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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と赤帝の墳墓 その09
しおりを挟むまあ、ウィーの指輪は目覚めないくせに、そういうお節介だけはしてくる神々の祝福が宿っているいつものヤツだ。
説明しても気にせず、普通に付けてくれたので……うん、そういうことなんだろう。
そんな指輪なのだが、これまたピーキーな能力を宿していた。
その力を解放するべく、ウィーは指輪を心臓の辺りに当てて──告げる。
「──“赤丹解放”」
赤丹と呼ばれたエネルギーが、ウィーの中で生成され始めた。
巡るその力は灼熱の気を帯びており、少しずつ彼女の肉体そのものが熱を発していく。
やがてその熱が全身を巡り切ると、ウィーの髪と変化が生じる。
紅の髪は燃え滾る真紅となり、そこから本当に火の粉が舞い散っていく。
「──赫炎剣」
その熱量を剣に籠めると、ウィーの家に伝わる王剣は軍刀のように真っ赤に染まる。
超高音で熱されたその剣は、存在するだけで辺りの温度を高めていった。
『なんだ、その力は……』
「そこの男が創った力だ。詳しくは私も知らない……訊いてみるか?」
『…………』
てっきり訊いてくると思ったのだが、なぜか『赤帝』は脅迫してこない。
いやいや、お前はそこで情報を吐け的なことを言うタイプの人間(?)だろうに……。
そして無言のまま、握り締めた剣を振るいウィーの下へ──配下を向かわせる。
さすがに闇雲に突っ込むほど冷静さを失ってはいないようだ。
「これを使っている間、私はあらゆる行動に熱を伴なわせることができる。また、気功の扱いにも補正が入るため、こういったことも可能になる──“堅気功”」
本来であれば、ただ気を纏った部分を堅固にするだけの武技。
だが今は赤丹を練り上げている……灼熱の力を帯びたそれは、通常よりも高い堅さを手に入れた。
配下の死者たちはウィーに攻撃を行う。
しかし触れた瞬間、二択を問われる──堅さに負けて折れるか、その熱量に負けて融けるかのどちらかを。
『なんだと──っ!?』
「あまり時間は掛けたくない……すぐに貴公の下へ向かおう──“開牙”、“隼鹿”!」
『なんだ、その武技は!』
「──リュキア流獣剣術だ」
絶対に知らないであろう、その名を告げるウィー。
同じ師を仰ぐ者として、その宣言はとてもカッコイイものだと思った。
放たれた斬撃を防ごうと構える配下たちだが、今度は選択の余地なく──切断される。
隼の速度と鹿の角による貫通を再現したその武技は、灼熱の力を受けることでより強力な一撃として相手を地に伏せた。
「ヒュー。ウィーさんカッコイイ! これならティル師匠にも顔向けできるだろ! いやまあ、再練習はされるだろうけど」
「どこか問題があったのか?」
「いや、絶対言うだろ……全部斬れって」
「ああ…………たしかに」
何でも斬れちゃう我が師匠は、俺の知っている中でもっとも剣の頂に近いお方だ。
それは剣の性能云々ではなく、本人の才能だけでやっていることであり……棒切れ一本であろうと、このようば状況を容易く乗り切るような方である。
「まあ、全部斬ったら継承させられなかったし。そもそも死んでも迷宮核があればたぶん復活していたから問題ないだろう。ウィー、もう終わらせてやれ」
「そうだな……いつまでも貴公の口撃を浴びせられる姿を見ているのも労われない」
「? まあ、継承させればいいんだし、やり方はどうぞご自由に」
「そうさせてもらおう」
履いている軍靴のような物で地面を踏み鳴らし、一歩一歩『赤帝』の下へ近づく。
何やらぶつぶつと呟いている『赤帝』は、ウィーの接近に対して剣を握り締める以外の対応を行わない。
「終わりだ。大人しく継承の儀を受け入れるのであれば──」
「おーい、ウィー。バックステップ」
「……何かあるのか?」
そう訝しげな表情を浮かべながらも、しっかりとこちらへ下がってくる。
俺は眷属には嘘を吐かないので、そういう部分は信用してもらえている……と好いんだけどな。
「すぐ分かる──ほら」
『──限解除、全エネルギーを消費せよ。我が迷宮よ、今こそこの俺に力を!!』
「……なっ?」
仕様が違うのか、DPではなくエネルギーと言っているな。
まあ、要するに迷宮運用分のポイントを全部消費して、自身の強化に回しているのだ。
「あれが火事場の馬鹿力ってヤツだな。けど力だけじゃなくて脳みそまでバカだよな。この場さえ脱せられればあとはどうとでもなるとでも思っているのかもしれない。そんなこと絶対にないのに……プークスクス」
「だから、止めてやらないか……」
『ギザマダァアアア! ギザマガイナゲレバゴンナゴドニバァアアアアア!』
「やれやれ、人に当たるのはよくないって教わらなかったのかよ。だいたい、俺はお前の邪魔になるようなことをそもそも一度もしていないって理解しろよ。ただ迷宮を効率よく攻略したり、中に居た奴を救出したり……」
改めて考えても、その行為のどこに問題があるというのだろうか?
ウィーは止めろと言っているが、これだけは伝えておこう。
「お前が思うそれって──全部、自業自得でしかないな、マジで」
『ア゛ァアアアアアアアアアアアアア!!』
「えー、煽り耐性低すぎない?」
「貴公は、貴公の才についてもっと知っておくべきだろう」
発狂モードで迫る『赤帝』。
武技の発動すらない、ただ強化された肉体で近づき俺を断とうとする斬撃。
そこにウィーがため息を吐きながら近づくと、構えを取って武技を発動する。
それは、かつて過去の映像でもとある男が使っていたもので──
「──“極斬撃”!」
父親と同じ必殺の一撃を以って、帝政を終わらせるは亡国の姫。
斬り裂かれた『赤帝』──否、元『赤帝』から零れる淡い光。
その温かな光は彼女へ吸い込まれていく。
「……あーあ、斬っちゃったよ。どうせなら生かさず殺さずで使っていこうと思ったのにさ。まあ、継承をできたならいいさ──おめでとう、ウィー」
「メルス、貴公のお蔭だ……先ほどまでの所業については、少々眷属間で話し合った後に処置を決めることになりそうだが」
「え゛っ!? 俺、何かやっちゃったか?」
「自覚を、まずはするんだな」
そして、この世界に新たな『赤王』が誕生するのだった。
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