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偽善者と再憶のレイドイベント 十九月目
偽善者とレイドラリー前篇 その01
しおりを挟む見渡す限り、知っている地形は無かった。
前回、コピペグラフィックとツッコんだのがいけなかったのだろうか、それとも単純に手を抜きたくなったのか?
とにもかくにも、俺たち祈念者(+α)は運営神の送還陣によってイベント用のエリアへと転移させられた。
そこは巨大な遺跡、というか滅んだ街というか……壊れた大きな神殿である。
──ただし、事前説明いっさいゼロ。
「どうなってんだろう、これ……」「ここにレイドボスが来るのか?」「滅んでるから都市で戦闘か? 地形を先に調べておく必要があるな」「戦うかどうかにしても、たしかに場所の確保が必要だな」「俺が一番だ!」
とまあ、やる気に溢れる若者たちを中心にこの街の調査が行われる。
皆が皆、走り去っていく中──俺は自分で動くこともできずに魔力で感じ取れた光景から得られる情報を探っていた。
ただ、現状のままではできることに限度がある……そこで、合図を示して行動の自由を得られるようにする。
「あっ、はい──霊呪を以って命ずる、ここに出てきてください」
少女の呼びかけに応じて、ギュッと握られた甲に刻まれた印が輝く。
そこに記された強制召喚の術式が発動することで──どのような状況であろうと、俺は彼女の下へ現れられる……妖女として。
「ありがとう、ますたー。バレないように侵入するのって、やっぱり大変なんだよ~。さて、今回は変身を解いて~っと」
「メルス、不法入国みたいですよ」
「……ふぅ。前に事情は説明しただろう? 運営神だって、結局は全知全能じゃない。ここまで存在偽装をしておけば、どうにか潜り込めるってわけだ。けど、この方法はクラーレが居ないとダメだった……ありがとうな」
「……お、お構いなく……」
ジト目だったクラーレだが、感謝すると突然顔を赤くしてテンパりだした。
まあ、俺がこっちの姿で会うのってかなり久しぶりだし……いろいろあるのだろう。
「まっ、眷属に召喚させるって手もあるにはあるんだが……そっちは危険でな。俺が少し無茶をする方が侵入はしやすかった」
「そうなのですか?」
「そもそも眷属って、分かりやすく言えば不正な強化プログラムみたいなものだし。この事情を知っている関係者以外に知られると、アイツらも永久追放とかそんな感じになりかねん──その点、この召喚は合法だからな」
「犯罪の片棒を担がされる、わたしとギルドのみんなの気持ちにもなってください」
クラーレ以外のメンバーは、別の場所へ移動すると先ほど話していた。
彼女は俺をこちらへ呼ぶため、独りでまだ祈念者が来ていない場所を訪れていたのだ。
俺が堅固な結界を張っておいたので、新たに祈念者が来る可能性はほぼない……理不尽な主人公候補となると、突破できるかもしれないので絶対とは言えないけど。
「で、ですからですね、その……せ、誠意というものを示してもらいたいのです」
「ああ、うん……分かってはいるけどさ。もう少し上手い言い方ってないの?」
「トリック・オア・トリート!」
「まだ十月じゃないだろ、こっちの世界も現実も……はいはい、トリートトリート」
用意してあったお菓子が詰まった袋を取りだして、クラーレの手に乗せる。
両手いっぱいの袋に入ったお菓子の輝きを見て、おもちゃを買ってもらえた子供のように喜んでいるようだ。
「こ、こ……これを全部ですか?」
「お礼としちゃあ上出来だと思うが……それとも、いたずらでもするか?」
「くっ、なんと卑劣な……仕方ありません、一先ずは引き揚げらさせてもらいますよ」
「はいはい、みんなによろしくな~」
メルとしてではなくメルスとして接する場合、よくあることなので適当に対処する。
少々不満げな表情を浮かべ、だが後ろを振り返った途端スキップをして仲間の下へ向かう彼女に苦笑してしまう。
「──さて、ここからどうするかだよな」
運営神は説明も鬱屈なのか、いっさい祈念者に干渉することなく放置している。
まあ、神が迂闊に関われないことは分かるのだが、さすがに説明ゼロはどうなんだろうかと思う。
察するに、調べるまでがワンセットとかいうやり方にしたいのかもしれない。
誰かに貰った情報ではなく、己の足で向かい情報を集めることに価値があるとか……実にくだらない考えだ。
「それだったら、俺ってもう全然持ってる情報に価値が無いわけだし」
大半が眷属を介して知った情報だし、俺が持つ情報だって偽善をしたことばかり……本当に、なんだかなぁと思うほど情報価値に格差が生まれている。
「……誰の言葉だったかも覚えていないヤツに意味はないか。それよりも、この場所について知らないとな──“地形変革”」
これは<箱庭造り>の能力で、【箱庭作り】よりも広範囲に干渉できるうえ改変内容も相応に増えている。
今回は改変は何もせず、地形を読み取ることだけに集中すると……すべてを知れた。
「そういうことか……ナックルに連絡して、掲示板に情報でも撒いてもらおうか。面倒だが、プレイヤーをパシらせるならそれが一番効率がいいし……仕方ない、やるか」
仕方なく『挑戦者の指輪』を介し、連絡を取ることを決める。
ナックルが掲示板に情報を挙げる前に、どれだけのヤツがこのイベントについて知ることができるのかな?
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