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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー前篇 その12

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 やっぱりというかなんというか、最終的に討伐した『傲慢亜竜プライドワイバーン』は未討伐だった。

 報酬として『竜種の宝珠』というアイテムが二つずつドロップしたので、それは疑う余地もない……どうやらエリアボスの場合は、『族』ではなく『種』で分けるらしい。

 初めはレアボス登場に何やら言いたそうなティンスではあったが、宝珠を二つも手に入れたので渋々文句は言わずに諦めてくれた。

 オブリも浮遊を使って楽しさを表現してくれたので、少々ティンスと共にほっこりしてしまったが……彼女自身には内緒だ。



 さて、場面は帰還後の神殿から出た辺り。
 うーんと体を伸ばすティンスは、元の姿勢に戻った後こう訊ねてきた──


「──それで、次は誰の所に行くの?」

「……あれ、知ってたのか?」

「知ってたも何も、最初から全員で決めていたことなんだから当然よ。どうせ忘れられるぐらいなら、事前に組んでおいた方が確実性が上がるって」

「お兄ちゃんって、とっても忙しいからね」


 彼女たちの台詞セリフに少々冷や汗をかく。
 そういえば、やけに強引な誘われ方もしてたんだっけ……他のヤツとの約束があったから、断れずにそのままやることになったし。

 そういう気はないんだろうけど、つまり俺は嵌められたってことか。
 うん、人聞きが悪いとか言われそうだが、あながち間違っていないとは思う。

 降参の合図として両手を耳の後ろまで挙げると、ため息を一度漏らしてから訊かれた情報に答える。


「そうだな……俺は──」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 街の中をぶらりぶらり。
 犯罪者にとって、鍋まで背負ってきたネギ付きのカモ的存在である俺は──目的地までの移動中、ずっと小犯罪に狙われていた。

 窃盗や強盗は朝飯前、祭りでテンションが上がっているのか刺殺までされてしまう。
 これが現実であれば確実に転生ルートに行くのだろうが、この世界なので違った。

 前に挙げた通りの方法で盗んだヤツらは自縄自縛だし、殺されそうになっても過保護眷属の防衛機構が作動するだけで、俺は何もせずとも勝手に解決する。


「やっぱり……これってやりすぎだよな」


 そして、次の刺客が現れたので同じ機構を作動させてその様子を調べてみた。

 襲い掛かる暗殺系武技を発動中の祈念者プレイヤー
 相手の肉体に<領域干渉>と<肉体支配>スキルが自動的に発動し、勝手に体内を操りとある魔法を発動する。

 ──無属性魔法“脱力解放ベント”。

 ガス抜きという読みをするこの魔法は、全身から強制的に身力値を引き出す魔法だ。
 抵抗しようにもできないため、体から急激に力が抜ける感覚を覚え──気絶する。


「いちおうは、吸い込んで溜まってしまった瘴気とかを吐きだすのに作ったんだが……こういう使い方になるとはな。自分で使った魔法じゃないし、最初は制御できないか」


 まあ、コントロールしようにもその力すら奪われているので、結局は放出する未来しかないのだが。

 そうならない方法は──身力値が豊富なヤツが、枯渇する前に適応するだけだ。


「っと、連絡しないと……あっ、来たか」


 これまでは水晶まで行って連絡しないと来てくれなかったのだが、最近は魔力を全部抜いた場合も来てくれるようになった。

 ──どうやら俺のやり方を、報告として認めてくれたらしい。

 それが運営神の判断なのか、それとも運営かレイたちの判断なのかは分からないが……便利なものは使っておくべきだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──遅いじゃない、何をしてたの?」


 前回同様、神殿前で少女が待っていた。
 ただし、今回の場合は独りだしその身体的特徴もまったく異なっている。

 首筋に鱗のようなものが見える、勝気な容姿をした蒼海色の髪を持つ少女だ。


「これを言われるの、二回目なんだけど」

「あら、そう? けどまあ、そっちの事情は関係ないわよ。理由、教えてもらえる?」

「別に構わないが……引くなよ」


 ちゃんと振っておいてから、眷属考案の防犯システムについて説明してやると……予想通りドン引きである。

 分かってはいたが、やっぱり──ほんの少しだけ、やりすぎていたみたいだ。


「死なないの、それ?」

「HPの放出は大事を取って九割に抑えてあるから大丈夫だろ。あと、俺が居なくなったあとでどうなっても関係ないし」

「……最悪ね」

「人を殺そうとした奴にまで、情けを掛けるほど偽善者は甘くない。行動には責任を取るべきだろ──俺は嫌だけど」


 眷属のための責任なら、いくらでも取ってやるけど……わざわざ自分の行動にとやかく言われたくない年頃なんだよ。


「もうこの話はいいだろ? どうしてお前までやる気になったんだ──イア?」

「最近、いろいろとあってね……ついなんとなく観たかったのよ」

「何を?」

「──やらかすとこ」


 誰がいつやらかしたのか、そう問い詰めてやりたかったが……その行動こそ、イアが求めているものなんだろう。

 グッと拳を抑え込み、ここは冷静に大人な対応を取っておく。


「俺がやらかすかどうかは別にしても、早く行った方がよさそうだな。イア、全員呼びだせるのか?」

「ええ、死なせはしないわ。自分の大事な家族みたいなものよ」

「そうかい。なら、さっさと行こう。このままだと日が暮れちまう」

「……誰のせいで遅れたと思っているのよ」


 分かっていることにいちいちツッコミを入れてはいけない。
 自分の非を認めないため、沈黙を貫いて神殿へ向かう俺だった。


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