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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー前篇 その05

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 思えば、初めてのレイドイベントが発生したころの祈念者の平均レベルとは、いくつほどだったのだろうか?

 俺は『分からず屋』な行動な結果、一度に膨大な経験値を得て種族レベルが最大となったため例外とするが、それ以外の祈念者たちは地道にレベルを上げていたはずだ。

 もちろん、無理ゲーにしないためにも彼らのレベルに合わせた難易度のイベントだったに違いない……たとえ俺のレベルを含めて平均難易度を割りだしていたとしても、レべル1の者も居たはずだからそれなりだろう。

 ──えっ、何が言いたいかって?

  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺とリョクは森の深部まで来ている。
 記憶通りそこには──『魔子鬼王デミゴブリンキング』が鎮座しており、現れた祈念者の排除をするために準備を行っていた。


「難易度は変わっていないみたいだな。あくまで、当時のリョクの再現でしかないと」

「…………はい」

「どうする、肉体に制限を掛けておくか? たぶんそのままだと、怒声を上げるだけでも気絶とかすると思うぞ」

「ワレながら不甲斐ない……ですが、仕方有りません。我が主、お手数ですがお頼み申します」


 あいよ、と答えて(実力偽装)を施す。
 そもそも[屍結産牙]を振るうだけで一掃できるような相手の弱さなので、そちらぶぐも変更しておく。

 ……それが嫌なのか激しく明滅しているのだが、リョクが意思を伝えると大人しく沈黙した。


「ちなみになんて言ってたんだ?」

「『過去との決別にはぜひ私を』、と。ですが、これでは決別も何もすべてが真っ二つになってしまいますので──こちらを」

「……あー、いや、それも止めとけ。代わりの剣を出してやるから」


 リョクが準備していたのは[牙鬼桜ガキオウ]という一振りの妖刀だ。
 結局、こちらもまだ[屍結産牙]には劣るものの、初期イベントのボス相手に使ってしまうとオーバーキルな武器であった。

 代わりに俺が取りだしたのは無骨な剣。

 切れ味もあまりよくはないが、とても固く振り回しても壊れることはない。
 何よりリョクの膂力で扱おうと、耐久度が通常の速度でしか減らないのだ。


「ありがとうございます、我が主よ」

「それじゃあ頑張ってくれ」

「はい!」


 本当なら装備品もグレードダウンさせるべきなのだが、さすがにそれは俺も心配になるのでそのままにさせておく。

 まあ、セット効果も身力の自動回復(極)と全攻撃への聖属性付与ぐらいしかないし、問題にはならないだろう。


『GYAGYAGYAGYAAAA!』


 存在を俺によって隠されていたリョクが現れ、『魔子鬼王』は怒り狂う。

 すぐに与えられた召喚能力で有象無象を大量に準備すると、いっせいにリョクの下へそれらを解き放つ。


「ふんっ、肩慣らし程度にはなるか」


 いかにも強キャラみたいな発言と共に、凄まじい速度でリョクが剣を振るう。
 普段使っている[屍結産牙]は最適な重さへ自動的になるので、そんな機能の無い剣を振るう今はそれを調整する必要があった。

 先ほども言ったが、相手は初心者レベルの祈念者を相手取るために用意されたボス。

 その配下もまたあまりレベルは高くはないため、まだ完全ではないリョクの剣技によってバッタバッタと倒されていく。


「どうした、もう終わりか?」

『GUGYAGYAGYAGYAAA!』

「先ほどから何を言っているのだ、お前は」

「おーい、リョクー。ソイツ、お前の魂魄が入ってないから空っぽなんだー。ただの複製体だし、やってることに意味なんてなーい」


 あくまでボスっぽい振る舞いをしているだけで、思考なんてしていない。
 成長するAI的なモノぐらいは搭載しているだろうが、まだ一度も戦っていないこの状態ではそれも発揮されないだろう。

 本来であればそれまでの人(魔子鬼)生を持つリョクの魂魄が宿ることで、もう少し賢いボスになったかもしれないが……リョクは俺の眷属なので、渡す気はさらさらない。


「どんどん倒してやってくれー」

「畏まりました、我が主──というわけだ、お前もワレなのであれば、大人しくその首を我が主に捧げよ」

『GUGYAAAAAAAAA!』


 挑発されれば激高、ぐらいのシステムでしかないのだろう。
 残った配下をいっせいに向かわせ、自身は背後で全力を解放し始める。


「先陣に立たず、後方にいるお前などワレではない。やはり過去との決別を図ろうなどと考えたワレが浅はかであったか……」


 これまで身体強化や武技、魔技をいっさい使わずにいたリョクだが──たった一つ、スキルを発動する。


「──“鬼人王化”」


 正確には、ずっと人化していたリョクがようやくそれを解除したと言うべきだろうか。
 姿はあまり変わらないが、額から鋭い角が生えてそこには膨大なエネルギーが内包されている。

 鬼系種族の角とは、外の魔力を自動的に肉体へ変換したうえで流して身体強化を行うような機関でもある。

 上位種は別の使い方もできるのだが……まあ、今はその説明はいいだろう。


「一撃で終わらせよう」

『GUGYAAA!』


 角で集めた魔力を鬼専用のエネルギーである鬼丹へ変換し、剣に注ぎ込む。
 ピシピシと内部から崩壊する予兆が聞こえてくるが、一発ぐらいなら持つだろう。

 迫ってくる配下、そしてようやく準備が整えて向かってくる血走った『魔子鬼王』。
 リョクはそれらすべてに向けて、終の刃を振るう。


「──“鬼哭讐襲キコクシュウシュウ”」


 リョクのスキル──{勇鬼流鬼刀剣術}が一つ、“鬼哭讐襲”。
 空間が捻じれ、物理法則が悲鳴を上げるそのさまは……亡霊が絶叫するような甲高い音として辺りに響き渡る。

 高密度のエネルギーの刃、それらは同様の叫びを向けた対象すべてに強要していく。

 空間の層と刃の二重構造の斬撃は、刃の部分をいっさい減衰させることなく魔物たちを断ち切り『魔子鬼王』へ迫る。


『GU──GYAAAAAAAッ!』


 剣を構え、抵抗の意を示した『魔子鬼王』だったが……なまじ鬼気を練っていたのが悪かったのか、これまでに抵抗していた配下たちよりも長い時間その斬撃がずぶずぶと肉体へ潜り込む苦痛を味わって──逝った。


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