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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー前篇 その14
しおりを挟む「おーい、そっちはどうなってるー? 助けがいるなら貸すぞー」
「必要無いわ。……というか、全滅って異常よ異常。いったいどうやったの?」
「シャインがくれた【剣製魔法】だ。あんまり試してなかったんだが、今は省エネ重視でやっているからな……わりと便利だった」
「それでよくもまあ……ワタシも暇潰しに試したことがあるけど、それって明確なイメージが必要でしょ? 創ってみてもすぐに壊れたわよ」
それこそ、同調して構成材質を解明しておかなければ難しい。
だが俺にはそれを解決する方法があったので、あっさりと投影ができたのだ。
「いや、俺には{夢現記憶}があるから」
「……そういえば、そんなのがあったわね。ワタシたちにも貸しなさいよ」
「俺専用のスキルだからな。閲覧は眷属でもできるらしいが……ああ、もちろん編集済みのだけど」
「ふんっ、別に見ないわよ」
本にせずとも記憶を観ることができる。
それでも本にしているのは、眷属以外にもいちおう開示できるようにだ。
リーンで行われる研究や生産に、俺の記憶が参考資料として使われているらしいし。
「それで、そっちはどうだ? 従魔たちが必死に戦っているように見えるけど」
「ならその目で見た通りよ。土以外の属性のゴーレムはそっちで片付けてくれたけど、さすがに現れた瞬間に取り込むゴーレムの方は対処できなかったわ」
「……やっぱり、そっちのヤツの方が面倒臭かったんじゃないのか?」
「……舐めないで。これくらい、どうとでもなるわよ」
闇を操り感覚を狂わす狼、炎の羽を振り撒いて範囲攻撃を防ぐ鷹、光系統の魔法を巧みに操る狐、補助魔法で戦線を支える天使……図体だけはデカい前線で戦う龍。
「ねぇ、さっきからルビにだけ変な目を向けないでちょうだい。そんなにナースって子と戦ったのが嫌だったの……過保護ね」
「そんなんじゃねぇよ。ただ、今のソイツは進化的にどの段階なんだろうなって」
「それは……って、不味い!」
「ああ、はいはい──“剣器創造・吸収剣”」
記憶から呼びだした短剣を設計図に、堅固な剣を生みだして射出する。
ちょうどそこで行われていた、魔法を放とうとするボス傀児に命中した。
「どうする、俺も戦うか?」
「まだやれるわ──“追加召喚”!」
「へー、人形か……ソレの兄妹機か?」
「たぶんね。それで、もう少し素材があれば改良ができるからここに来たのよ」
ボスもイアが召喚した傀児も、人型の範疇に収まっている。
ボスは他の個体を取り込んでいるため一部異形化しているが、もう一体の方は意識しなければほぼ人のように思えた。
「周回するのか? それなら昨日のうちからやっておけばよかっただろうに」
「他の場所へ先に行っていたから、あの子たちが万全じゃなかったのよ。普通は、ちゃんと休息させるわ」
「……おい、人のことを普通じゃないみたいに言うんじゃない」
人形が戦線に加わったことで、少しだけ戦況は好くなった。
土属性である泥や岩、そして一部の金属を操るボスに対して、人形は砂を操っている。
地面を変形させたり、砲弾としてそれらの属性を撃ちだしたりとしているボス。
人形は大量の砂塵を生みだし、攻防の両方で扱っている……砂縛とか言うのだろうか?
「なあ、お前は闘わないのか?」
「思いのほか魔力供給に持っていかれているから、戦いたくても戦えないのよ」
「戦いたかったのか……なら、それこそ俺に任せておけ。イアを介してアイツらにも魔力が届くようにするから、思う存分戦ってくればいいさ」
「まさか……」
一度やっている様子を見せたので、すぐに理解してくれるだろう……と思ったのだが、なぜか俺から後退るイア。
ノアがやっているとき、そういえば怒っていたっけ……なんでだろう?
「ひ、必要ないから! ポーションもちゃんとあるし、わざわざ手を借りなくても──」
「消耗品を使わないで回復できる手段があるのに、それをやらない理由があるのか?」
「くっ、メルスのクセに正論を……け、けど嫌よ! あんたの力が無くても、やれるってところを──」
「問答無用──そいやっ!」
俺の魔力を消費するのはもったいない。
なのでここは工夫し、大気中の魔力を掻き集めて注ぎ込む方法を取った。
イアの魔力経路を傷つけない範囲で、その魔力をゆっくりと流し込む。
そして一時的に経路を開くように調整し、取り込める量を強引に増やす。
「~~~~~ッ!」
「あれ、失敗だったか? けど、魔力はたしかに補充されてるし……マックスになる前に使った方がいいんじゃないのか?」
「わ、分かってるわよ──“追加召喚”!」
従魔を増やせば増やすほど、その魔力消費量が増大する召喚魔法。
魔本がサポートをしていても、大量に召喚するのであれば下準備が必要なのだろう。
前の従魔特訓の時は、修練場が回復速度を高めていたので問題なかったのだが……ここは普通だし、仕方ないか。
「……これが終わったら、覚えてなさいよ」
「何をか、はまったく見当が付かないが……とりあえず気にしてはおくよ」
「──“龍ノ血潮”!」
龍魔法における強化魔法を唱え、提げていた片手半剣を握り締めて駆け抜ける。
まるですぐに終わらせて、次の用事を始めたいと言わんばかりに。
「あとで俺もやってみようかな? 最初の吸収を妨害したらどうなるか……気になるし」
俺も俺で、やることを見つけた。
そのためには……イアのするナニカから逃げ切らないと。
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