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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目

偽善者とレイドラリー前篇 その04

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 あえて結界でレイドボスの登場を防ぎ、雑魚殲滅を条件に解放されるようにした──その理由は間違いなく俺にある。

 辻褄を合わせようと、理屈を考えた結果がそれなのであろう。
 当時の祈念者プレイヤーたちが、力を合わせても壊れなかった強固な結界。

 不満も苛立ちも覚えただろう……すべては偽善のためではあったが、そういった理由を運営側は理解していない。

 残されたのは事実のみ──祈念者が雑魚狩りを楽しんでいる間にレイドイベントが終了していたということ。

 そして、魔物を狩り終えるのとほぼ同時に結界が解除されたことだけ。

 故にレイドボス独占が起きた理由をどうにか偽装し、実際にあった現象をレイドバトルのシステムの一つに組み込んだのだ。

 水着イベントの能力解除システムも、似たような感じだったので間違いないだろう。

 ──まっ、俺には関係ないってことで。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 だって、システムに組み込まなくたっていいのに勝手に運営がやっただけである。

 俺という擬似祈念者でも出して、空間魔法で結界を生みだすシーンまでセットでやるのであれば……話はまた、別ではあるが。


「どうかされましたか、我が主?」

「いやなあ、リョクとの出会いは他の祈念者なしでやったなって。もし俺が団体さんを引き連れていたら、お前はどういう反応をしていたと思う?」

「……そうですね、まず警戒はしていたことでしょう。たとえ我が主が寛大なお方であろうとも、他の者たちがすべて同じ意志の下で動いているわけではありませんので」

「ああ、特に祈念者なんてある意味無法者の集団だからな……それは仕方ない」


 法の措置が効かない者たちという意味だ。
 スキルなんて大層なシステムがあれば、悪徳貴族並みに大半の奴らが頭を捻って工夫を凝らしてくるだろう。

 ──そして、だいたい隙を突いてくる。


「だからこそ、それを裁くヤツが居るんだろうな……っと、俺の記憶がたしかなら、そろそろなはずだろう」

「はい──来ます」


 前回空から舞い降りたのと違い、今回は徒歩での移動だ。
 そのため存在がバレてしまい、レイドボスから使いが送られてきてしまう。

 だがまあ、レベル差が尋常ではないため、すべて威圧だけで捻じ伏せられるのだが。
 すでに種族限界レベルを超えているのは、リョクの【忠誠】心あってこそだろう。


「どうされますか?」

「一匹威圧を緩めて、そのまま送り返してやれ。伝言係だろう、もともとは?」

「ハッ、畏まりました!」


 エリートそうなガタイのいい魔子鬼デミゴブリンに掛けられた威圧が少し弱められ、全身のさまざまな穴から液体を吹きだしていたその個体は、猛ダッシュでこの場から立ち去る。

 これでアポは取ったと言えよう。


「あとは少し待つだけだ……せっかくだし、ここで休憩といこうか」

「こ、ここででしょうか?」

「俺の威圧を広げておけば、勝手に遠ざかる問題なし。最悪、時空魔法でどうにかするからのんびりしてくれよ」

「か、畏まりました!」


 俺と眷属たちに食事は不要だが、日頃の楽しみと生物としての欲求は満たしておいた方がいいという意見の下──食事は行われる。

 食事中の会話はマナー違反ではあるが、この場にそれを問う者などいない。


「そういえばリョク、妖術の使い勝手ってどういう感じなんだ?」

「妖術は種族ではなく、個人の才能で使える技も大きく変化するようです。なので、我が主より才を与えられたワレは、とても恵まれていると思います」

「……鬼才なのはリョク自身だよ。具体的にどんな妖術があるんだ?」

「まず、五行に属する妖術。そして、天と地と称される妖術、あとはすべてが無のモノとして扱われます」


 五行は知っての通り、火などに加えて金が参加しているヤツだ。
 だが天と地か……なんだかインパクトが強いので、とても強そうに感じる。


「具体的にどういったものなんだ?」

「端的に申せば、光と闇です」

「……本当に簡単だったな」

「そのように求められましたので……何か、問題があったでしょうか?」


 リョク自身には何もないので、すぐにそうではない旨を伝えた。
 ホッとしたのか胸を撫で下ろした際、揺れるお山に注目してしまったのは内緒だ。


「天とは澄んだ陽の力、つまり光のことでございます。その逆の地とは澱んだ陰の力、つまり闇のことを表しております」

「単純に七大属性を理解しているこっちからすれば普通だが、『術』しか知らない者たちからすれば特別なことなのか」

「おそらくは……。ワレはあまり調べようとは思っておりませんゆえ、解析を行ってもらう際に確認した事柄でしかありませんが」

「けどまあ、リョクはそれを両方とも扱えると。うん、本当に優秀だな」


 種族性質として鬼才スキルを持っているうえ、リョク本人も諦めない根性と努力を怠らない気質の持ち主である。

 そこに努力が報われるような能力が与えられれば──そりゃあ強くなるのは必然だ。


「さて、休憩終わり。さっきの個体もそろそろ着くみたいだし……乗り込むぞ」

「ハッ、すべては我が王のご意志のままに」


 なんだか俺がやるみたいだが、実際にすべてを終わらせるのはリョクの役目。
 ──どんな結末になるのか、この目に焼き付けて眷属たちに見せてあげないと。


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