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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー前篇 その09
しおりを挟む今回の縛りを分かりやすく纏めると──俺の異世界チートは燃費が悪いので無双できなかった件、みたいな感じである。
我ながらセンスの欠片もないサブタイのようになったが、適当なので仕方ないと思う。
一定量とは一秒に1の回復、人によってはそれでも充分に速いと思うかもしれない。
「最初のリョクの召喚、神殿の再築で大半を消費していたからな。結界でさらに枯渇し、入れ替えの転位で一度尽きた」
一度無くなると、なかなか元の状態へ戻るまでに時間が掛かってしまう。
深海の時と違うのは、周囲の魔力量が異なる点である。
「あのときなら、取り込んでいけばそれなりに回復できたけど……このエリアそのものはそこまで多くない」
それが普通とも言えるが。
街の中は生きとし生きる自由民が無意識に消費する魔力が漂っているが、このエリアはいちおう初めての場所とも言えるのだから。
誰も来たことのない新天地、それは裏を返せばいっさいの穢れが無い場所とも言える。
今回の場合、それは魔力だっただけだ。
「『堕落の寝具』があれば、それなりの回復も見込めたけど……チートを許すほど、甘くはないからな。“冥想”でどうにかせねば」
現実には『ヴィパッサナー瞑想』というものがあり、これは歩行瞑想ともいえる瞑想のやり方である。
足を動かし、辺りの変化を知覚し……その動作を何度も行うことで、心象をリセットさせる効果があるんだとか。
「──よし、ちゃんと回復量は増えたまま」
一歩進み、辺りの魔力を吸い上げて自身の保有する魔力として溜め込む。
自分から魔力を喰らいにいく──ハ°ックマン的なイメージである。
「ここで鍵なのはそのやり方ではなく、それが存在するという点そのもの。つまり、歩いていても瞑想はできるってことだ」
こう、イメージ的に瞑想とは座禅を組んで外部からエネルギーを取り込む……的な捉え方をされている。
しかし自由民にとって瞑想とは──目を閉じて魔力を感知し、取り込む動作だけを言うのであり、座禅は強制されていない。
ならば、瞑想の本質さえ掴んでいればやり方に固定概念などないわけだ……暴論だろうけど、今の俺にはそれが必要だ。
「身力値回復系のスキルって、そういえば全然持ってなかったな……戦闘中なら【憤怒】がそうだって言えたけど」
当然、そちらも初動は高燃費だ。
永遠に使える動力源だって、最初に膨大な量のエネルギーを注がなければ起動しないだろう……というか、材料費が異常だろうし。
「また反省点が増えたな。<久遠回路>があるからと、それで満足していたのか。他の方法で回復する手段も見つけないと……」
ポーション? ははっ、禁止中さ。
割合回復というものも、全回復というアイテムも存在しない……実はアレ、隠れた部分の説明欄に、最大でどこまで回復できるのかちゃんと書いてあるんだよ。
まあ、俺の魔力が分かりやすく一千万ぐらいだとして、一割魔力を回復できるという謳い文句のポーションを飲むとしよう。
……できるわけないだろ、そんなこと。
ポーションの効果は大きく分けて二つ──内部に籠められた魔力を吸収することと、外部の魔力を集めやすくすることである。
「一千万なんて魔力を籠められるポーションは……まああるにはあるけど作るのが面倒臭い。それに、集めやすくしてそれぐらい集めたら、間違いなく辺りの魔力が枯渇する」
最悪、生命体や無機物が宿す魔力まで徴収してしまう事態になるかもしれない……そうなると、たぶん死人が出ると思う。
閑話休題
次第にながら“冥想”にも慣れていき、他のことをやりながらできるようになった……瞑想という意味では矛盾している気もする。
隠蔽、気配探知、そして並列行動スキルを同時に起動させることで、その矛盾もどうにか解消していた。
「……並列行動も、そういえばもう一ランクぐらい上げられるのか? よし、帰ったらスキルを進化してもらおう」
派生しない正当な進化の場合、(多重行動)というスキルになる。
処理効率がよくなるらしいのだが、並列のままでも問題なかったのでそのままだった。
しかし、これから先の縛りも考えると戦力強化をしておくべきだ……というか、他のスキルも普通に進化させるべきなのでは?
「よくよく考えたら、眷属による固有スキル化が多かったからな。いちおう一般スキルもやっておくか……:開封:で失敗してもまったく困らないし」
何度でもスキルを復元できるスキル……間違いなくチートではあるが、この基となるスキルをくれたのは、誰でもない運営する神様なのでありがたく貰っておく。
「しかし……まだ誰もクリアしてないのか。一度目にやるとバレるんだから、さっさと終わらせてもらいたいよ」
アナウンスや初回ドロップで、先にクリアした者が居るかどうかが判明してしまう。
なので今は回復する時間を待ち、行動は誰かがどこかを解放してからにする。
「眷属を召喚するのは、魔本込みでも燃費が悪い。このエリアでの偽装費込みだから、仕方ないと言えばそうだけど……まあ、こればかりは節約できないんだよな」
というか、したくない。
眷属の呼びだすコストが高いのは、それだけ眷属が強大な証明でもある。
……胸を張ろうじゃないか。
たとえ俺自身の場合、その百分の一すら魔力を使わないとしても。
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