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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー前篇 その13
しおりを挟む神殿から転移した先、そこは少々荒れた岩盤地帯だった。
俺は来たことのない場所なので、イアが自分自身で条件を達した場所なのだろう。
「ここは……?」
「いいから、さっさと付いてきなさい──戦はもう始まっているのだから」
「へいへい」
イアはそういうと、かつて俺に作らせた魔本を展開して従魔を召喚する。
漆黒の毛並みを持つ狼、紅蓮に燃え盛る大鷹、真っ白な毛並みの狐、美少女天使、図体だけはデカい紅玉色の龍。
……特に最後のヤツ、いつまでも睨んでいるならナースを嗾けるぞ。
そう心の中で念じていると、慌てて別の方向へ顔を逸らすのが実に人間っぽい。
「──ちょっと、ルビに変な目を向けないでよね。繊細なんだから、この子」
「何が繊細だ。ナース相手にあれだけ戦えていたヤツに繊細も何もないだろう」
「ナースって……ああ、あのときのイベントに出していた子ね。どうせなら、召喚してみたらどうなの?」
「アイツを召喚するのに必要な魔力……訊きたいのか?」
何でもお宝を鑑定する番組っぽく、下の桁からどれだけ魔力が必要なのか教えると──イアは同じ質問をしなくなった。
うん、神霊レベルの存在は召喚するのに尋常じゃない魔力を使うことが分かったよ。
「ほら、そんなこと言っている間に目的地に着いたわ。ここのボスは二段変形があるし、さっさと倒すわよ」
「俺、必要か?」
「いいえ。必要ならワタシ、ソロで活動できなかったわよ。そうねぇ、このあとの展開は察してもらいたいのだけれど──辺りの掃除でもやっていてちょうだい」
ゴゴゴゴッと揺れ動く大地。
やがて俺たちの前で地面が隆起し、そこからさまざまな種族の傀児が現れた。
同時に、どこからともなく地面とは異なる属性っぽい傀児も現れており、一時的にこのフィールドがゴーレムパラダイスとなる。
「こんなクエストがあったのか?」
「たしか、ゴーレムの研究家がどうとかそういうクエストだったわね。報酬は分かると思うけど、オリジナルのゴーレムよ」
「マジか、俺も受けたかった」
「無くなったからこそ、今こうして再現されているんじゃないの」
普通のゲームと違い、クエストに受注制限が存在するこのシステム。
当然だ、現実同様に同じ悩みを何度も抱え込むなんてことはないのだ。
ただ、それはそれで別の事柄でクエストが発生するということでもあるのだが……今は別の方法で受けられるのかもしれないな。
「それじゃあメルス、ワタシたちは真ん中に居るヤツを倒してくるわ」
「俺は周りを……って、普通逆じゃね?」
「何言ってんの? 強いヤツが面倒な相手をどうにかする、これが常識でしょ」
「お前の常識を押しつけないでくれ……やれやれ、しかし眷属の問題に応えるのが主としての役目だからな。やるだけやってみるよ」
イアたちは中央の辺りに居るボス個体の下へ……って、凄いな。
どうやらここのボス、他の個体を取り込むことで自身の能力を強化していくみたいだ。
「なるほど、面倒ってのはそのことか。つまり俺が全部処理しないと、あのゴーレムは無尽蔵に強くなれると……これ、無限湧きじゃなきゃいいけど」
質の高い武具を使えば、それこそ鎧袖一触の勢いで屠ることもできるのだが……武具を取りだすのにも魔力が必要だ。
そしてそれは、貴重なものほど高い──という縛りが共通で設けられているのである。
「さーて、せっかくだからアレを試してみようかな──“剣器創造・吸収剣”」
魔法の発動と同時に、明確なイメージを。
振り回すのにちょうどいい、巨大な大剣が手にあることを強く想う。
「……よし、できた」
俺が使ったのは【剣製魔法】。
かつてシャインがイベントのお土産に持ち帰って来てくれたスキルなのだが、その魔法は持ち主の性質を強く引き継いでいた。
俺の手に握られた無骨な大剣。
先ほどイメージした大剣そのものであり、そこへ魔法効果でもある身力値を吸収する効果が付与されている。
──そう、剣製魔法は剣を生みだす際に確固たる意志が無ければ発動しないのだ。
刃だけを生むのはできるのだが、魔法効果が付与される剣を生むためには、確実にその条件を満たさなければならない。
「もう一本──“削源剣”」
お次のイメージは短剣。
先ほどよりも手早く、大剣を握る手とは逆の手にギザギザの剣身を持つ剣が握られる。
剣の範疇に収まれば、どんな形状であろうと生成可能だ。
ただしそこに明確なイメージが無い場合、かなり耐久度が低くされてしまうけれど。
そういった部分も含めて、この魔法の持ち主が願ったことなのだ。
俺は会ったことないが……相当に剣に執着する者だったのだろな。
「まあいいや。それよりも今は──アレらを切り刻むだけだ」
大剣と短剣の二刀流、重心のバランスが崩れるのでまったく上手く振るえない……言わば見た目特化の戦闘スタイル。
しかしこの世界であれば、そんなカッコつけているだけの戦い方であろうとなかなか様になるのだ。
体幹スキルや剣術スキルの補正を受けることで、軸は定まりバランスが維持される。
同時に二刀流スキルの隠し効果として、異なる重心のアイテムを握ったとき、ある程度スキル側で肉体を調整を行う──つまりは、それなりに振るうことができるのだ。
「“斬々舞”」
武技であり、武技ではない──重ねに重ねた無数の武技の総体。
それを発動し、二本の剣にエフェクトを走らせ宙に軌跡を描く。
次の瞬間──傀児たちは次々と消滅した。
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