることになる。

 その状態で敗北するということは、彼女たちを守るだけの力が無いということだ。
 それこそ俺だって、あらゆる手段を許容して敵を排除しなければならない。

 アルカが眷属になったのは、別に主殺しが問題にならないのにシンプルに強くなれる手段が目の前にぶら下がっていたからだろう。

 それが間違いとは言わないし、別に眷属をクビにする気もない……反抗的ではあるものの、ユウを介して頼み事をすればある程度聞いてくれるからな。


「いつまでも目標にしてくれるのは嬉しいんだが、もっと上には上が居るだろ? アルカももう俺は卒業して、そろそろ別のヤツを倒しに行くなんてのは──」

「私は! 私はまだ、あんたを倒してない。けど、もう私に勝負を挑んでくる大抵のヤツは倒している。倒せていないのはあんただけなんだから……絶対に諦めないわよ」


 俺への執着心が半端ないツンドラさん。
 デレの要素が皆無なので、ただただ俺に勝つためならどんな手段でも取りそうな狂気の魔法使いになってしまっている。

 顔を真っ赤にしてまで言うことなのか……怒っている彼女から目を逸らし、中立ぶっている僕っ娘ユウに近づく。


「なぁなぁ、ユウ。なんであんなに感情的になっているの?」

「……もう、師匠は本当に師匠だなぁ。どうしてこう、相手の気持ちを思いやってやれないのさぁ」

「人のことを鈍感主人公みたいに言いやがって……。あのな、俺だってアルカが俺に対して固執していることぐらい分かっているんだよ。ただ、その理由が分かってないだけだ」

「中途半端な理解って……なんにも分かっていないよりも厄介だよね」


 やれやれ、といったポージングが癪に障るのだが……どうやら俺が悪いみたいなので、デコピン一発で勘弁してやる。


「いったーい! い、いきなり何するの!」

「……なんとなく?」

「なんとなくで人を傷つけないでよ。まったくもう、これだから師匠は……」

「ははっ、悪いな……っとそろそろ時間か」


 イアとの逃走劇で把握していたが、三分もすれば自動的に帰還される。

 アルカが本来、なんのためにその時間を稼いだかは分からないが、これでもう……ってあっ──。


「ふんっ……!」

「「…………」」


 俺とユウのやり取りを見ていたアルカ。
 なぜか杖を構えており、膨大な魔力がそこに宿っている。


「ちょ、ちょっと待ってよアルカ。師匠はともかく、僕は狙わないよね?」

「お、おい、我が弟子。今こそ弟子として、俺を庇って死に戻るんだ」

「普段は師匠面しないのに、こういうときだけ偉そうにしないでよ! それに、死に戻りはしない方がいいって言ってたでしょ!」

「ええい、あのアルカを見てそれでも同じことが言えるのかよ! 見ろ、たとえ誰だろうと殺す気満々だろうが!」


 なぜだろう、俺とユウが揉めれば揉めるほど、より魔力の質と量が上がっている。
 強制排出で助かると分かっていても、自然とどちらが生贄となるかで揉めるほどだ。


「ばっ、師匠は分かっていないんだよ! だいたいねぇ、僕もアルカも──」

「ユウ。これ以上言ったら……あんたからにするわよ」

「…………」

「お、おい、買収されるな! それにお前、それだとまるで俺には最初から当てる気だったみたいじゃねぇか!」


 何を言おうとしたのかは謎だが、その弱みとこのアルカの怒りは同じ理由なのだろう。
 最終的にナースの虚空魔法並みに増大された魔力の塊が、臨界点に達している。


「──その身で反省しなさい」

「だから何を!?」


 その問いに答えてくれる者はいなかった。
 ああ、乙女心というヤツは、まったく理解ができないよ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...