上 下
1,265 / 2,518
偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー前篇 その14

しおりを挟む


「おーい、そっちはどうなってるー? 助けがいるなら貸すぞー」

「必要無いわ。……というか、全滅って異常よ異常。いったいどうやったの?」

「シャインがくれた【剣製魔法】だ。あんまり試してなかったんだが、今は省エネ重視でやっているからな……わりと便利だった」

「それでよくもまあ……ワタシも暇潰しに試したことがあるけど、それって明確なイメージが必要でしょ? 創ってみてもすぐに壊れたわよ」


 それこそ、同調して構成材質を解明しておかなければ難しい。
 だが俺にはそれを解決する方法チートがあったので、あっさりと投影ができたのだ。


「いや、俺には{夢現記憶}があるから」

「……そういえば、そんなのがあったわね。ワタシたちにも貸しなさいよ」

「俺専用のスキルだからな。閲覧は眷属でもできるらしいが……ああ、もちろん編集済みのだけど」

「ふんっ、別に見ないわよ」


 本にせずとも記憶を観ることができる。
 それでも本にしているのは、眷属以外にもいちおう開示できるようにだ。

 リーンで行われる研究や生産に、俺の記憶が参考資料として使われているらしいし。


「それで、そっちはどうだ? 従魔たちが必死に戦っているように見えるけど」

「ならその目で見た通りよ。土以外の属性のゴーレムはそっちで片付けてくれたけど、さすがに現れた瞬間に取り込むゴーレムの方は対処できなかったわ」

「……やっぱり、そっちのヤツの方が面倒臭かったんじゃないのか?」

「……舐めないで。これくらい、どうとでもなるわよ」


 闇を操り感覚を狂わす狼、炎の羽を振り撒いて範囲攻撃を防ぐ鷹、光系統の魔法を巧みに操る狐、補助魔法で戦線を支える天使……図体だけはデカい前線で戦う龍。


「ねぇ、さっきからルビにだけ変な目を向けないでちょうだい。そんなにナースって子と戦ったのが嫌だったの……過保護ね」

「そんなんじゃねぇよ。ただ、今のソイツは進化的にどの段階なんだろうなって」

「それは……って、不味い!」

「ああ、はいはい──“剣器創造クリエイトソード吸収剣アブソーブ”」


 記憶から呼びだした短剣を設計図に、堅固な剣を生みだして射出する。
 ちょうどそこで行われていた、魔法を放とうとするボス傀児ゴーレムに命中した。


「どうする、俺も戦うか?」

「まだやれるわ──“追加召喚エクストラサモン”!」

「へー、人形か……ソレの兄妹機か?」

「たぶんね。それで、もう少し素材があれば改良ができるからここに来たのよ」


 ボスもイアが召喚した傀児も、人型の範疇に収まっている。

 ボスは他の個体を取り込んでいるため一部異形化しているが、もう一体の方は意識しなければほぼ人のように思えた。


「周回するのか? それなら昨日のうちからやっておけばよかっただろうに」

「他の場所へ先に行っていたから、あの子たちが万全じゃなかったのよ。普通は、ちゃんと休息させるわ」

「……おい、人のことを普通じゃないみたいに言うんじゃない」


 人形が戦線に加わったことで、少しだけ戦況は好くなった。
 土属性である泥や岩、そして一部の金属を操るボスに対して、人形は砂を操っている。

 地面を変形させたり、砲弾としてそれらの属性を撃ちだしたりとしているボス。
 人形は大量の砂塵を生みだし、攻防の両方で扱っている……砂縛とか言うのだろうか?


「なあ、お前は闘わないのか?」

「思いのほか魔力供給に持っていかれているから、戦いたくても戦えないのよ」

「戦いたかったのか……なら、それこそ俺に任せておけ。イアを介してアイツらにも魔力が届くようにするから、思う存分戦ってくればいいさ」

「まさか……」


 一度やっている様子を見せたので、すぐに理解してくれるだろう……と思ったのだが、なぜか俺から後退ずさるイア。

 ノアがやっているとき、そういえば怒っていたっけ……なんでだろう?


「ひ、必要ないから! ポーションもちゃんとあるし、わざわざ手を借りなくても──」

「消耗品を使わないで回復できる手段があるのに、それをやらない理由があるのか?」

「くっ、メルスのクセに正論を……け、けど嫌よ! あんたの力が無くても、やれるってところを──」

「問答無用──そいやっ!」


 俺の魔力を消費するのはもったいない。
 なのでここは工夫し、大気中の魔力を掻き集めて注ぎ込む方法を取った。

 イアの魔力経路を傷つけない範囲で、その魔力をゆっくりと流し込む。
 そして一時的に経路を開くように調整し、取り込める量を強引に増やす。


「~~~~~ッ!」

「あれ、失敗だったか? けど、魔力はたしかに補充されてるし……マックスになる前に使った方がいいんじゃないのか?」

「わ、分かってるわよ──“追加召喚”!」


 従魔を増やせば増やすほど、その魔力消費量が増大する召喚魔法。
 魔本がサポートをしていても、大量に召喚するのであれば下準備が必要なのだろう。

 前の従魔特訓の時は、修練場が回復速度を高めていたので問題なかったのだが……ここは普通だし、仕方ないか。


「……これが終わったら、覚えてなさいよ」

「何をか、はまったく見当が付かないが……とりあえず気にしてはおくよ」

「──“龍ノ血潮ブラッド・オブ・ドラグン”!」


 龍魔法における強化魔法を唱え、提げていた片手半剣バスタードソードを握り締めて駆け抜ける。

 まるですぐに終わらせて、次の用事を始めたいと言わんばかりに。


「あとで俺もやってみようかな? 最初の吸収を妨害したらどうなるか……気になるし」


 俺も俺で、やることを見つけた。
 そのためには……イアのするナニカから逃げ切らないと。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーを追放された雑用係の少年を拾ったら実は滅茶苦茶有能だった件〜虐げられた少年は最高の索敵魔法を使いこなし成り上がる~

木嶋隆太
ファンタジー
大手クランでは、サポーターのパーティー追放が流行っていた。そんなとき、ヴァレオはあるパーティーが言い争っているのを目撃する。そのパーティーでも、今まさに一人の少年が追放されようとしていた。必死に泣きついていた少年が気になったヴァレオは、彼を自分のパーティーに誘う。だが、少年は他の追放された人々とは違い、規格外の存在であった。「あれ、僕の魔法ってそんなに凄かったの?」。何も知らない常識外れの少年に驚かされながら、ヴァレオは迷宮を攻略していく。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

女神様にスキルを貰って自由に生きていいよと異世界転生させてもらった……けれども、まわりが放っておいてくれません

剣伎 竜星
ファンタジー
不幸が重なって失職した契約社員だった俺はトラックに轢き殺されそうになった子供の身代わりとなって死んでしまった……らしい。助けた子供が実は世界管理のための視察に来ていた異世界の女神様。俺の死は神様にとって予定外の死亡であったため、俺は地球世界の輪廻から外れてしまい、地球世界に転生できなくなってしまったとか。しかし、女神様の暗殺を防いだ俺はファンタジーRPGじみた剣と魔法とスキルのある彼女が管理している異世界に転生することになった。女神様から8つのスキルを貰って、俺は転生した。それから、17年。いろいろあったけれども俺は王立学園を卒業して、王立魔術大学に進学。卒業資格を得てから、腐れ縁に引きずられる形で王宮魔術師の試験を受けたのだが……。 現在、ストック切れるまで毎日12時更新予定です。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

2nd Life

seven
ファンタジー
急な事故に巻き込まれ、死んだ女の子が、2回目の人生を別の世界で生を受けるファンタジー! 目標はみんなが幸せになれる世界を夢見て色々な事に挑戦し影響を与えて行くそんなお話。 戦闘あり!頭脳戦あり! あざとい女の子のドタバタファンタジー! 会話多めで、進めて行きます! ゆっくりですが面白い作品にするので感想等どしどしお願いします。 マンガみたいな感覚で妄想しなが読んでくれるとありがたいです。 極力読みやすく文字少なめで作成してますので、文字が苦手な方も入りやすいと思います。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

異世界転移でのちに大陸最強の1人となった魔剣士 ~歌姫の剣と呼ばれし男~

ひぃ~ろ
ファンタジー
とある過疎化の進んだ地区で地方公務員として働いていた 橘 星那 《たちばな せな》高卒30歳独身、彼女無しが近くに住んでいた祖父の家に呼ばれ 蔵の整理をしたところ大きく古びた櫃のようなものを開けるとその中に吸い込まれてしまい きづいた時には見慣れぬ景色の世界、異世界へと飛ばされていた そこで数々の人々と出会い 運命の人に出会い のちにナンバーズと呼ばれる 大陸最強の13人の一人として名をはせる男のお話・・・・です ※ おかげさまで気づけばお気に入り6、000を超えておりました。読んでいただいてる方々には心から感謝申し上げます。  作者思いつきでダラダラ書いておりますので、設定の甘さもありますし、更新日時も不定、誤字脱字並びにつじつまの合わないことなど多々ある作品です。  ですので、そのような駄作は気に入らない、または目について気になってしょうがないという方は、読まなかったことにしていただき、このような駄作とそれを書いている作者のことはお忘れください。  また、それでも気にせず楽しんで読んでいただける方がおられれば幸いとおもっております。  今後も自分が楽しく更新していけて少しでも読んで下さった方が楽しんでいただければと思います。

処理中です...