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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー前篇 その06

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「コードを解除していても、今回は肉体を残らせないか……まあ、そりゃそうだな。できたらアンデッド軍団が作り放題だ」

「さすがにそれは……ワレも嫌ですね」

「俺もだ。模造で劣化しているとはいえ、いちおうはリョクを再現している肉体だし。他の奴らには触れさせたくはない」

「主様……」


 リョクが斬り伏せた『魔子鬼王デミゴブリンキング』はそのまま光の粒子となり、そこには小さな宝箱だけが残されていた。

 先ほどまで森だった環境も真っ新な白い空間となり、ポツンと魔法陣が置かれている。


「そ、それよりも我が主! こ、この箱の中には何が入っているのですか?」

「ん? ああ、たぶんボスの素材を交換するためのアイテムだと思うぞ。俺の世界のゲームだと、そういうのが主流だ」


 念のため調べてから宝箱を開けると、予想通り『魔子鬼王』の素材そのものではなく、それを交換するために必要──という説明テキストが載せられた珠が入っていた。


「『魔子鬼王の宝珠』。これ一つで、いろいろな景品と交換できるみたいだな」

「……複雑な気分です。ワレが同朋たちと共に人族の街へ向かったのは、景品扱いされるためではありません」

「そうだな……ただ、どんな理由であれ契約に手を出したのはリョクだからな。当時はそれしか選択肢が無かったんだろうが、置き売るべくして起きたことだ。ある意味、魔本の奴らの気持ちが分かっただろう?」


 自分が知覚できない場所で、自分と同じ記憶と経験をしたナニカが殺される。

 何度も何度もそれを繰り返し、その果てに自分が居る……転生とかそういうレベルじゃない苦行だよな、マジで。


「ワレの場合、まだ続くのですが……」

「あー、さすがに妨害するとこれはバレそうだからな。すまんが割り切ってくれ」

「ハッ、畏まりました」

「その分、あとでたっぷり慰めるからさ」


 その言葉の意味を汲み取ったのか、ポッと手を頬に当てて顔を真っ赤にするリョク。
 ……元は男というか雄のはずなんだが、ずいぶんと仕草が可愛らしくなったものだ。





 前払いが欲しいというリョクに、たっぷりご要望の品を提供した後のことだ。


「さて、そろそろ行きますか──ん?」


 宝箱を開くだけで放置していた宝珠を回収しようとしたところ、予想はしていたアレが脳裏に響く──


≪ただいま、初めての解放が行われました。これにより、当エリア『神査の霊廃堂』のシステムに関する情報が開示されます≫

≪各地に結晶が配置されます。これを用いることで、死に戻り地点の変更や景品交換を行うことが可能です≫


 ……とりあえず、帰る時はしっかりとした隠蔽をしておいた方がいいか。


「リョク、たぶんバレるだろうからここで帰還してくれるか?」

「ハッ、了解しました!」

「続きはまた後でな」

「…………はいっ!」


 魔法陣を構築し、リョクを元居た場所へ還しておく──そして、彼女が居た証拠すべての隠滅を図る。

 時空魔法でこのエリアすべてに干渉し、過去の履歴を抹消していくだけだ。


「うん、これでよしっと」


 改めてやり残したことが無いかを確認し、魔法陣に乗って転移する。
 すると先ほどまで居た神殿に視界は切り替わり、辺りがざわついていることに気づく。


「おっと、もうバレてたのか。ナックルめ、偽装工作は任せていたはずなのに……まったくもって使えないな」


 幸い、結界が張ってあるので誰も入って来れないが……眷属をしている祈念者が来れば一瞬で破壊されてしまう。

 そうなる前に、新たな工作を行う──シンプルに身代わり作戦でもいいけど。


《──というわけで、あと五秒で場所を入れ替えるから支度をしてくれ》

《はっ? おい、ちょっと待──》

《3、2、1──0》


 俺とナックルの座標を入れ替える。
 再び視界が切り替わると、なんだか懐かしいメンツがこちらを見ていた。

 まあ、ナックルが慌てだしたので気になっていたのだろう。


「お、お前は……!」

「たしか……アストレアだっけ? ずいぶんとまあ、立派になって……あっ、まだ使ってくれてたんだな」

「お、おう、そりゃあまあ能力も便利で……じゃねぇよ!? なんで急に現れた──というかアイツをどこにやったんだよ!」


 軽快なノリツッコミをしてくれたのは、祈念者における【剣聖】でありそんな存在に憧れているアストレアだった。

 正直接点が無かったというか、他の大陸に行っていたので忘れていたが──記憶を入れ直して思いだす。


「すぐに連絡が来ると思うし、それでいいだろう? まだやることがあるから、これで失礼するぞ」

「いや、だから待てって! お前に一つ、言いたいことがあったんだよ!」

「……言いたいこと?」


 さすがにそこまで言われてしまえば、偽善者として立ち止まらないわけにはいかない。
 あと一秒ほどで発動していた転移をキャンセルし、『ユニーク』の面々の顔を見る。


「えっと……さっきのは俺だぞ?」

「んなもん、分かってる。始まってすぐにやらかすなんて、最近の奴らよりもお前の方が該当するだろ」

「やらかすなんて言うなよ。こっちだって、それなりに理由があるんだから。話はそれだけか? なら、もう──」

「だから待てって!」


 ……まだ言いたいことがあるのか。
 いや、わりと面倒だったから話を逸らした俺が悪いよな。

 うん、他の奴らも見ているし、そろそろ真面目に話すことにしよう。


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