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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー前篇 その15
しおりを挟む無事、『人形種の宝珠』を手に入れたイアと俺……まあ、無事だったのはそこまでで、それから追いかけ回す逃走劇が行われたが。
フィールドからの強制退場が仕込まれていなければ、俺たちはあのままずっと鬼ごっこのようなことを続けていたのかもしれない。
「──というわけで、俺用事があるから!」
「ま、待ちなさい!」
排出された瞬間に俺を見失ったイア。
当然その隙を突かないなんてことはなく、どうにか神殿から脱出して隠れることに成功するのだった。
「しかしまあ、召喚職であそこまで近接戦闘ができるようになったか……いずれは固有職化も夢じゃないかもな」
仮面のライダーとかによくある、不思議な力を武器に宿す……とかを従魔でやっていても違和感はない。
ある意味俺の『寵愛礼装』も、別の存在の力を借りるという意味では同じなわけだし。
「って、そういえば時間は大丈夫か? ……げっ、もう過ぎてる」
不眠不休で活動できるので、約束した者たちと時間をズラせば、どのタイミングであろうと共戦できると考えていたが……時間が足りない場合があるのを忘れていたよ。
すでに待ち合わせの時刻より少し遅れてしまっている──追いかけ回されたからだな。
「こういうときは報連相を忘れずに、まずは繋げないと……」
眷属なので、どこに居るかの座標はちゃんと分かっている。
ならば念話を発動し、弁明するチャンスも残されているわけだ。
《あーもしもし?》
《もう師匠、どうしたの? 隣で待ち人がだいぶ怒っているよ》
《お前もいちおう待ち人だけどな……えっとだな、イアに追い掛け回された結果少々遅れた。縛りで魔力をあんまり使いたくない、だからそっちまで急いでいく》
《あーうん、ちょっと待って。今こっちで待たされている人が繋ぎ──って、なにするのさ、本当のことでしょ!?》
なんだか分からないが、台詞から察するにアチラさんもだいぶヤバいのかもしれない。
──なんてことを思っていると、念話相手との回線が切れて異なる相手と繋がった。
《いい度胸ね、約束をしておいて守ることもできないなんて……》
《なあ、そんなに楽しみだったのか? だったら俺も悪いって反省するかもしれないと自分なりに考察の余地があるけど》
《──ハッ? そんなわけないでしょ。それより、要するに自分で転移できないから遅れるってことでしょ? だったらこっちで呼びだしてやるわよ。座標もちょうどあるし》
《マジか、さすがだなおい》
座標が分かっているなら、空間の置き換えで呼ぶことも可能ではある。
だがそれは、二つの座標を同時に識別しないといけないため……かなり面倒臭いのだ。
《念話を切ったら三秒後、こっちに呼びだすからね。しっかりと停まっていなさいよ》
《はいはい、よろしくお願いしまーす》
《ったく、本当にどうしようもないわね》
最後の部分はなぜか喜びの感情を少し漏らしながら、念話が切れた。
そして待つこと三秒ピッタリ──引っ張られる感覚と共に、視界が切り替わり二人の少女が眼前に現れる。
黒髪黒目、少し可愛い感じの中性っぽい見た目の活発少女。
金髪に天色の瞳、ツインテールが示す通りツンツンした態度が特徴な勝気な少女。
なぜかユウの頬が少し腫れて赤くなっているのだが、訊ねると面倒なことになると感じたのでスルー。
二人も何事もなかったかのように、俺の下へやってくる。
「アルカのお蔭で助かったね、師匠」
「本当、次からは気を付けなさいよね」
「イアとのやり取りが問題だったんだから、俺が改善をする余地はいっさいないと思うんだが……まあ、前向きに善処しよう」
「それって、もう考える気ゼロだよね!?」
「そうなのか? まあ、そんなことよりも早く行こうじゃないか」
細かいことを言おうとしても、どうせアルカに反論されることは分かっている。
ここは何も否定も肯定もせず、話を逸らしておくのが吉と出た。
──だが、神殿への道を少女たちが阻む。
「……待ちなさい。このままなぁなぁで終わらせようって魂胆じゃないわよね?」
「師匠らしいと言えば師匠らしいけど……いろいろと僕も訊きたいなぁ」
「おいおい、何を言っているんだお前たち。俺がいつそんなことを考えたというんだ。これはあれだ……その、あれだからな」
「「なに(よ)」」
「……“縮地”──ぶっ!」
もう説明するのも無理そうだったので、隙間を“縮地”の行使で逃げようと思った。
しかし、アルカにとってはそんなことも想定済みだったようで……結界によって俺の逃走作戦は失敗する。
「ったく、油断も隙も無いわよ。ユウ、コイツを拘束したまま連行できない?」
「んー、師匠って業値が0だから僕の能力も全然効かないんだよね。それなら、アルカの魔法で縛った方が早いと思うよ」
「……全力で抵抗されると、確実に失敗するのよね。まあ、見た感じ装備も言っていた通り縛りが入っているみたいだから、重ねれば拘束できるわ」
アルカは固有スキルである【思考詠唱】の創造者だ。
頭の中でイメージした複合した魔法を、すべて脳の演算処理能力だけで完成させる。
俺を縛り上げる不可視の鎖。
ガチガチに拘束されてしまったうえ、その先はアルカとユウの手に握られている。
絶対絶命な状況、俺はゴクリと息を呑む。
そして、思ったことを一言告げる──
「……お前らって、実はそういう趣味あったのか?」
「……ユウ」
「うん、アルカ。分かっているよ」
「おい、ちょっと待て。なんで急にひっぱり上げ──痛ッ! ちょっとアルカ、なんだよこれ痛いんですけど。説明、せめて構造を説明してくれよ!」
何が癪に障ったのか不明だが、俺の心配など完全無視で神殿へ連行する二人。
魔法の効果なのか体の内側から発せられる痛みと戦いながら、俺は二人の後ろを進んでいくのだった。
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