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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と四色の使徒 後篇
しおりを挟む「──それで、02さんのこと以外にも何か話があるんだろう?」
「はい。本来であれば別の方に伝えてもらおうと思っていたのですが……せっかくの機会に、メルスさんと逢いたくて……」
「レイ……」
「メルスさん……」
「「「あー、ゴホンゲフンッ!!」」」
俺とレイが見つめ合って数秒、すぐにレイの姉妹たちによって間に亀裂が生じる。
引き裂かれた俺たちは「あっ」と息を互いに漏らし……よりいっそう、亀裂が広がる速度を高めてしまった。
「レイお姉さま、なに自分が一人で提案したみたいに言っているの!」
「す、少しぐらいイイじゃないですか!」
「……いいえ、こればかりはたとえレイお姉様であろうと譲れませんわ。これはワタクシたち全員で決めたことではありませんか」
「そーだそーだー!」
そこから始まる姉妹による口喧嘩。
物理的な説得になるまで放置しておくつもりだが……なんだかこんな展開を、前にも見たことがあるのは気のせいだろうか?
「たしか、シンクが会ったときだっけ?」
少しずつ、{夢現記憶}を使わずとも思いだしてきた──うんうん、そういえばそんなこともあったっけか。
あれから出会ったGMの数も増え、賑やかになってきたものだ。
GMに目を付けられる、『プレイヤー』としては避けたいはずなのだが……この世界では、逆に感謝したくなる現象である。
「……さて、そろそろ止めるか」
せっかくなのでと記憶を洗い直して時間を潰していたが……3VS1で不利な中、レイがかなり健闘しているらしく、まだ話し合いはそのまま続いていた。
さすがに長いという判断により、介入が行われる──もちろん、『(物理)』である。
閑話休題
本来であれば、神の使徒である彼女たちにダメージを与えることはできない存在。
ましてや仕えているのは運営神、受肉体を創造してもらっている祈念者であれば、攻撃すべてが無効化されてもおかしくはない。
だがまあ、俺は肉体を眷属たちによって改ぞ……良されているし、称号として神へ攻撃できる『神殺し』を所持している。
それより何より、俺自身がいちおう上級の神なので──普通に干渉できるのだ。
そんなこんなで、頭にできた小さなタンコブを庇う四人の美(少)女たちに、ここに偽善者を呼んだ理由を説明してもらう。
「──そうか、またイベントなのか……」
「はい。ただ、今回はこれまでのイベントとは異なり、完全に運営神様主導によって行われます。私たちにはアナウンスとトラブル対応の任が与えられていますが、おそらくはただのマスコット扱いかと」
「そうか……ちなみに、具体的に誰が主導かは分かっているのか?」
「ドミリオン様以外の運営神様が、全員可決のうえでリソースを行使しております……もちろん、スペーク様だけはドミリオン様との約束を守っておりますが」
リオンもボッチではないので、親友ならぬ『神友』が情報を回してくれる。
そのお蔭で、運営神云々の情報も手に入るようになったんだよな。
ああ、ちなみに約束とはリソース──共有分の神気の使用を、一定以下に抑えるというもの……維持管理費って、結構重要だから。
しかし、それでも一柱分……それだけではまだまだ、財政的な意味で苦しむだろう。
「だいぶ本気なんだな……それで、今回のイベントはいったい何をするんだ?」
「端的に申してしまえば──レイドです」
「レイド? もう海とか育成イベントのときとかにもやっていたじゃないか。ずっと前ならリョクとか過去の王都で」
「今回はそういったものではなく、運営神様が用意するレイドボスをどれだけ倒せるか、といったイベントになるようです。スペーク様の情報によりますと、エリアボスの強化個体は確実に用意されるそうです」
まあ、たしかにアレって一度きりだよな。
さらに言ってしまうと、北にあるエリアのボスなんて正式サービス開始日に屠られているわけだし……はい、俺が犯人です。
当時の弱者たちができなかった強者との闘いを、今回のイベントで行えるようにした、というわけか……。
なるほど、たしかに少しだけ面白そうな気がするよ。
視線をレイからシフト、後ろの方で不満げな少女たちへ向ける。
「──三人は何か知っていることは?」
「……いや、情報源はスペーク様だけだし」
「レイお姉様の言った情報だけですわよ」
「全部独り占めしちゃったしね……」
『……ハァ』
ため息を漏らす赤、青、緑の美少女。
金髪の美女は胸の上あたりで指と指をつんつんとぶつけながら、「だってだって……」と姉の威厳ゼロで言っている。
「──だって……メルスさんのお役に立てているって思ったら……不思議と口が軽くなってしまって……」
「レイ姉ぇ、惚れた相手にはトコトン尽くすタイプだよね。メルメル、優良物件じゃん」
「……そうだな。その、レイ……いろいろ教えてくれて助かった……その、ありがとな」
「~~~~ッ!? う、うきゅぅ~~」
可愛らしい声を上げて、顔を真っ赤にしたレイが倒れそうになる。
この事態をフーカが褒めている辺りから察していたのか、シンクとアオイが予めスタンバイしており──しっかりと支えた。
「はいはい、お疲れ様。これで知っていることは全部だから、この情報をどうするかはメルス次第よ」
「何があるか分かりません……御武運を」
「メルメル、気を付けてね」
「ありがとう。そうだ、また今度いっしょに逢おう。そのときは俺──お前たちに伝えたいことが……」
『フラグ!?』
短く単語だけでツッコまれてしまった……だがまあ、これまでも似たような約束を交わしてきたのだ。
いずれ縁が役に立つ、とある少年の能力を思い返しながら……そんなことを想った。
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